その42 ミステリ博物館

 「ミステリ博物館」は赤川次郎五十四作目の本。1982年に双葉社から発行され、のちに角川文庫に収録された。2017年には徳間文庫から新装版が発売されている。

 収録作七編は『密 室』『人間消失』『脱 出』『怪 談』『殺人予告』『幽霊屋敷』『汚れなき罪』と、いかにも本格ミステリ然としたタイトルが付けられている。また七編中五編に、中尾旬一という赤川次郎にしては珍しい「親の遺産で悠々自適なディレッタント探偵」が登場するのも特徴である。

 しかし、こういう狙った本格ミステリの器が、良くも悪くもあまりハマらないのが赤川次郎なのも確かで、各編それなりにまとまってはいるものの、どこかしっくりこないものを感じる。

『密 室』はそこで寝泊まりすると死者が出るという部屋の謎に挑むという、いってみればカーの本歌取り。謎は魅力的だがトリックが実現可能かは多いに疑問。

『人間消失』は探偵役の中尾が登場しない、劇団を舞台にした不可能犯罪もの。犯人の意外性はさすがだが主人公がいささか精彩を欠く。

『脱 出』は脱出マジックを得意とするマジシャンを巡る事件で、これも設定は魅力的だが結末にはやや不満が。

『怪 談』は中尾が登場する作品では一番良い出来で、事件の真相に後味の悪さと赤川作品の良い所が出ている。

『殺人予告』はメインのトリックが単純だがなかなか効果的。

『幽霊屋敷』は事件の仕掛けはそれなりだが犯人の怖さが際立つ。

『汚れなき罪』も後味の悪い話だがメインとなるトリックの実行可能度は一番低いだろう。

 総じて悪い短編集ではないが一押しというわけにはいかない一冊。

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