第一章 ガール・ミーツ・ガール Ⅱ

「ヨウム室って、つまり、その、用務室――いや、だから、ええと、あの、用務員さんの部屋じゃなくて、それって、つまり、その、あの……」

 混乱気味の頭をかかえ、扉の前に突っ立っているわたしに、天坂深雪、と名乗った女の子は「うん、つまりね」と軽くうなずいた。

「三月の終わりまで、ここはきみの言う『用務室』、つまり、用務員さんの部屋だった。でも、その人がいなくなって、ぼくがこの部屋を譲り受けた」

「譲り受けた……でも、これ、学校の建物だよね」

「所有者になった、という意味じゃない。より正しくは、ぼくがこの学校に在学している間、管理をまかされた、ということだ」

 だから、管理人……え、でも、高校生に空き校舎――しかも、閉鎖中で、生徒は立ち入り不可ということになっている――の管理をまかせるなんて、そんなことがあるのだろうか。

 頭の中は、ハテナの嵐だった。おまけに、聞けば聞くほどハテナの数が分裂を起こし、どんどん増大していく。

 いきなり、新たな疑問符がポンと浮かびあがって、わたしは「あ」と声をあげた。

「天坂さんって、一年生だよね」

 天坂さんは、ティーカップを口もとに運びながらうなずいた。

「そうだよ」

「でも、今の話だと、前からこの学校にいたような……」

「だって、座敷童子だからね」

「ええ!? ほんとにほんとだったの!?」

 わたしは、一足飛びでテーブルに詰め寄った。

 あわててカップをテーブルに置き、天坂さんは苦笑いした。

「そんなわけはない。きみって、びっくりするくらい素直な反応をするんだなあ。霊感商法とか、気をつけたほうがいいタイプだね」

 なにそれ……まあ、星占いとか、ついつい信じてしまうほうだけど……。

「きみは、ほんとうに愉快な人だな」

 言われたわたしは、ぜんぜん愉快じゃなかった。

「あの、わたしのことは置いといて。今は、わたしが天坂さんに質問してるんだから」

「ああ、そうだったね」

 天坂さんは、まだ笑いをこらえている様子。なんだか、微妙に傷つくわたし。

「ああ、そうだ。そこに立ってられると気になってしょうがないから、そこに座ってくれるかな」

 彼女は、テーブルのサイドにある椅子を指さした。

「あ、うん、ありがとう」

 わたしは、おずおずと椅子を引いて腰をおろした。バッグを足もとに置き、思わず、ほっと息をつく。考えてみたら、この部屋に入ってからも、ずっと立ちっぱなしだった。

「ぼくはね、去年の入学生なんだ。だから、ほんとうなら、今は二年生」

「え? じゃあ」

「うん、留年したんだ」

 なんでもないことのように、天坂さんは、さらりと言った。

「ろくに出席しなかったからね。おかげで、今年、二年目の一年生」

「うそ!? じゃあ、天坂さんって、わたしより年上なの!?」

「そんなに驚かないでほしいな。きみは、何月生まれ?」

「え……五月……この前、誕生日だった」

 正確には、五月十四日。正真正銘、成りたての十六歳だ。

「ふうん。なあんだ」

 天坂さんが、唇に指を当ててつぶやいた。

「ぼくは二月生まれ、きみとたった三ヶ月ちがい。同い年で、しかも今は同じ一年生だよ」

 それはそうかもしれないけど、でも、年上の先輩にはちがいない。中学生にしか見えないこの女の子が先輩? 本人の言葉を聞いても、すぐには信じられなかった。

「つまり、ぼくは落第生なんだ。今だって、進級ぎりぎりの日数くらいしかクラスに顔出ししていないし、たまに登校しても、放課後はこんなところにこもっている」

「じゃあ、クラスは1―B?」

「そう。きみは1―Aか」

「うん」

 彼女の顔に記憶がない理由は、それでなんとなくわかった。

 ときどきクラスに顔を出すだけの留年生。このとおりの言動だから、新しいクラスにとけこんでいるなんてことは、絶対ないだろう。

 わたしのクラスに天坂さんの話が伝わってきていないのは、1―Bの中でもいまだに彼女のあつかいを決めかねていて、彼女の話題を避ける雰囲気が、強く支配しているからではないか。

 もしかしたら、彼女の存在は周知の事実なのに、鈍感なわたしが気づいていなかっただけ――という可能性も否定できないけれど……。

「ねえ、天坂さん」

「ああ、その苗字、ちょっと言いにくいだろ? 深雪、でいいよ」

「あ、じゃあ……テンちゃんって呼ぶのはどうかな。はねてる感じがちょっとかわいいでしょ?」

「ぼくは、はねていない。かわいくなくていい」

「うーん……あ! じゃあ、ミュウ! ミュウならどう? うん、すごくいいよ!」

「それも却下」

 速攻で返された。さすがにだめか。まあ、いい。わたしはこれから、心の中だけで彼女を“ミュウ”と呼ぶことにした。憲法でも保障されている「内心の自由」だ。

「あ、じゃあ、わたしのことも小羽子って呼んでよ」

「オーケー、小羽子」

 一部の友だちに“ポンちゃん”とか“ポンタ”とか呼ばれていることは、とりあえず、この場ではないしょにしておこう。

「深雪にこの部屋の管理をまかせたっていうのは、用務員さん?」

「そうだよ。ぼくは、おいちゃん、って呼んでた。去年、ぼくは学校にきている時間の大半をここで過ごした」

「でも、その用務員さんは、三月いっぱいで引退した」

「引退、っていうのは正しくない。学校の方針でやめさせられたんだ」

「え? そうだったの?」

「その話を聞いたとき、『抵抗しないの?』と問いただした。でも、おいちゃんは『今さら、じたばたする気はないよ』と笑って、それ以上はなにも言おうとしなかった。でも、ぼくは、続けてたずねた。『じゃあ、ぼくはどうすればいいの』と」

 ミュウにとって、ここだけが、この学校の中で唯一心を許せる砦(とりで)だったんだ。その砦が失われるとしたら……彼女の心の痛みがわたしにも伝わってきて、胸が苦しくなった。

「おいちゃんは言ったよ。『それはもう、おまえが自分で決めることだ』と。けれど、それに続けてこう言った。『ここはもう、誰にとっても用のない場所になる。でも、おまえがまだ、この学校にいたいと思うなら、ここがまだ、おまえにとって必要な場所なら、その間だけ、ここをおまえに守ってもらいたい』」

 ミュウの声が、ふっととぎれた。ミュウは、目の前にいる見えないだれかを、じっと見つめているみたいだった。

「――それから、ぼくの顔をまっすぐに見ておいちゃんは、きいた。『どうだ。ここはまだ、おまえに必要な場所か』と。だから、ぼくは『はい』と答えた」

 そしてここは、ミュウにとってだけ必要な、ミュウの場所になった。

「それからずっと、深雪は、この場所を守ってるの?」

「そうだよ。まだ二ヶ月だけどね」

「でも、学校はそのことを……」

「ちゃんと話をしたことはない。黙認している、ということだと思う」

 黙認……そんなことがあるのだろうか。

 放課後だけの使用だとしても、学校の許可は、当然必要だろう。しかも、生徒には「立ち入るな」と念を押している場所なのだ。黙認だとすれば、ものすごく特別待遇の黙認だ。やめさせられたという用務員さんが、そんな特別な力をもっていたとは思えなかった。

 それに、閉鎖施設なのに、電気が止められていない、というのも不思議な気がした。ミュウが飲んでいる紅茶をこの部屋でいれたとのだとすれば、電気だけじゃなく、水道やガスも止まっていない、ということになる(たぶん、そうだろう)。

 この部屋を使えるように、電気や水道も、そのままにしてるということ? だとしても、電気代とか水道代はどうしてるの? それもすべて黙認事項?

 頭の中では、相変わらず、次々に新しい疑問の渦が起こる。それは、わたしのささやかな思考能力の限界をとっくに超えて、コップの端からあふれかえっていた。

 でも、そんな疑問のほとんどが、今はどうでもいいことに思えた。たとえば、ミュウがほとんど授業に出なかった理由とか、そんなことを知りたいなんて、少しも思わなかった。

 ただ、目の前の彼女を思いきり抱きしめたかった。

 彼女と友だちになりたい――心からそう思った。

「ぼくの話は、こんなところだよ」

「うん……ありがとう。いろいろ話してくれて」

 こんなわたしに、大切なおいちゃんとの約束を話してくれて、ほんとうにありがとう……。

 ミュウが持つティーカップの中で、深い琥珀色がゆれた。

 その瞬間、この部屋に入ってきたときに感じた甘い香りが、ひときわ強く、ふわりと漂った。

 そうか……この紅茶の香りだったんだ。

 ティーカップを見つめるわたしに気づいたミュウが、「ああ」とうなずいた。

「押しかけアリスに、お茶くらいのおもてなしはしないといけないね」

「あ、わたし、別にそんなつもりじゃ」

 立ちあがるミュウをあわてて止めようとしたが、逆に制止された。

「だいじょうぶ、きみの分くらいのお茶はあるよ。マッドハッターも三月ウサギもいないささやかなティーパーティーだけど、たまにはこういうのもいい」

 ミュウが向かった部屋の奥は、小さな台所になっていた。一瞬おとずれた手持ちぶさたに、あらためて部屋の中を見わたす。

 カップボード、書棚、書き物机――数はそれほどないし、どれもシンプルだけれど、落ちついた感じの古い家具が並んでいる。書棚を隙間なく埋めているのもまた、図書館の奥でしか見たことがないような古い本ばかりだった。

 うまく説明できないけれど、一つひとつの本に、ちゃんと異なる表情がある。それはきっと、長い時間をかけて読みこまれてきた歴史が、それぞれの本に刻んだ表情なのだろう。

 この部屋全体が、建物の外観の武骨さからは想像できない、おだやかな時間とやさしい空気につつまれていた。ほんとうにここは、ミュウの王国なんだ、と思った。

 でも、一番おもしろいのは、壁に「用務心得十条」と書かれた大きな張り紙があったり、「整理整頓」と書かれた小さな黒板があったりすることだ。しかも張り紙の文字は、太筆で豪快に手書きしてあって、かなりのインパクトがある。

 そこだけが、「ここは用務室だったんだぞ」ということを、頑固に自己主張しているみたいだった。

 黒板の言葉どおり、部屋はすみずみまで、きれいに手入れがいきとどいていた。ミュウがここを、大切に使っている証拠だ。

 あ、きれいな箱――最後にわたしの目が引き寄せられたのは、書き物机の上に置かれた木製の箱だった。トレーのように浅い箱で、ふたがあり、自然な木目がとても上品だ。

 ティーサーバーといっしょに、重そうなガラス瓶を腕にかかえてもどってきたミュウに、思わず「あの箱、きれいだね」と言った。

「ああ、乱れ箱のこと?」

 ティーサーバーとガラス瓶をテーブルに置きながら、ミュウが答える。

 わたしは、おどろいて「え! あれ、乱れ箱っていうの?」と声をあげた。「乱れ箱って、旅館なんかに置いてある箱だよね。浴衣とか置いてある」

「そうだよ。よく知ってるね」と、ミュウが笑う。

「あ、うん。聞いたことがあるから……。でも、乱れる箱、なんてちょっと変だよね。むしろ、きれいに整理しておく箱だもん」

「確かにそのとおりだね。じゃあ、辞書を見てみようか」

 ミュウは、本棚から厚い国語辞典を取りだして腕の上で開いた。なんだか、ちっちゃな先生という感じだ。

「辞書を引くと、『乱れ箱』には、たいがい、みっつの意味が書いてある。ひとつ目は、たたんだ衣類とか手まわり品を一時入れておくふたのない浅い箱。きみが言った、旅館に置いてある箱が、まさにこれだね。ふたつ目は、くしけずった髪を入れておくふたのない箱。三つ目は、香道で、香元の脇に置いて、いろいろな香道具を入れておく箱」

「……髪を入れておく箱?」

「昔の女性は、髪がとても長かったから、髪を解いて梳くのも大変だったんだろうね。そのときに、梳いた髪をとりあえず整えておくのに使った箱ってことなんだ。あるいは、昔の女性は、解いた髪が寝ている間にぐしゃぐしゃにならないよう、枕もとに置いたその箱に髪を入れて床に就いた、とも言われてる」

「ああ、なるほど」

「ところで、辞書にはもうひとつ、『打ち乱りの箱』という言葉が載っている。『源氏物語』の「絵合(えあわせ)」の巻に出てくるよ。で、この辞書では、底の浅い方形の箱で、女性がかもじ――つまり、付け髪だね――あるいは、手ぬぐいなどを入れるのに使っていたが、のちに化粧道具や所持品を入れるようになった、というふうにそれを説明してる。順序的には、この『打ち乱りの箱』が、現代の『乱れ箱』の原型と考えていいだろうね」

 とうとう『源氏物語』とか出てきちゃった。平安のお姫様や光源氏の世界?

「つまり、『乱れ箱』と一言でいっても、意味の変遷や分離があって、すっきりした説明が難しいんだ。まあ、おおざっぱに言って、きっちりと物を収納しておく箱ではなくて、とりあえず、なにかを整えておく箱、というふうに考えればいいんじゃないかな。この、とりあえず、っていうのがポイントなんだよ。要するに、きっちりじゃない。そして、“乱れ”という言葉には、“種々雑多な”というニュアンスも含まれてる。“こまごまとした手まわりの品を、取り乱れたままに入れておいて、いつでも使えるようにしておく箱”、それが『乱れ箱』ということだね」

 すごい……流れるように理路整然とした説明。すっと頭に入ってくる。

「じゃあ、乱れたままにしておく箱、だから『乱れ箱』という説明でも、別にまちがいじゃないってことかな」

「うん、そうなるね」

「そうなんだ……」

 自然に感嘆のつぶやきが漏れた。ミュウが、楽しそうにくすくす笑う。

「なんだか、すごく感心してるみたいだね」

「え? ああ、うん。箱の名前ひとつでも、なんか、けっこう深いなあ、なんて思って」

「で、きみは、この乱れ箱が気に入った?」

「うん! 気に入った。ほんと、すっごくきれい。すてきだよね」

「きみら、イマドキの女の子は、そういうのを“萌え萌えキュンキュン” とか言うんだろ?」

「え? 萌え……?」

 わたしは、一瞬ぽかんとする。それから、ぷっと噴きだし、手のひらを左右に振った。

「やだあ。そんなこと、だれも言わないよぉ~。それに、“きみら”ってなんなのぉ~」

 ミュウが「あれ?」と、軽く首をかしげ、鼻の頭をぽりぽりと指でかいた。

「おかしいな。ぼくの情報源がまちがってたのか」

 ……いったいぜんたいこの子は、どんなところから、そういう情報を仕入れているんだろう。

「あ、でも、“胸キュン”とか、けっこうふつうに使うだろう」

「ううん……それも、あんまりないと思う」

 わたしのまわりに、そういう言葉をときどき使う人がいたことはいたけれど、残念ながら、イマドキの女の子というには、ちょっとばかり無理があった。

「ううん……そうなのか」

 あごに手をやって考えこんだあと、まだ少し納得のいかない表情のまま、ミュウは「乱れ箱」に視線をもどした。

「まあ、いい。それは置いておこう。この箱は、ぼくも気に入ってる。小ぶりで、サイズもあの机にぴったりと合うから、ちょっとした小物を整理するのにちょうどいいんだ」

「あ! それって、もともとの、ええと、なんだっけ……あ、そうだ、『打ち乱りの箱』の使い方に近いよね! あれ……だけど乱れ箱って、ふたがないんじゃなかったっけ?」

「本来の『打ち乱りの箱』には、ちゃんとふたがあったんだ。だから、乱れ箱にふたがあっても、けっしておかしくはない」

「へえ……じゃあ、これって、かなり由緒正しい乱れ箱の使い方ってことになるよね」

「由緒正しいか。いいね、その言い方。すごく気に入った」

 辞書を本棚にもどしながら、ミュウがうれしそうに言った。

「確かに、この箱って、机まわりの小物をささっと直しとくのにちょうどいいよねえ」

 うんうん、とうなずきつつ、わたしはたずねた。

「もしかして、これも用務員さんが使っていたものなの?」

「うん、『あの箱、残していって』って言ったら、『そんなこと言われなくても、この部屋にあるものは、ぜんぶそのまま残していく』って笑われた」

「え? ぜんぶ?」

「そう。おいちゃんは、なにもかも、そっくりそのまま、この部屋をぼくに残していった。ここは、おいちゃんがいたときも、四月に引き継いでからも、なにも変わってない。ほんとにぜんぶそのまま、なにひとつ手をつけてないよ」

「……てことは、ここにある家具も、用務員さんが残していったものなの?」

「うん、ほとんどおいちゃんの私物らしい。カップとか、お茶の道具とかもみんなそう。ここは、ほとんどおいちゃんの家みたいなものだったからね」

 愛想がなくてこわい人だった、という先輩の話と、ミュウから聞いた“おいちゃん”の話やこの部屋から受ける印象が、わたしの中では、いまだにうまくつながらない。

「そうか……。深雪は、ほんとうにおいちゃんの残していったものを守ってるんだ」

「守るっていうほど大げさじゃない。自由に使わせてもらってるだけさ」

 ミュウは、読みかけの本を閉じて脇にのけ、ティーサーバーをテーブルの中央に寄せた。

「それ、なんだか、厚くて難しそうな本だね」

「『フェルディドゥルケ』、作者は、ヴィトルド・ゴンブローヴィチ。なかなか愉快な小説だよ」

「フェル……ゴン……?」

 だめだ。そんな小説のタイトル、今まで聞いたこともない。いったいどんな小説なのか、その想像すらつかない。『夏目友人帳』が目下の愛読書であるわたしでは、ぜったい太刀打ちできない――それだけは、まちがいなくわかった。

 あらためて、本がぎっしり詰まった書棚を見つめる。

 そもそも、この書棚に、わたしが手を出せるような本なんてあるのかな。

「ねえ、深雪は、いつもこの書棚にある本を読んでるの?」

「うん、まあね。でもやっと三分の一くらいかな。できるだけ時間をかけて、ゆっくり読むようにしてるんだ」

 三分の一と言っても、それだけでも絶対百冊以上ある。しかも、わたしだったら五分で投げ出しそうな本ばかりだ。もはや「すごすぎる」という言葉しか出てこない。わたしは、あっさり話題を切りかえることにして、壁の張り紙を指でさした。

「ねえ、これって用務員さんが書いたんでしょ?」

「うん。そうだけど」

「じょうずだよねえ。昔の人って、こういう筆の字とか、みんなうまくてびっくりしちゃうよね」

「みんな、ってわけでもないだろうけど。でもさ、笑っちゃうよ。その張り紙も、よく見ると、授業で使った教材の裏紙なんだ」

「え? ほんと?」

 壁の張り紙に近寄り、押しピンでとめてない下のほうを、少しだけめくりあげてみた。

「あ! これ……ひ……ひどい! えっと、その……古い模造紙の裏だよね」

 わたしに向けられたミュウの表情が、へえ、という感じになった。

「え? どうかした?」

 首をかしげるわたしに、ミュウは、秘密の箱を開く魔法つかいみたいに、こう告げた。

「小羽子は、たぶん、家族に九州の出身の人がいるね」

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