その46 幽霊候補生

 「幽霊候補生」は赤川次郎十作目の本で、「幽霊列車」に続く幽霊シリーズ第二作目に当たる。1979年に文藝春秋から発行され、のちに文春文庫に収録された。2017年には赤川次郎クラシックスと題して同じ文春文庫から新装版が発売されている。

 幽霊シリーズの特徴としては、収録作は基本短編ばかりなのだが、もう一つは赤川次郎作品にしてはミステリ度が高めであるというのがある。主人公の永井夕子が赤川次郎のシリーズキャラには珍しい自覚的な名探偵なので、遭遇する事件もミステリ度が自然上がるという事だろう。ただし、以前も書いたように赤川次郎の作風と本格ミステリは意外にマッチしなかったりもするのだが…。

 冒頭の「幽霊候補生」はシャーロック・ホームズで言うなら「空き家の冒険」のような話で、ミステリ感は無く単純に永井夕子が名探偵として帰還する話。これ以降永井夕子も宇野警部も、ついでに原田刑事も全く年を取らなくなる。

「双子の家」はタイトル通り双子が登場するトリッキーなミステリ。トリッキーすぎてこんなこと本当に実行する奴がいるのかというツッコミが多数ではないかという気もするが。

「ライオンは寝ている」はこちらもタイトルの通りライオンが出てくる話。トリック自体は豪快というか雑と言うかかなりの無茶だが、犯人の意外性は評価したい。

「巷に雨の降るごとく」はトリックだけではなく人間関係の錯誤もしっかり使っており一番の出来。タイトルの意味が読後変わるのもいい。

「眠れる棺の美女」は偽の葬式で本当に死者が出てしまう事件を描いている。被害者の刺された場所から夕子が犯人を推理するところは名探偵の面目躍如と言ったところか。

 以上五編、悪くはないのだが前作「幽霊列車」に比べるとややパワーダウンしているのは否めない。

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