その51 三毛猫ホームズの運動会
「三毛猫ホームズの運動会」は赤川次郎六十二番目の作品。1983年に光文社カッパノベルズから刊行、1986年に角川文庫、1987年に光文社文庫に収録された。作品の詳細な書誌データなどは角川文庫版の横井司による解説が非常に精緻でありがたい。
三毛猫ホームズシリーズとしては7作目にあたり、また初の短編集でもある。掲載誌も小説宝石や小説新潮といった専門誌であり、非常に気合の入った一冊になっている。しかし、気合が入っているからといって名作になるとは限らないのが赤川次郎作品のややこしいところである。
また収録されている5作品中、3作品で警察関係者が容疑者になっているというのもいただけない。ただでさえレギュラーキャラが刑事ばかりだというのに…。
とりあえず各話にそれぞれ触れていくことにしよう。
表題作「三毛猫ホームズの運動会」は警視庁主催の運動会に護送中の凶悪犯が紛れ込んでしまう。しかもその男はある刑事に深い恨みを抱いていた…。文庫で100ページ以上ある中編サイズの話で、しかも運動会という舞台で様々な人々の思惑の中事件が起こるという魅力的な展開だが、ラストがその途中までの面白さと釣り合っているかは評価が分かれるところ。
「三毛猫ホームズのスクープ」は若い女性がチンピラに襲われそうになっているところを捜査一課の栗原警視が助けるところから始まる。一方警視庁でミスコンテストが行われることになり、なぜか女性恐怖症の片山刑事が審査員に選ばれてしまい…。この話からただでさえキャラの濃かった栗原警視がより存在感を増していき、片山の影が薄く感じるほどである。しかしお話のほうは異なる二つのアイデアを無理やり繋げたような感じは否めない。そもそもミスコンの舞台を警視庁にする必要があったのかどうか。
続く「三毛猫ホームズのバカンス」はいろんな意味で収録作中一番アタックが強い。リゾートホテルで過ごす片山たちのところに、複雑な事情を持つ二組の夫婦がそれぞれ自分を殺そうとしている者がいるのではと相談を受けるのだが…。起こる事件の真相はいい意味で脱力感があって面白いが、それよりもラストのインパクトである。あまり言うとネタバレになるが、これをいい話として受け止めるのは相当な修行が必要だろう。
「三毛猫ホームズの温泉旅行」はある事件で誤って少年を撃ち殺してしまった刑事を巡る事件の話。また刑事かよと突っ込みたくなるが今回は関係者が警察官の意味もあるので良いか。ミステリとしては纏まっているがこれも「バカンス」同様突っ込みたくなるラスト。特に誰のせいで事件が悪化したんだとか考えたら…。わざとそう思わせている気もするが。
最後の「三毛猫ホームズの展覧会」は収録作中一番ミステリ的ガジェットが充実している。栗原警視が絵を描いたというのでいやいや展覧会に行くことになった片山だが、そこで極めてリアルに描かれた女性の殺人死体の絵を見てぎょっとする。数日後女性の死体が発見される事件に片山は参加するが、驚くべきことにその死体はあの絵にそっくりだった…。小粒だが安定したミステリ短編という印象。ただこれ以上栗原警視のキャラが濃くなると片山の立場がという余計な心配はある。
巻末の「三毛猫ホームズのバースデー・パーティ」はショートショートだが一番出来が良い。赤川次郎はショートショートの名手でもあり作品集も多いので当然だが。
全体としての感想は、キャラクター小説としては十分に面白いが、ミステリファンに胸を張っておすすめするかと言われたらためらうというところ。
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