その35 三毛猫ホームズの騎士道

 「三毛猫ホームズの騎士道」は赤川次郎七十七作目の本で、三毛猫ホームズシリーズの八冊目にあたる。1983年に光文社から発行され、のちに角川文庫・光文社文庫の両方から文庫が発売された。2018年には光文社文庫の新装版が刊行されている。前に紹介した「霧の夜にご用心」「沈める鐘の殺人」と同年の作品。

 刑事の片山と妹の晴美は、資産家・永江和哉からの依頼でドイツへと渡った。古城に住む和哉の弟の様子がおかしいという。三年前、英哉の妻は何者かによって惨殺されたのだった…。


 三毛猫ホームズシリーズはこの時期ヨーロッパを舞台にした作品を数作出しているが、今作はその中の一つ。隔絶した異国の古城を舞台に連続殺人が起きる、という前回紹介した「沈める鐘の殺人」同様いかにもな舞台設定を用意した一作。にもかかわらず作中のテンションは「沈める~」とは全く違う。違う部分は色々あり、まず雰囲気が良い。舞台が海外と言うだけではなく、登場人物の配置からやり取りまで海外ミステリっぽい空気を醸し出している。それに加えてシリーズのレギュラーキャラである片山・晴美・石津・ホームズが揃っているのだからこれはもう盛り上がらないわけがない。

 特に今回は片山の良さが群を抜いており、この作品で一番評価したいのは「迷探偵」としての片山だと言っても過言ではない。正直片山はキャラとして過小評価されているのではないだろうか。「俺は道化としてしか役に立たないのか」という台詞や「どうしようもないときにしか動かない片山としては画期的な決心である」という地の文での揶揄など本当に面白い。

 とはいえやはり“ガチガチの本格ミステリ”とまでを期待するとそれはさすがにと…なってしまう。赤川次郎は、ロジカルに話を持っていくのではなく、エンタメとしての面白さにミステリの要素をちりばめる手法を得意としているが、その中でもミステリの要素が多めに含まれている作品なのは間違いない。だが作風上どうしてもミステリとしてガチガチにはなりにくいのは事実である。

 ただラストの一行もオシャレだし、ノリに乗って書かれたことがうかがえる。

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