その47 幽霊愛好会

 「幽霊候補生」は赤川次郎七十一作目の本で、幽霊シリーズ第三作目に当たる。1983年に文藝春秋から発行され、のちに文春文庫に収録された。2017年には赤川次郎クラシックスと題して同じ文春文庫から新装版が発売されている。

 前作同様、収録作全て短編のミステリであるが、気になるのは他の作品でも見たような舞台設定がいくつか使われている事である。あの執筆量を考えればしょうがないとはいえ、それでも微妙に被らないようにしているはずなのだが。

 例えばこの本に収録されている中でも、夕子と宇野警部が小さな子供の世話をするという話が二つ出てきている。さらに前作に続きまた双子がメインの話もある。

 「名探偵の子守唄」は遊園地を舞台にした事件。真相とホワイダニットは作中でも一番意外性がある。

 「青ひげよ、我に帰れ」は結婚する相手が次々と死ぬ俳優を巡る話。こういう事はあまり書きたくないが、トリックの質といい最後の雑さといい、赤川作品でもかなり下の方。

 「赤い靴はいてた女の子」は先ほども触れた、双子の姉妹の話。後年同人から人気の出たあるノベルゲームを思わせる(というかそのままいただいたのではないかという感じすら…)。

 「コウノトリは本日休業」は殺された女性の遺した六歳の娘が宇野警部を父親だという所から始まる騒動を描く。人間関係の錯誤が上手く使われていて、やはり赤川次郎はこういう話の方が上手い。

 「殺された死体」はある町の選挙のさなか現町長の妻の全裸死体が発見されるという話。なぜ死体が裸だったかという理由など短い中で良くまとまっている佳作。

 「幽霊愛好会」はある大金持ちの娘が殺され、霊体研究所の会員である彼は娘の霊から直接犯人を聴こうとするが…。設定は良いのだが話の筋がかなり強引な上、永井夕子の探偵としての見識を疑うようなオチで、お前はメルカトル鮎かと突っ込みたくなる。

 前作に続いて当たり外れが大きい印象のある幽霊シリーズである。

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