_周目⑩.ツンデレ美少女が待ってる。
結局、父親は夕飯のときに帰ってきた。
「だって見たいじゃないか。正の彼女」
と父は言って、そんな理由で帰ってくるなよ、と俺は父親の靴を磨きつつツッコミを入れておいた。
「それと父さん、勘違いするなよ。あいつ彼女じゃないからな」
「またまた」
まるで信じてもらえなかった。
俺の言葉はそこまで信用がないのだろうか。
別方向で勘違いしていた妹はというと、メガネの奴の口八丁によって物の見事に洗脳されており、
「お兄ちゃん! あのおねーさん素敵!」
みたいなことを言っていて、後でちょっと話をしておかないとな、と俺は思う。
夕飯を食べ終わったところで、もう日が落ちて暗くなっていたためにメガネを送り届けることになったのだが(家族全員に「送れ! 送ってこい!」と言われた)、その前にちょっとやっておくことがあった。
「天使さん天使さん。お願いします」
「はいはい」
部屋の窓からふよふよと下りてきた天使さんが降り立つのは、俺の自転車のベル。ぽすん、と座って、ぺたん、と手を付き、それじゃあ、と告げる。
「1、2、3――ほいっ!」
変化は劇的だった。
ぶるり、と身を震わして捻って、
ぐるり、と浮かした車輪を回し、
ぱちん、とライトが幾度も点滅、
そして、鳴り響くベルの音色は、
――ひひーん。
ヒロインの復活だった。
「アレクサンドリアああああああっ!! やっぱりお前だったんだなああああああっ!!」
と俺は歓声を上げてアレクサンドリアの車体に抱きつき、ひひーんひひーんひひひひーん、とアレクサンドリアも楽しげにベルをかき鳴らし、俺にハンドルをぐいぐいぐいぐいと押しつけてくる。
「…………すみません。私のときと大分テンションが違うんですが」
天使さんの冷めた視線を感じて、俺は頬にハンドルの跡が残っている顔を上げる。
「何言ってるんですか。天使さんと再会できたときだって嬉しかったですよ」
「ほほう」
「ただ、ポスターをぶち破られた件については後できっちりお話を」
「噛んでいいでしょうか?」
と言って八重歯を見せつつ、服の裾から触手らしきものを出し入れする天使さん。
どう考えても甘噛みで済みそうな気配ではなかったので「まあ、セロハンで直せたしそこまで気にすることでもないですね」と俺が言うと「よろしい」と天使さんはにっこりと頷いてみせた。
「おーい、バットー。行くぞー」
とメガネが呼んでくるので、俺は天使さんに「どうします? 一緒に行きます?」と聞いてみる。
「そんな野暮はできな……げふんげふん。私はですね、アレクサンドリアと一緒になって、あの美少女のいる元の世界に戻るための準備を進めておきます」
「もう帰れるんですか?」
「というよりも、キャッチして元の世界に引っ張り出すような感じですね。元々、あの美少女のスキルで無理矢理この世界に転生させられたような形なんで、正規の手段と比べて定着が弱いんですよ。いつもみたいな転生目標もないですしね」
「ええと、よくわかりませんが、とりあえず、あの美少女とまた戦えるわけですね」
「もちろんです」
「……というか、そもそも何なんですかこの世界。なんか、あまりにも俺の世界と似ているというか、本人なのかよく似た別人なのかわかりませんが、家族と会えましたし……」
「うーん……ちょっと説明が難しいですね。明日にでも説明しますから、それより先に、メガネさん送っていって下さい。真夜中になっちゃいますよ」
ちょっと気にはなったが、確かに天使さんの言う通りだったので、俺はメガネの奴を駅まで送り届けるのを優先する。
すっかり日が落ちた夜の道を、二人で歩く。
煌々と輝く街灯の下で。
てくてくてくてく、と。
メガネが先を歩き、俺はそれに付いていく。
「ね、バット」
「おう」
「あんたんとこ、すげー良い家族じゃん」
「うん」
「本当にさ、元の世界に戻ってえーの? この世界に未練とかねーか?」
「……」
メガネのその言葉に対して。
喉の奥から「なあ」という言葉が顔を出しかけた。
それに続く「俺ってさ」という言葉も。
でも、俺はそれを飲み込んだ。
「戻るよ」
「――そっか」
とだけ、メガネは頷いた。
「そんなら、この話はこれで終わりだな! 明日は早いぜ! ちゃんと寝ろよな!」
「お前は――」
その言葉も、飲み込むべきかどうか迷う。
でも、こちらはそのまま言葉にして出す。
「――ないのか。そういうの」
ぴたり、と。
メガネは足を止め、振り返って、言う。
「……私。お母さんのこと嫌いなんだよね」
「……」
俺は黙る。
その「嫌い」ってのはたぶん、俺が母親に抱いている「うざったい」とか、そういう感情とは全然違うものなのだとは、さすがにわかった。
「でも、嫌いなのに好きだった」
と、再び先を歩きながらメガネは続ける。
「好きになるしかなかった。お母さんしか私の側にはいなかったから。でも」
メガネが言う。
「今は、ちゃんと嫌いになれた」
「……」
「あんたのおかげ」
「……そりゃ悪いことしたな」
ふっへっへっ、とメガネは笑い、それから。
「本当は、ちょっとあるの。未練――私のお父さんがさ、再婚してんだけど。どうも私には、妹がいるらしいんだよね。腹違いの妹」
「そうなのか」
「だから、ちょっとだけ、お姉ちゃんとして話をしてみたくてさ――後はまあ、お父さんとも、ちょっとだけ」
「そうか」
「でも、たぶん迷惑だからさ――いいや」
「掛けちまえよ」
「へ?」
「だから、掛けちまえって」
「電話?」
「電話もだけど――だから、迷惑」
「いやいやいや……何言ってんだてめー」
「大丈夫だって。ちょっとくらい」
「ちょっとじゃねーよ。ちょっとじゃ」
「いいから」
「おい、らしくねーぞバット。あんたそういうこと言い出すキャラじゃねーだろ」
「らしくないのはお互い様だ。今更何を良い子ぶってんだお前」
「だって!」
と、メガネは思わずといった風に叫んで、後が続かないらしく、俺は続きを促す。
「だって?」
「……怖いもん」
「何が怖いんだよ。おっかない人なのか?」
「違げーよ」
とメガネは言い、それから、ううん、と首を捻って。
「…………そう言われると何だろ」
「な。掛けてみろって。電話」
「うん……」
とメガネは頷いて、
「じゃ。掛けてみっか。迷惑」
「おう。ちゃんと掛けろよ――もうすぐ駅だしな」
と、俺は言う。
「何言ってんだてめー」
「あ?」
「言うだけ言ってとんずらこくなんて許されるわけねーだろが」
「……えっと」
「今からそこで電話すっから――ちょっと隣に座ってろ」
と駅の手前にあるベンチを指差した。
「あと、たぶん私泣くからハンカチ用意。それから、えーと、その――」
「何だ」
「――手。繋いでて」
そんなわけで。
二人でベンチに並んで座って、俺が手を繋いでやると、一つ二つ三つを深呼吸をしてから、メガネの奴が携帯を取り出して電話を掛ける。
「もしもし、お父さん――私。りら」
と前置きをしてから話し始めたメガネの奴は、ちょっと俺が見たこともないような顔をしていて、ちょっと俺が聞いたこともないような声で電話の向こう側の相手と話をしていた。
時折、電話から漏れ聞こえる低い声はメガネの父親の声で、それにときどき女の子の声が混じっているのは、たぶん、メガネの妹の声なのだろう。
相手側の会話はちゃんと聞こえないから何とも言えないけれど、でも、これと言って特別なこともない何てことのないような話をしているようだった。
どこにでもいる、何てことのない家族がするような、他愛のない会話。
そんな会話をずっと続けて。
ずっとずっとずっと続けて。
「ね。お父さん」
と、その最後にメガネは言った。
「私さ、友達ができたんだよ」
ぎゅう、とメガネが手を強く握ってきて、
「だからもう、私は大丈夫」
涙の最初の一滴だけが先に零れ落ちて、メガネの奴の頬を伝って落ちて、
「大好きだよ、お父さん――お幸せにね」
そう言って、電話を切った瞬間に、もう一気に涙は溢れ出して、わあんわあん、と子どもみたいにメガネは泣き出した。
俺は用意していたハンカチを差し出し、ついでに、こんなこともあろうかと用意しておいたちり紙もセットで差し出し「よしよし。鼻水はこっち使えな」と言ってやる。「うえ゛あああ……」と礼なのか文句なのかわからない呻き声を上げつつ受け取ったメガネの奴はちり紙で鼻をかんでから「いや何冷静にハンカチとちり紙使い分けさせてんだふざけんな!」と怒鳴ってきて、ああ思ったより大丈夫そうだな、と俺はちょっと安心する。
しばらくして、大分落ち着いてきたところで、ハンカチでぐしぐしと何度も目元を拭いながら、メガネが言う。
「……お父さんと話せてよかった」
「そうだな」
「私の妹、ちょっと画像送ってもらったんだけど、もうめっちゃ可愛かった」
「そうか」
「ぶっちゃけ萌える」
「おい」
いろいろと台無しだった。
「……よっし。おい、バット」
メガネが俺の手を引いて立ち上がり、言う。
「なんか良い雰囲気だし、二人でちょっとアレなホテルにでも泊まってみっか? なんかほら、そういうアレじゃんもうこれ」
「いや、良い雰囲気は今の短いやり取りの間に全部吹っ飛んだぞ」
「うっせ。言っておくがこれルート分岐の大事な選択肢な。よっく考えろよ」
「行かね。帰って寝る」
「即答しやがった……躊躇一つなくフラグ折りやがったよこいつ」
「そんなん言われてもな」
「まあ予想通りだったけどな……でもせめてもっと済まなそうな顔しろよな! もっと悩めよなてめーこんにゃろ! 可愛い女の子がお誘いしてんだよ!」
「何言ってんだ。その、そういうちょっとアレなソレはだな。一時の感情とかじゃなく、もっとこう、いろいろとちゃんとした手順を踏んでからするもんでだな……」
「朴念仁め」
「やかましい」
「あんたは私を何だと思ってんだ」
「お前のことなんて好きに決まってんだろ」
「私もあんたが大好きだぜ。こんにゃろー」
「でも、お前には」
「私もてめーには」
「「なんかいまいち萌えない」」
これは酷い、と俺は苦笑する。
マジで酷い、とメガネも笑う。
「バット」
と、メガネの奴が俺を呼ぶ。
「明日のお膳立ては私がしてやる。てめーは思いきり行け。一直線に突っ走れ」
ふっへっへっ、と。
まだ涙のせいで真っ赤な顔で、けれどもいつも通りの笑みを浮かべて、いつも通りの調子に戻って――そしてやっぱりいつも通りになんかいまいち萌えない友人は、俺に告げる。
「ツンデレ美少女が、あんたを待ってる」
■■■
帰りが遅くなったので、何をやっていたのかと根掘り葉掘り聞かれた。
「絶対ちょっとアレなことしてきたんだ!」
と妹は叫び、
「いいか――このご時世じゃカビの生えた古くさい考えだとは思うが、それでも、お前も男であるからには、女性に対して然るべき責任を果たす覚悟をだな――」
と父は俺の肩をがっしと掴むと懇々と聡し、
「…………」
いつも小うるさい母は「ちゃんとわかってるわよ。だから大丈夫」的な鷹揚な笑みで俺を迎え入れて、ぶっちゃけ一番きっつかった。
俺はもう弁明を諦め、「お兄ちゃん! 何とか言いなよおっ!」とか言ってくる妹をスルーして、粛々と風呂に入って歯を磨くと自分の部屋に逃げ込み扉を閉めて、鍵を掛けようとして、やっぱり止めた。
代わりに、背中でもたれ掛かって扉を塞ぎ、ぺっしぺっしと扉を叩いてくる妹の侵入を防ぐ。
「お兄ちゃん、おーいお兄ちゃーんやーい」
と、もう遊び半分になっているらしい妹の猛攻を、耳を塞いでやり過ごすこと数分。さすがにこれ以上は悪いと思ったのだろう、妹は扉を叩くのをやめた。それから、こちらと同じように、扉の向こう側で座り込む気配。
「あー、あれがお兄ちゃんの彼女さんかー」
「違うって」
「誰も信じないよ。ふざけんな、って言われちゃうよそんなの……いやあ、すっごい素敵だったな、緒白さん。何て言うか、こう、品があるっていうか」
「お前騙されてるぞ。あいつ性格悪いから」
「そんなわけないじゃん。すっごい優しかったよ」
「…………」
ああ、あいつたぶん萌えてやがったな、と俺は思うが、さすがにそれは残酷過ぎる真実なので伝えるのはやめておく。
「ねえねえ。二人のとき、何て呼び合ってんの? やっぱり名前? 名前で呼び合ってんの?」
「メガネ」
「酷すぎない?」
「ちなみに俺はバットと呼ばれている」
「何それ」
「金属バット。ほら、野球部だったし」
「お兄ちゃんて、高校から始めたベンチウォーマーだったじゃん」
「それは、その……野球部に入れば、もう少し社会性が身につくと思ってだな」
「何にも考えてないってよくわかる考えだよねそれ……」
「結局、上手くいかなったけどな。野球部の連中にも迷惑だけしか掛けなかった」
「…………」
妹は、扉の向こうでしばし黙り込んで、それから、溜め息を吐いてそれから言う。
「ま、お兄ちゃんは昔からそんな感じだもんね。しょうがないよ」
「何が」
「お兄ちゃん、昔から良い奴だったし」
何だよそれ、と言う俺に、妹は俺の昔の話をする。よくもまあそれだけ覚えているな、と言いたくなるくらい、幾つも幾つも。
そうやって、妹が俺の思い出だか黒歴史だかを一つ一つ挙げていく度に、頭の中で欠けていた部分が埋まっていく感覚があった。
俺は気づく。
欠けていた部分は驚くくらいに多かった。
実のところ、ほとんどが記憶になかった。
ちょっとだけ、予想していたことだった。
予想していたよりショックは少なかった。
「俺は」
と、妹に言う。
「俺は――そんな奴だったんだな」
「いや、自分のことじゃん」
「……そうだな」
「どーせ、緒白さんのことだって何かの拍子に助けてあげたんでしょ。それで惚れられたと。ひゅーひゅー」
「あいつを助けたことなんてねえよ。正直、助けられてばっかりだ」
「自分じゃ気づいてないだけだよそれ」
「そんなんじゃねえよ。誰かを助けるとか、そういうんじゃなくてだな――ただ、何か嫌だなあ、とか、なんか気分悪いなあ、とかそういうのがあると押さえれないだけで、つまり自分勝手なんだよ。ただ単に」
「そうー? そうかなー?」
「何だよ……」
「だって私覚えてるもーん」
「また黒歴史か……」
「ちっちゃいとき、私に言ったじゃん。ほら、私がちっちゃいときにすっごい熱出して『しんじゃう。たすけて』って泣いてたとき、私の手え握ってさ」
「……」
やっぱり覚えていなかった。
でも――残っている記憶のどれかがそれに反応する感覚があった。
「『何があっても兄ちゃんが助ける』って」
ずきり、と。
痛みと共に残っていた記憶。
「『だから信じろ』って」
「……いやそれ、お前助けたのは俺じゃなくて医者の出してくれた薬だろ」
「そりゃそうだけど――それでもさ」
と妹は言う。
「だから私、お兄ちゃんのこと信じてたよ」
「何をだ?」
「ちゃんと部屋から出てきてくれる、って」
「…………」
「例え引きこもっていたって、私が本気で『助けて』って言ったら、出てきてくれる、って」
かちん、と。
頭の中で、欠けていた部分に何かがはまる。
ぱっ、と。
ほんの一瞬で、その記憶が鮮やかに蘇った。
「……まあ、特に私を助けるためとかじゃなくて、普通に何事もなかったように出てきたわけだからアレだったけど――って、うひゃあっ!?」
と、妹が悲鳴を上げたのは、俺が扉を開けたせいだ。当然と言うべきか、背中を預けていた形になる妹に扉はぶつかった。
「もー何だよお兄ちゃん! お尻ぶつけたじゃん……って、うにゃあっ!」
と、再び妹が悲鳴を上げたのは、俺が妹の頭に手を置いて、ぐしぐし、と頭を撫でたからだ。
「ちょっとお兄ちゃんやめてよぉっ! もう子どもじゃないんだから、そういう風に頭撫でられるの恥ずかしいからやめてって、小学生のときに言ったじゃん!」
「そうだったな」
それも記憶にはなかったが、俺は言う。
「でも、頼む」
「え?」
「今だけは頼む」
「……しょうがないなあ。もー」
と言って、されるがままに俺に頭を撫でられている妹に、俺は言う。
「ごめんな」
「引きこもってたこと? もういいよ。前に謝ってくれたじゃん」
「そうじゃない」
と、俺は告げる。
「そうじゃないんだよ」
「……お兄ちゃんてさ」
「ああ」
「……どっか行くの?」
「何でそう思うんだ?」
「や。何となくだけど……」
「行くよ。ちょっと遠くまで」
「緒白さんと?」
「うん」
「……戻ってくるよね?」
「たぶん戻ってこない」
「…………」
「ごめんな」
「謝るくらいなら戻ってきなよ」
「ごめん」
「…………あー」
と妹は呻き、それから言う。
「私がお兄ちゃんの恋人だったら『私を置いて行かないで!』って泣いて引き留めてるところなんだけれど……でも、妹だからなー」
もーしょうがないな、と妹は言う。
「その代わり、私に彼氏ができても、黙って祝福してよね?」
「いや、そんときはどこにいようと駆けつけるに決まってんだろ」
「おいお兄ちゃん。おいこら」
「お前の未来の彼氏には、せめて全力の俺を倒せるくらいにはなってもらわんとな」
「何て面倒くさい兄だ……」
と妹は溜め息を吐いて、それから言った。
「よし――行ってこい。お兄ちゃん」
■■■
金属バットの手入れを終えて、布団に潜る。
見上げる先には、天井の照明。
そいつを眺めつつ、いろんなことを思う。
初めて異世界転生してから出会ってきた、たくさんの人々のことを思う。
天使さんと、アレクサンドリア。
師匠と、それから弟子。
クラスメイト。
家族。
いまいち萌えない友人。
他にも、数え切れないくらいに出会ってきた、たくさんの人たち。
そんな誰かと過ごしたこれまでの異世界での日々のことを思う。今の俺をこうして形作っている、楽しかったり苦しかったり嬉しかったり悲しかったり生きたり死んだりした記憶のことを思う。
世界のことを思った。
自分のことを思った。
そして、あの最強な美少女のことを。
ただ、思ってみただけだ。
何か、とんでもない答えを導き出したりすることはない。そういうのはメガネの奴の領分で、俺にはまあ無理だ。
でも少しだけ気持ちは楽になった。
どうにか、眠れそうなくらいには。
俺はそっと目を閉じた。
その直後だった。
『――ちょっと待ちなさい。バットくん』
随分と久しぶりな声が、頭の中で響いた。
『その前にですね、私とお話しましょう?』
するり、と俺の首筋に細く白い腕が絡んだ。
害意が一切感じられない、柔らかな手つき。
だから金属バットに伸ばす手は一瞬遅れて。
きゅっ、と絡みつく腕がその一瞬で締まる。
すとん、と意識が落ちていく中。
随分と久しぶりな声が、告げる。
『――転生の間に、ご招待ですよ』
言うまでもなく、女神様の声だった。
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