第7話「いつかさよならを自覚する時期に…」
「なぁ、お前はいつ自分の限界や物事の終わりを自覚した?」
「はぁ?いきなり何の事だよ」
中学の同窓会での帰り道、昂は突然親友の柊太に向けた謎の問いかけ。
まだ酔いが残っている柊太はいつもの軽い冗談だと思って笑みを浮かべようとしたが、隣を歩く昂の表情は何か思いつめたように重々しいものがあった。
「……一体どうしたんだよ。昔のダチと会ってナーバスになったのか?」
今度は少し真面目な返答をしてみる。
昂は少しだけ表情を柔らかくした。
「いや。最近よく考えるんだ。中学生だったあの頃は時間は無限にあって、可能性も無限で永遠に広がっていくものだと信じられた。だけどさ、高校に入った頃に父方の祖父さんが亡くなって、葬儀をしているうちにあんなに自分と無縁に思っていた死が急にリアルに感じられて怖くなった」
「昂……」
昂は前を向いたまま続ける。
「それからまるで自分にかかっていた「永遠」の魔法が解けたかのように現実が見えてきて毎日が怖くなった。今の楽しい時間には終わりがきて何もなくなる。親ともお前や琳ともいつかは必ず別れる事になる。どうしていいのかわからないけど、それでも刻々とその時は近づいて……逃れる事は決して出来ない」
柊太はどう声をかけてやったらいいのか分からなかった。
最近昂の様子がおかしかったのは、そんな事を考えていたからなのだろう。
昂の言っている意味は理解出来た。
彼は心を打ち解けた人間に依存する傾向にある。
自分なら一人になったらなったでどうにでもなるし、なった時にならないとわからない。そんな先の事で今からくよくよするなと笑い飛ばすだろう。
これは持って生まれた性格のようなものだ。
だが昂は違う。
三年前に昂に優しく接してくれていた隣家の娘が交通事故で亡くなった時はその衝撃と喪失感からパニック障害になって今も薬を飲んでいる。
もう先ほどまであったアルコールによる酩酊感は消えていた。
「昂、俺も琳もずっとお前の傍にいるよ。それにこれから新しく家族を作るのもいいさ。奥さんや子供たちが傍にいりゃ、そんな事考える暇もない。まぁ、俺も結婚してないからそこら辺は想像でわからないけどさ」
それでも何とか明るく言ってみる。
「ありがとう。柊太……」
消え入りそうな声だった。
多分、こんな言葉で昂の心や悩みは晴れないだろう。
でも何度もそう言って無理にでも前を向かせてやらなくてはならない。
そうでないといつか、彼はそのいつか来ると恐れている痛みを待つ事に耐えらず、先走り自らその人生を終えてしまいかねない。
それに昂には琳がついているではないか。
琳は本気で昂の事を想っている。
それは二人をずっと見てきたからわかっている。
だから柊太は全力で二人を応援するつもりだった。
たとえ、自分の秘めた想いを閉じ込める事になろうとも。
柊太は黙って昂の背中を撫でた。
「柊太。俺さ、本当にダメになる前に夢を叶える事にするよ」
「夢?」
希望の匂いのする言葉に柊太が顔を上げた。
いつの間にか夜の街は雪がちらついていた。
「ああ。俺は画家になる。そして楽しかった時間を永遠に絵の中に閉じ込めるんだ」
「昂……」
その後、突如昂は画家になる為、上京を決意し故郷を後にする事になる。
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