「一人と一匹」
「まったくなってないなぁ。主は…。みすみす目の前でれむを見失うとは」
「………………む」
先ほどからカフェで合流したばかりの夜斗にグチグチと責め立てられ、双葉は顔を顰めたまま苦いコーヒーを一口喉へ流し込んだ。
ちょうど調べものを終えてれむの姿を探していたところ、ちょうどれむが見知らぬ若い男と向かい合っている場面に遭遇した。
すぐに駆け寄ったが、二人の姿は文字通り目の前まで迫ったところで消えてしまった。
大通りともあって、疎らではあるがそれなりの通行人り目がある中で、自然に二人は消えてしまった。
最後に見たれむの心細そうな顔が今でも目に焼き付いて離れない。
「……で、これからどうするつもりだ。ワシも希州の事で手一杯だというのに。主はほんにぼんやりしている」
「……別にお前の手は借りるつもりはない。春日君は私が探し出す。お前お前でこれまで通り黒崎さんの行方を追えばいいだろう」
苛立った顔つきで双葉はそう吐き捨てた。
それを見て夜斗はやれやれと肩を竦める。
「そこが子供だというのに……。まぁよいわ。ワシとしてはその主が見たという若い男が気になる」
「あぁ。あれは確かに妙な気配の男だった。……気配の種類でいうとお前の気に近い」
「何?」
夜斗の目が鋭く光った。
双葉はじっと思考の渦を手繰り寄せるように眉間に力を込める。
「それは人ではないという事か?」
「恐らく……。断定は出来ないが、それに近いものである事は確かだ。あの気配……前にどこかで……」
「?」
あの男を見た時、双葉は確かに何かを感じた。
だが、れむがいない事への焦りなのか、それが何なのか考えが断片的に散ってなかなか答えにたどり着けない。
「これ以上は私の中でもう少しまとめてからにしよう」
「そうか。わかった。では主はこれからどうするつもりだ?」
夜斗の言葉を受け、残りのコーヒーを全て飲み干し、双葉は立ち上がる。
「水谷昂の地元にあるアトリエがあった建物へ行ってみる。そこで風水鑑定を行う」
「うむ。ではワシは引き続き希州を追うと共にその謎の男の行方も探ってみる事にするぞ」
「了解した」
双葉は手にした風水羅盤をきつく握り、夜斗に背を向けた。
「待っていろ。春日君……」
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