その44 晴れ、ときどき殺人

 「晴れ、ときどき殺人」は赤川次郎五十三作目の本。1982年に角川書店から発行され、のちに角川文庫に収録された。2007年には赤川次郎べストセレクション四巻として改版が同文庫で発売されている。

 北里財閥の当主浪子は、一人娘の加奈子を遺して急死した。一人遺された加奈子は、浪子の机からある手紙を見つける。それはなんと、浪子がある事情から無実の人間を罪に追いやったという告白であった。しかもその事件の真犯人は、自分たちの身近にいるという。浪子の葬儀のため様々な人間や、警察に追われている容疑者、さらには生前の浪子が雇った探偵まで北里家の屋敷に集まってくる中、ついに事件が起こる…。

 物語のすべてが屋敷の中で起こるという舞台劇めいた設定の長編で、以前にも書いたが赤川次郎作品の三谷幸喜への影響というものを考えさせられる。

 設定自体は「いつか誰かが殺される」「死体は眠らない」を思い出させるが、先に紹介した二作に比べるとそこまでの破けというか、ハジケたが空気が感じられない。主人公の加奈子を含め、キャラクターたちが良くも悪くもこじんまりとしてしまっているのだ。そのためか事件も次々と起こり派手な展開なのにイマイチ盛り上がりに欠ける印象。ただ加奈子の婚約者(自称)の正彦という青年は何度やられても向ってくるゾンビのような存在である意味目立ちまくっているが。

 終盤ある事件のトリックを見破ることで一気に犯人を指摘するところなどは本職のミステリ作家の手腕発揮という感じなのだが、それもラストの駆け足加減で良さが目立たなくなっている。文庫にして270ページ足らずというボリュームが足を引っ張ったかもしれない。「尺が微妙に短い問題」は、赤川次郎の長編にはたまに顔を出すイメージである。


 ベストセレクション版に収録されている西上心太氏の解説は、「幻影城の作家と同世代の新しいミステリーの旗手」としての赤川次郎に触れている名文なので、一度は目を通して欲しい。

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