第六十一話 次なる大陸への出航
両目やその周囲に何本も矢が刺さり、身体中の傷あとから血を流しているドランがゆっくりと地面に倒れ伏し、白い灰となって消えていく。
後に残されたのは赤い宝箱、そして奥で音を立てながら開く扉。
荒い息を吐きながら、武器を構えていた『獅子の咆哮』の人達がその光景を見て飛び上がって喜び出す。
「やった……やったぞ! ついに――40階層を突破した――!」
フィンさんが涙を流しながらバッカスさんやロイドさん達と抱き合っている。
ティアナやレイ、ミュールも後衛の3人と手を取り合って躍り上がって喜びを爆発させている。
僕はフィンさんに駆け寄って握手を求めた。
「おめでとうございます! フィンさん!」
フィンさんは涙を拭くこともなく握手を返す。
「ありがとう……ムミョウ君……本当に……ありがとう」
僕とフィンさんは固い握手をしながらお互い抱き合って喜び合った。
僕が公爵様やジョージさんにヤパン大陸へ行くことを告げてから約2か月。
30階層は後衛3人の魔法と弓で難なく突破し、その後は40階層に向けて稽古を積んできた。
以前は観客席から見ているだけだったティアナも積極的に稽古に参加し、自身のドラン討伐の経験を惜しみなく『獅子の咆哮』の人達に教えた。
そのおかげで、更に自信と実力をつけた『獅子の咆哮』の人達は当初予定していた3か月の期間を繰り上げ、2か月ほどで40階層に挑戦、無事攻略を達成した。
今回に関しては一切手を出さなかった。
もう僕が手助けしなくても……皆なら大丈夫だ。
後は……僕が行くべき場所、進むべき道、やるべき事。
目指すはヤパン大陸の龍の巣だ。
皆で肩を抱き合いながら宝箱を開け、戦利品の武器を回収すると帰還用の水晶へと歩いていく。
フィンさんが水晶に触れ、地上へ帰還すると、20階層の時よりも大勢の人が『獅子の咆哮』の人達の期間を待ちわびていた。
「俺達は……遂に鍛錬場を突破したぞぉ!」
フィンさんの叫びとともに、歓声が周囲に響き渡り空気を揺らす。
街までの道のりは人々で埋め尽くされていた。
街中では三日三晩祝いの宴が開かれ続ける。
そして皆の興奮も冷めやらぬ五日後、『獅子の咆哮』鍛錬場突破の祝賀会が公爵様の屋敷で催されることとなった。
いまだに着慣れない正装に着替え祝賀会に参加する。
まず公爵様から祝いとねぎらいの言葉をもらい僕達がそれに返礼した後、招待された他の街の領主や貴族の方々とパーティーとなる。
フィンさん達は、他の鍛錬場のある領主の方々や貴族に囲まれ、次は私の街へ! と引っ張りだこのようだ。
僕とティアナ、レイとミュールはそんな風景を眺めつつ同じように貴族達に話しかけられたり、お酒を飲んだりなどしていると、公爵様がやって来て僕に話しかけてきた。
「ムミョウ君……本当にありがとう。 君が来てくれたおかげで、この街が何度助けられたことか……ジョージ君の話では『獅子の咆哮』の40階層だけでなく10階層突破したほかの冒険者たちも出始めたという事だし」
「いえ……僕だけの力じゃありません。 皆が頑張ったからこその結果なんです。 公爵様もお力をお貸しくださいましたし……」
公爵様の深々としたお辞儀に対して僕も頭を下げる。
「ムミョウ君……それでなんだが……君の願い出ていたヤパン大陸への渡航を……認めようと思う」
「――!」
正直……通らないと思っていた。
ダメならばこの街から抜け出してでもと思っていたし、ジョージさんに頼んでギルドの連絡船へ同乗させてもらう手はずも整えていたのだ。
「私も君の言う事はまだ完全には信じられない。 ただ、君がこの街に貢献してくれたこと、そして、君の行きたがっている龍の巣が魔王復活阻止への鍵になる可能性を考え、王と話し合ってヤパンへの渡航を認めることにした。 名目上は各大陸の王国へ魔王復活の可能性ありという連絡要員としてだがね」
公爵様は何度も頷いた後、笑顔を見せる。
「バルタークに関しては『獅子の咆哮』の者達に稽古を依頼しよう。 それにジョージ君がギルド本部へ提出した君の名前付きの報告書……読ませてもらったが……あれが広まればもっと攻略者も増えるはずだ」
公爵様が僕に手を差し出す。
僕は一礼してから握手を交わした。
「フッケの街を代表して……君の健闘と、必ずまたこの街に帰ってくるのを祈っているよ」
公爵様の激励を受け、その日は『獅子の咆哮』の40階層攻略を祝った。
そして……
40階層攻略から2週間後、ノイシュ王国の東端にある港町に僕やティアナ、レイ、ミュールが集まり、その周りには『獅子の咆哮』の人達と、ジョージさん、ジョナさんがいた。
後ろの港には、王国から用意された立派な帆船が係留されており、僕達の出発を今か今かと待っている。
ジョージさんが僕にロウで封印された高級そうな手紙を渡してくる。
「これは公爵様から預かった、王様の署名入りの君の身分証明書だ。 これを見せれば向こうの王国でも自由に動ける。 龍の巣の情報ももらえるはずだ」
手紙を受け取り、背中の革のバッグに入れる。
「ジョージさん、本当に色々とお世話していただきありがとうございます。 僕は……必ず戻ってきますから」
「ああ、君が戻って来るのを楽しみに待っているよ」
ジョナさんも僕に近寄ると手を差し出してくる。
握手かなと思って手を出したらジョナさんはそのまま僕に抱きついてしまった。
え――? え――!?
突然の事で混乱し、周りを見ると皆がニヤニヤ笑っている。
慌ててティアナの方を見れば……笑っている?
……良かった……怒ってないみたいだ。
「ムミョウ君……私も待ってますから――! ずっと待ってますからね――!」
ジョナさんが涙を浮かべながら叫ぶので、安心させようと思って僕は笑いながら、はい! と大きく返事をした。
「羨ましい限りだな……ムミョウ君。 それはそうと、僕達『獅子の咆哮』は君が帰ってくるまでに全員祝福を受けられるよう他の鍛錬場の攻略に全力をあげるよ」
「はい! 皆さんなら必ず達成できると確信しています。 そちらもお気をつけて」
フィンさんとも固い握手を交わす。
その後は他の人と言葉を交わしつつ、出航間近の鐘が鳴ったため船へと急ぎ、桟橋を渡る。
すでにレイとミュールは船に乗り込んで僕とティアナを手招きしている。
レイとミュールは、危険性を考え最初はフッケに残ってもらおうか悩んでいたが……
「僕はしがみついてでも、絶対師匠についていくよ!」
と言われ、ミュールもレイが行くなら私も! となってしまった以上、苦笑いしつつも同行を許すしかなかった。
4人が船に乗り込むと、船に掛けられていた板が外され、係留用の縄も解かれる。
船の帆が広げられ、追い風を受けて徐々に進み出し、どんどん港が小さくなっていく。
皆が見えなくなるまで手を振り続け、遂に海の向こうに消えると僕は腰に提げている刀に目をやる。
イットウ様の故郷ヤパン大陸……
龍の巣とは、イットウ様とはどういう方だったのかなど、分からないことは多いけれど、まだ見ぬ世界に想いを馳せると不思議と心が沸き立って来るのを感じていた……
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