その39 三毛猫ホームズの狂死曲

 「三毛猫ホームズの狂死曲」は赤川次郎三十一作目の本。1981年に光文社から発行され、のちに角川文庫・光文社文庫の両方から文庫が発売された。2016年には光文社文庫の新装版が刊行されている。

 片山晴美は目黒署の刑事石津とのデートの最中、女性たちの一団と知り合う。彼女たちは高名なヴァイオリン・コンクールの参加者であった。彼女たちに決勝進出の連絡が向かう。しかしその直後に晴美は参加者の一人への脅迫電話を偶然聴いてしまう。

 一方コンクールの主催者である指揮者の朝倉は、コンクールの決勝進出者たちの合宿に警備を付けて欲しいと捜査一課に相談に来る。課長の栗原警視の脳裏に浮かんだのは、ある一人の刑事と一匹の三毛猫だった…。

 三毛猫ホームズシリーズ四作目に来てさらにブーストがかかったという感じの今作。前作「怪談」で固まったフォーマットに加え、片山の上司の栗原、同僚の根本刑事、鑑識の南田といった脇役もしっかりと個性を見せ、ますます面白く仕上がっている。

 もちろん、面白さを支えているのが物語そのものであることは間違いない。「音楽コンクールに挑む男女が決勝に備えるため東京郊外で合宿する」という設定をサラッと作ることで現代(1980年前半だが)日本に一種のクローズドサークルを作って見せるあたりの上手さや、ステロタイプではあるが癖のある参加者たちの描写、その中で起こる不可解な殺人とミステリとして非常に魅力ある部分が多い。

 そういった中でもペースを崩さず事件に挑む片山ホームズ晴美石津のカルテットの愉快さが作品の魅力をさらに引き立たせる。終盤4人(?)で事件についてディスカッションするあたりなどは海外ミステリのような雰囲気を感じる。

 事件の展開も裏切らない面白さで、真犯人の意外さは相当なものである。

 途中に出てくる突然現れる死体の謎がやや蛇足なのが残念だが、全体としては高レベルの長編ミステリとして推せる一作。

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