Y君危機一髪
実はこの本当にあった怖い話シリーズは定期的に更新すべきであるかを悩んでいます。ネタ自体はY君の突拍子もない行動のお陰でそれなりに頭の中にストックが溜まっていたりするんです。
では、何故更新をしないのかと言うと、連載小説を更新した順番に並び替えがされてしまうと言うこと。
つまり私の最新作は「Y君がうんこを漏らしてしまった話や、Y君が夏の忘れ物でデリケートな部分を拭き上げた際に起こってしまった悲劇の話」だと言うことを折角お越しいただいた読者様にアピールすることに繋がってしまう。これは非常に宜しくない。
短編では澄ました顔をして恋愛(になっているかは微妙)のお話や、私が精一杯背伸びをした大人(風味)のお話を公開させていただいているだけに落差が酷すぎる。
是非読んで見て感想などを頂いてみたい等と甘い考えを持っていても、もしこの連載作を開いた途端に何処かへと旅立ち、二度と帰ってきてはくれないのではないのか?
そんな、そもそも定期的に私のページに来て頂いてくれている人なんかいないんじゃない?という至極最もな現状には目を背けながら考え込んでしまうことがあり、つい更新が滞ってしまっていた。
だって少しくらい格好をつけたいなって思うこともあるじゃない……。
まぁ、でもそんなモヤモヤを綺麗さっぱり吹き飛ばしてくれるくらいのY君の活躍があったためこっそりと更新をしようと思います。そしてその直ぐあとに別の連載作を更新したいと思っています。そうすれば少なくとも私の作品一覧のトップからは消えるわけです。でも思っているだけなので出来なかったらこのお話がトップにあり続けるわけです。
さて、とある日の事です。Y君と一緒に仕事をしていると何となく違和感を覚えました。室内での仕事のため私達の着ているものは半袖なのですが昨日までのY君とは何かが違う。何かが違うのだけれども、それが何なのかまではさっぱり分からない。そういう日が幾日か過ぎてゆきました。正直なところそこまでY君のことには興味がないためです。
ですがある日Y君と二人で更衣室で着替えをしている際に唐突に彼は私に話しかけました。
「俺、最近脱毛したんですよね」
「成る程ねぇ。何か違うと思ってたけどそういうこと」
「気付いてました?」
「まぁ、一応は」
お前は微妙な変化を分かって欲しい女子かと突っ込みを入れたいところではあるが、そんなことはおくびにも出さずに私は適当に相槌をうっていた。着替えの途中であるY君の腕や脛には体毛が綺麗さっぱり見当たらなくなっている。
私にはロードバイクに乗っている者がいて友人がいる。夏場などは膝上までの長さのサイクルジャージと言うものを着用することが多いため、見苦しさ軽減のために脛毛を剃ると言う文化は知っている。また、昨今は男性化粧品がドラッグストアで売りに出されたり、地下鉄の中吊り広告で男性向け脱毛専門店何て物を目にすることも増えている。新しい物好きのY君が何に飛びつこうと今更驚くようなことではなかった。
それが想像の範囲内の事柄であれば。Y君という怪物でなければ。
「いやー、尻毛剃るの滅茶苦茶苦労しましたよ」
「はぁ」
「劇団の仲間が最近は全身脱毛が流行っているんだって言ってるからそれに乗ってみて全身を脱毛してみました。顔以外」
「顔以外」
「勿論下の毛も綺麗に剃ってやりましたよ」
「下の毛も」
どうやら彼が住む世界は私の住む世界とは遠い距離にあるようだ。
「はぁ、まぁ。そうなんだ」
私にはそれくらいしか返す言葉が見つからなかった。
彼はそのあとも熱っぽく何処のゾーンを剃るときにどのようなドキドキ感があったのかを語っていた。正直なところ早く着替えて帰りたかったのだが、尻毛を剃るときにはどのような格好で剃ればいいのか、その最適な格好を見つけたときの瞬間を嬉しそうに再現するY君の純粋な瞳に負け、ドアノブに手を掛けることがどうしても出来なかった。私は弱い人間だと思う。何時の日かNOと言える日本人を目指したい。
一通り伝え終えて満足したのだろうY君は素早く更衣を終わらせると、そのあと少しだけ表情を曇らせた。実にめんどくさい仕草で多分聞いて欲しいことがあるのだろうけど、もうお腹一杯なので聞きたくもなかったため私はドアノブに手をかけ、お疲れ様と言おうとしたタイミングで痺れを切らしたのだろうY君が再び口を開いた。
「まだ嫁には脱毛のこと話してないんですよね」
後悔するくらいなら最初からしなければ良かったんじゃない?
「まぁ、一緒に暮らしていれば直ぐに気付くんじゃないかな」
「だと良いです」
「流石に気付くんじゃないの?」
「嫁は結構天然なんですよね」
いやいやお前も相当なもんだと思うけどね、とは結局言い出せずモヤモヤした気持ちを植えつけられたままその日は帰宅の途に付いた。
それから更衣室で見かける彼の脛毛が見に見えるほど伸びてきた頃、Y君は悲痛な面持ちで私に向かって口を開いた。
「昨日嫁に脱毛のこと話したんですけど割りとガチで切れられたんですよ」
正直なところ当たり前だとしか言いようがない。
「今まで見たことのない目つきになって、すっごい早口で『何でそんなことしたの?何でそんなことしたの?』って聞いてくるんですよね。『いや、何かノリで』としか言えなくて……」
いや、だってノリでやっちゃってるじゃん。
「あそこまで怒られるとは思ってもいなかったんですよね。今迄で一番離婚の危機を感じました」
折角なら脱毛離婚と言う新しいジャンルを産み出して欲しい気もした。
「女って良く分かりませんね」
多分君の発言は日本に住む女性の9割程度は敵に回したと思う。
私は下世話ではあるが、それなりに期間が開いていた中で夫婦生活がなかったと思われる(そうしてたらもっと早くばれるよなぁ……)Y家のこの先に一縷の不安を感じながらやはりそれを口に出すことは出来なかった。
全身脱毛Y君式、されている方はいらっしゃいますか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます