その52 白い雨

 「白い雨」は赤川次郎百五番目の作品。1985年に光文社から刊行、1987年に光文社文庫に収録された。2013年には同文庫から新装版が刊行されている。

 あらすじなどでは「戦慄のホラー作品」と紹介されているが、ホラーというよりパニックものの要素を取りいれたサスペンスといった方がよい。物語は大学のワンダーフォーゲル部が奥多摩の山中を歩いているところから始まる。部員の一人が足をくじいてしまったため思うように進むことができなくなった部員たちの間で、不安からそれまで沈澱していた人間関係の不満が充満し不穏な空気が立ち込める。一方近い場所にある集落では、アル中の父親から虐待を受ける少女や、傲慢な妻に仕打ちに傷つく夫、残酷な姑の意地悪に耐える妻などがいた。そんな彼らの上に白い不可思議な雨が降り注ぐ…。

 「人の心の奥にある憎悪を開放する雨」というスーパーナチュラルが介在するためホラーと形容されるのも仕方がないが、超自然的な設定はこれだけであり、あとは普通の人間たちによる虐殺が繰り広げられるので、やはりサスペンスというべきだろう。

 赤川次郎の描くサスペンスの特異なところは、陰惨でありながら奇妙な達成感があるところで、今作も手を下す側の人々の大半は普段かわいそうな目にあっているいわば被害者側に人たちであり、彼らの抑圧されていた怒りが開放され復讐するさまは昏い面白さがある。

 ミステリ的などんでん返しなどは全くないので展開は予想できる範囲を超えるものではないが、サスペンスものの長編として及第点以上の作品なのは保証できる。

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