99周目⑬.リア充爆発しろ。


 校舎裏から「マイナス・クイーン」が泣きながら去って行ったことから始まり、いろいろあって最終的には天界への門が開いたことによって天使たちが降臨し世界が滅亡しかねない状況まで陥った一連の事件は、天界の門を維持するためのコアに取り込まれた「マイナス・クイーン」(素っ裸)への「俺を倒すんじゃなかったのか女王様! そんなところで裸で寝てる場合か! 風邪を引いたらどうする!」という「キング・ゼロ」の叫びと突き立てた刀によってできた傷跡から「うるさい馬鹿! 今起きるに決まってんでしょうが! ……でも、その、あんまじろじろ見ないでよ」と叫び返しながら顔を赤くして出てきた「マイナス・クイーン」(素っ裸)による合体攻撃でコアが破壊されたことによってついに終結した。

 そして、その裏側でひっそりと行われていた、失われた腕を魔法道具化して復活した元テロリスト・グループの隊長とマスクド・アベンジャーの戦いも、「俺はまだ死なん――貴様を葬りさるまではなっ!」と絶叫しながら爆炎の中に隊長が消えたことで終わった。

 同時刻、学園の屋上、消えていく天使たちの亡骸の山の上で学園長が「『キング・ゼロ』め。まったく――ついこの間まで苛められてぴぃぴぃ泣いていた彼奴も、随分と強くなったもんじゃのう」と小さな体躯に不釣り合いなほどに長い太刀を鞘に収めながらつぶやき、それに対して「ふっ……君も歳を取ったな」と言う声。その声の主に向かって学園長が「ふん。歳はとっても儂はまだまだ可愛いわい。……そういうお主もうかうかしておれんぞ――のう『ゴッド・ワン』」と告げる言葉に、かつての学園長のライバルで、世界ランカー第一位の座に十年立ち続けている、全ステータス「1」にして世界最強のウィザードである彼は「ふっ……そうだな」と楽しげに笑った。


 まあそれとは別に重要なニュースが一つ。


 フォルトが、Dランクに昇格した。


 快進撃と言って良い。


 何があったかというと、ある日、俺とフォルトの訓練を眺めていたメガネがこう言ったのだ。


「……そろそろ頃合いだなー」


「何がだ?」


 と、突っ込んできたフォルトをいつも通り景気良く吹っ飛ばしながら俺。


「頃合い?」


 と、吹っ飛ばされた勢いを利用して距離を取り、そこから、ぐるり、と俺の死角に回り込もうとしながらフォルト。


「おーよ。まあ、とりあえず、そのまま続けて続けて」


「?」


 と疑問に思いながら、俺とフォルトは訓練を続ける。


 こちらの死角を狙おうとしていたフォルトが、唐突に杖を投げつけてきた。もちろん、俺はそれを金属バットで弾いた。


 そこにフォルトが突っ込んできた。


「ちょいやー!」


 という叫びと共に、ぶち込んでくるのは飛び蹴り。一番最初に手合わせしたときの無茶苦茶な突撃よりも、ずっと早く、鋭い一撃。


 でも防げる。

 俺は防いだ。


 その瞬間に、俺は気づく。

 フォルトの手の中、さっき弾いたはずの杖。

 何でそこにある、という疑念は一旦置き去りする。次に繰り出されるであろう一撃を避けようと身を屈め――それでも一瞬、遅れた。


 フォルトの一撃が、俺の頬を掠めた。


「――やった」


 と、フォルトが声を上げて。

 直後、無茶な姿勢で攻撃を放った結果、受け身も取れない状態で床に、べちんっ、と落下した。俺は容赦なく金属バットで、こつん、とフォルトの頭に一撃を食らわせる。

 当然、先程の頬を掠めた程度の一撃では、サクリファイスドールにはヒビ一つ入らない。試合だったら、これで俺の勝ちなわけだが。


 でも、しかし。


「やった――」


 がばっ、と。

 起き上がりながらフォルトがまた言う。


「――師匠に、当てた」


「……そうだな」


 と、俺は杖が掠めた頬に手を当てる。サクリファイスドールのおかげでダメージはないが、確かに一撃を食らった。

 俺はフォルトの手を見る。そこに、いつもと違って、フォルトはグローブを付けていた。「滑り止めのグローブ」と言っていたが――


「あれか。そのグローブ、杖を引き寄せるための魔法道具とか、そういう」


「その通り」


 と、フォルトが頷く。

 そうか、と俺も頷く。


 一瞬、頃合いってこれのことか、とメガネの入れ知恵を疑ったが、違った。なんせメガネの奴も驚いた顔をしていた。


 俺は言う。


「フォルト、お前が自分で考えたのか」


「違う。2号の『不意を打って叩け』という教えに従って、ちょっと工夫してみた」


「自分で考えたんだろそれ」


 フォルトのグローブの仕掛け。

 全然気づかなかった――わけではなかった。というかむしろ、絶対なんかあるな、と思っていた。そりゃそうだ。いつも付けていないグローブをいきなり付けてきたのだから、何かあるに決まっていた。


 だから、俺は油断はしていなかった。

 つまり、ものの見事にしてやられた。


「参ったな」


 と、俺は苦笑する。


「よくやった。フォルト」


「次は直撃させる」


 と、ばいおれんすなことを言うフォルト。

 相変わらずの無表情。

 でも、たぶん喜んでいるんだろう。

 何となく、わかった。


「それで」


 と、フォルトは言う。訓練室からこっそり出ていこうとしていたメガネの方を見ながら。


「『頃合い』というのは何か。2号」


 びく、と足を止めて、メガネの奴は恐る恐る振り向きながら、言う。


「え……私、この流れで言っていいの? 空気読んでなくね? お邪魔じゃね?」


「いや、構わないから言えよ……」


「えーと……それじゃだな。フォルトちゃん。前々から言おう言おうと思っていたことを、今こそ聞こう――それ、何よ?」


「それ、とは」


「えーとまずはステータス出して」


 と言ってメガネはどこからともなく取り出した表示器をフォルトに差し出す。


「ほいほい。ステータスオープン」



      【■■■■■■】


名前:フォルトリス・R・エラーズ

種族:人間

職業:王立エイダ・バベッジ魔法学園学生


ちから :102

ぼうぎょ:14

すばやさ:106

まりょく:2


スキル

継承魔法


      【■■■■■■】



 表示されたステータスの一点を差し示し、メガネが言う。


「これ。ここの、スキルのとこの――継承魔法って奴」


「これは我が家に代々伝えられてきた魔法」


「え。何だそれ」


 と俺は言い「おいこら」とメガネが俺に言ってくる。


「何で気づいてねーんだよあんた師匠だろ」


 と、メガネはこれに関しては本気で腹を立てたらしく、ちょっとあんた正座しろ説教してやるから、と言ってくる。

 でも確かに、メガネの言う通りだった。


 俺の師匠は、戦闘時の俺がどう動くかの癖から始まって、俺が椅子に座るときにバットをどこに置くかだの、アレクサンドリアの世話をするときどういう手順で行うかだの、扉を右で開けるか左で開けるかだの、そういうどうでもいいとしか思えないような細かい部分をちょっとどん引きするくらいよく把握していた。

 でも実際、こうして教える側に立ってみると、そう細かいところを知っているのがどれぐらい重要なことなのか分かる。何たって、教える相手は、自分とは背丈も体重も体型も全部違う。その違いを考慮しないで技術を教えたら、絶対どっかでいろいろと変なことになる。っていうか、フォルトに教えているとき最初の頃はそれでいろいろと苦労した。


 確かにこれは正座して説教されても仕方ないな、と思ったが、そこでフォルトが、


「いや、これはそんなすごい魔法じゃない。というか、ぶっちゃけかなりしょうもない魔法。師匠にも、だから教えなかった」


 と言って、手を横に振ってみせる。


「百聞は一見にしかず――ちょっとやってみせる。師匠はそこに立って的になる」


「おい。的ておい」


「大丈夫。これは死ぬような魔法じゃない。前に食らったことがあるはず。召喚された直後のこと」


「ちょっと待った。あのときは爆発したぞ」


「あれはただの偶然。本来は、爆発しろと言って本当に爆発するような魔法じゃない……いつもはストックしてあるのを即時起動術式で発動させているけれど、今回はせっかくだからちゃんと詠唱して使う」


「ええと……その、本当に大丈夫だよな?」


「大丈夫大丈夫――じゃ、使う」


 そう言って、フォルトは目を閉じ、厳かな声で告げる。


『――お母さんの掃除機』


「……え?」


 と俺は疑問の声を上げる。


『――猫パンチ。電池切れ。停電。接触不良』


「……えっと」


 とメガネが途方に暮れた声を上げる。。


『――引っこ抜かれる線。押し込まれるリセットボタン。突如消える画面』


「……その」


「……うん」


 と俺はメガネの方を向き、メガネもこちらを見、互いに顔を見合わせ、微妙な顔をする。


『――現れる起動画面のロゴマーク。セーブしてない。失われた数時間』


「…………」


「…………」


 俺もメガネも黙り込む。

 他に対応のしようがなかった。


『その絶望を以て今、我は命ず――』


 そして、フォルトが叫ぶ。


『――「リア充爆発しろかっこるびコンセント・アウト」!』


 直後。

 俺はコケた。

 いや、技名を聞いてコケたというわけではなく、ただ唐突にコケたのだった。

 何でいきなり、と思いつつ体勢を立て直し、一体何が起こるのかと俺は待つ。


 ……。

 ……。

 ……何も起こらない。


「ちょっと待て。……待て」


「言いたいことは何となく分かる。先祖代々続く私の継承魔法『リア充爆発しろかっこるびコンセント・アウト』には疑問点が多々あると思われる」


「その名前含めてもう疑問点しかないぞ」


 とりあえず、と俺は言う。


「えっと……その魔法の効果ってのは……」


「使うと相手がコケる。以上」


「…………」


「師匠の気持ちは分かる。よく分かるが、これが私の継承魔法の現実」


「その、えっと……技名の『かっこるび』というのはなんだ」


「それは代々伝わる固有魔法名なので深く考える必要はない」


「そもそもコンセントって和製英語だって聞いたことが……」


「わせーえいごとは?」


「えっとだな……駄目だ突っ込みどころが有り過ぎてどこから突っ込めばいいのかわからない……」


「というわけで、二号。師匠を正座させるのは勘弁してやって。これは本当に微妙過ぎる魔法。知っていたところで何の意味もない」


「ふむ――フォルトちゃん」


 と、先程から何やら黙って何かを考えていたメガネは、言う。


「正座。バットと一緒に」


 え、と俺とフォルトは声を漏らし、胸の内にも疑念が沸くが、有無を言わせぬメガネの気迫に気圧されて二人揃って正座する。


「いいかてめーら。耳の穴かっぽじって、よっくと聞けよ」


 と、メガネはどこからともなく取り出した教鞭を、ぱしぱし、としつつ言う。


「まずはフォルトちゃん。その継承魔法が使えない、って言ってるけど――そんなこと全然ねーぞ。むしろ、すげー使える」


「まじか」


 と、フォルトは無表情に驚いてみせる。


「で、バットはそういうわけだから、ちゃんと反省しろ。……いや、あんたのことだから、言われなくてももう分かってるんだとは思うけどさ。でも、それでも私は師匠二号だからあんたに言う。――もっとフォルトちゃんのこと知っとけ」


「ああ、お前の言う通りだ」


 と、俺はメガネの言葉に頷く。

 頷いてから、しかし、それでも分からずにメガネに聞く。


「……でも、フォルトのこの魔法、本当にどう使うんだ?」


「私にもわからない。二号。この魔法のどこがそんなに超使えるのか?」


「……もしかして、あれか。一見して相手をコケさせるだけの役たずな魔法に見えて、本当は凄まじい効果を発生させているとかそういう」


「いやその魔法、正真正銘、相手をコケさせるためだけに特化した魔法だから。……その、えっと、何ていうかちょっと怨念じみたものを感じる次元でそのためだけに特化してる魔法だから」


「駄目だろそれ」


「いや、コケさせればいーだろ」


「コケさせてどうするんだよ」


「だから、コケた隙に杖で相手を殴るのだ」


 ぴっ、と。

 教鞭をこちらに突きつけてメガネは言った。


「…………」


 俺はしばしこちらに突きつけられた教鞭の先を見ながら、その意見を咀嚼し、それから「え?」と言った。


「卑怯じゃね?」


「正々堂々魔法を使った卑怯だからセーフ。さっきの不意打ちと同じ」


「ああ……ならセーフか。すげーなお前」


「その発想は無かった。二号は天才」


「いや、全然まったく天才ではないというか、普通は真っ先に思いつくというかてめーらどんだけ脳筋なんだよというか……えっと、フォルトちゃん。その魔法ってストックして即座に発動できるんだっけ? 何個くらいストックできんの?」


「私の場合六回分。ちなみに即時起動術式の短縮呪文は『リア充爆発しろ』」


「じゃあ、六回相手に隙作れるんでしょ? 『リア充爆発しろ』って叫ぶだけで」


「でも」


 と、フォルトは言う。


「それこそ、魔法防御とかされたら普通に効かないのでは」


「それはない」


 と、メガネは即答した。

 教鞭を、くるり、と回しながらこう続ける。


「フォルトちゃんのそれ、たぶん、防げるような魔法じゃないから」


「?」


「えっと……そりゃ、どういうことだ?」


「……」


 メガネは何も言わずこちらに近寄り、俺の左目を人差し指で突いてきた。


「痛ぇっ!」


 と仰け反る俺に、メガネはどこからともなく持ってきたバケツを押しつけ――フォルトを『視る』。


 瞬間、メガネを「視た」ときとは違って、ひどく局所的な情報が頭に焼き付けられる。



■□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□……



      【アクセス開始】


――....../取得スキル(継承魔法『リア充爆発しろかっこるびコンセント・アウト{※『unplag』の誤字の可能性が有ります。登録された名称を優先して翻訳表示しています}』999999999999999999999999999999……{スキルレベルの数値が大きすぎるため正確な表示が行えません})/......――


      【アクセス終了】



□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□■……



 込み上げる吐き気――それを、そのさらに奥底から溢れ出る叫びが押しのけた。


「どうしてこんなになるまで放っておいた!?」


 そんなわけで。

 フォルトは『リア充爆発しろ!』とひたすら連呼しながら杖を振り回すいろいろと珍妙なウィザードになった。珍妙過ぎて、軽く伝説になったと言える。


 通称「リア爆魔法少女」の、爆誕だった。


 お前それでいいのか、と俺は思ったが、フォルトの方はというと少しでも名が売れるならばそれでも構わないと言う。実家のキメラショップへの愛が深すぎる。


 そんなわけで試合で『リア充爆発しろ!』の叫びと共に、コケた相手の選手を杖で一撃し葬り去っていくフォルトの姿を見下ろしつつ、俺はふと気づいて、隣でアホみたいに熱烈な歓声を上げているメガネに尋ねる。


「なあ、お前さ」


「おう」


「フォルトの継承魔法のことって、前々から気づいてたんだろ? あの口振りからするに」


「まーな」


「何でもっと早く教えなかったんだ?」


「そりゃ、ただ単にコケさせただけじゃ勝てねーからな――いや、下のランクだったらそれでも勝てただろうけれど、フォルトちゃんが目指してんのって、もっと上だかんな」


「ああ……」


「だから、私なりに戦闘の駆け引きとか不意打ちの仕方とかを教えて、地力が付くのを待ってた――何も考えないでスキル頼りじゃやっぱ勝てんよそりゃ」


「スキル頼りで悪かったな」


「なーに拗ねてんだ馬鹿――それにほら、フォルトちゃんの動きをよく見てみろ」


「……?」


 俺はフォルトを見る。

 ふわり、ふわり、とポニーテールを揺らし「リア充爆発しろ」の叫びと共に杖を振るって相手の選手を打ち負かしていく弟子の姿。


 こうして見てみると、確かに、フォルトはただ闇雲に魔法を使っているわけではないということがわかった。

 つまるところは、グローブ一つで俺の不意を突いてみせたときと同じだ。

 相手にとって最も厄介なタイミングで魔法を叩き込み、致命的な隙を作り出して、一気に勝負を決める――これだけ悪目立ちしている以上、相手もフォルトの魔法に対策を取ってくるのだが、それを考慮したり、逆手に取ったりしてみせている。


 どう考えても、メガネの教えの賜物だった。

 俺はちょっと落ち込む。


「……お前の教え方が俺より優秀だってのはよくわかったよ」


「ちげーよ馬鹿。わっかんねーかなもー」


「何が」


「フォルトちゃんの動きさ、あんたの戦い方にそっくりだろ」


「え?」


 俺は驚いてメガネの奴を見て、それからフォルトに視線を戻し、その動きを見て、


「……そうか?」


「そうだよ馬鹿」


「でも、俺の戦い方って基本はスキル頼りなんだけれど……」


「アホ抜かせ。てめーがスキル頼りの間抜けだったら、私にとっちゃカモだ。あのとき私が瞬殺してたっての――私がギロチンに掛けられた後もさ、騎士団長さんに、ちゃんとした戦い方を教えてもらったんじゃねーの?」


「ああ」


「んで、そっからずっと異世界転生し続けて、例の美少女とやらと戦って戦って戦い続けてきたんだろーが」


「まあ、そうだな」


「今のあんたはさ、すげー強いよ。バット」


 と、メガネは俺を指差して、


「アホみたいにスキル持ってるってだけじゃなくて、単純に戦闘の技術や経験が飛び抜けてんだ。だから――」


 それから、その指で今度はフォルトを示す。


「――だからフォルトちゃんは、あんたの背中を一生懸命追っかけてんだよ」


「……そうか」


「私もフォルトちゃんの師匠だけど、それでもやっぱり二号で、師匠一号はあんただ――そこんとこ忘れんなよ」


「……そうだな」


 そう答えて、俺はフォルトを見下ろす。

 そして、ふわっふわなポニーテールを揺らして奮闘する弟子の姿に向かって、隣で叫んでいるメガネに負けじと大声を張り上げる。


 まあ、そんなわけで。


「やってやった。ぶい」


 と、Dランク昇格の報告をしてきたフォルトを前に、まじかやったよくやったぞやった、とメガネと俺は手を取り合ってぴょんと飛びはね大喜びした後、


「今日はご馳走にしたげる! お祝いだ!」


 と叫んだメガネに対し、フォルトが放った、


「嬉しいけど、今日はこれから友達と予定があるのでまた後日」


 という言葉が容赦なく突き刺さった。ついでに、俺にも刺さった。


「と、ともだち、だと……?」


「ああ……いたんだっけな。友達……友達って何だっけ?」


「友達は友達以外の何者でもない」


 呆然とつぶやくメガネと俺の言葉に、事も無げにそう答えるフォルト。


「私は陰キャ。だから、数はなんと片手で数えられる程度。それでも全然寂しくない程度には親友でマブダチ。師匠も二号も大好きだけれど、友達も大事だからどうか許して」


 り、とメガネの口から言葉が漏れる。


「……り?」


 と聞き返すフォルトに、


「リア充爆発しろぉっ!」


 とメガネは悲痛に叫び、それに対してフォルトは首を一つ捻って尋ねてくる。


「一応聞くけど、なにゆえ?」


「情けない……バットにあんだけ偉そうに説教した癖に、私もフォルトちゃんのことちゃんと知らなかった――まさか友達が居たなんて。友達……友達って、フィクションの中の存在だと思ってたのに……うっ……」


「そうだな……でも、現実を見ようぜ」


「二号も師匠も落ち着け。どうどう」


 と、よよよと泣き崩れているメガネの頭を(転げ落ちないように)撫でながらフォルトが言う。


「……というか、ぶっちゃけ未だに信じられないのだけれども、師匠と二号は確かお付き合いしていなかったはず」


「そりゃまあ、こいつには」


「なんかいまいち萌えない」


 と、お互いに指差し合って告げる俺とメガネに対し、フォルトはやれやれ、とちょっと呆れた顔をして言う。


「なら、どっちにせよやっぱり師匠と二号はリア充」


 意味が掴めず、互いに顔を見合わせた俺とメガネに、フォルトは、にゅっ、と唇の端を上げてみせる。

 笑ったのだと、一瞬の後で気づいた。


「――末永く爆発しろ」

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