その43 毒<ポイズン>
「毒<ポイズン>」は赤川次郎三十二作目の本。1981年に集英社から発行され、のちに集英社文庫に収録された。2012年には日本テレビ系列でドラマ化されている。
四編の短編が収録されているが、収録作いずれも同じ設定の元に掛かれているオムニバス連作集である。設定と言うのは「無味無臭、一滴で致死量に達し、死後検出不能。死因は心臓発作にしか見えず、効果が出るのは摂取から二十四時間以上経ってから」という殺人者にとって夢のような毒が存在したら、はたして殺人者志望の人々はどうなるのか、というもの。
作中、毒への科学的根拠などは一切示されないので、「荒唐無稽な設定」と言われても仕方がない。もちろん作者は承知の上で書いているわけで、むしろこういう非現実的な設定を現実的なサスペンスに落とし込む手腕こそ赤川次郎の本領発揮である。
第一章「男が恋人を殺すとき」は前述の毒の存在を知った男がそれを手に入れ、煩わしく思っている恋人へ使うのだったが…。タイトルの通りオーソドックスな展開で、殺人自体は毒の存在もありあっさり実行されるが、その後浮かび上がる被害者の様々な顔に殺人者が苦しめられるという構成は良い。
第二章「刑事が容疑者を殺すとき」は、証拠不十分で釈放された誘拐殺人の容疑者を、彼の有罪を確信する刑事が毒で殺そうと…。収録された四編で一番短いが、鮮烈さと悲惨さは随一。数ある赤川次郎の短編でもここまで救いの無い話はそうそうない(全くない訳ではないのが怖い所だが)。
第三章「スターがファンを殺すとき」は、ジュニアスターの少女が自分に対して手紙や電話で執拗に心理的な圧迫を加える自称ファンを見つけ出して毒で殺そうと決意するが…。殺人に対し全く躊躇の無いスターの少女に彼女を取り巻く人々の身勝手さと最後の壮絶さが第二章に続いて印象的。「絶対的有利な毒を持っているはずの毒殺犯がなぜか振り回されてしまう」のがこの連作の最大の読みどころだろう。
第四章「ボーイが客を殺すとき」は、ホテルのボーイをしているある組織のメンバーが毒を手に入れ、それを首相や政財界の人々が集まる披露宴で使おうと計画する…。最後だけあって壮大な話であり、また実行犯のボーイと相棒の女性の悲愴さが物語をさらに盛り上げている。ラストにふさわしい一編。…なのだがその後のエピローグがかなり蛇足。
個人的な意見だが、赤川次郎という人は普段から十分諧謔精神に満ちた文章を書いているのに、ことさら「皮肉っぽく書くぞ!痛烈な批判するぞ!」と意気込むと空回りするような気がする(本編を読んだ人ならなんとなく分かってくれるだろう)。
しかしながらサスペンス連作としてはレベルの高い一冊。
また文庫版巻末の氷室冴子解説はかなり濃い内容になっており、1984年の段階でここまで本格ミステリ愛全開の文章は珍しいのではないだろうか。
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