その34 沈める鐘の殺人

 「沈める鐘の殺人」は赤川次郎六十四作目の本。1983年に講談社ノベルスから発行され、のちに講談社文庫に収録された。2015年には角川文庫から新装版が刊行されている。

 ちなみに1983年は前回紹介した「霧の夜にご用心」も含め赤川次郎は実に二十二冊もの本を出していて、初期の中でも絶好調な年だったようだ。

 あらすじは、26歳の女性教師、迎三千世(むかえ・みちよ)が新しく赴任する鐘園学院は、教師がよく事故に遭うという学校だった。赴任して早々、三千世は学校の大きな池でおぼれる女生徒を発見するが…。

 人里離れた全寮制の学校で起こる事件に、失われた鐘の伝説、謎の行動をとる少女…といった感じの“いかにも”な要素てんこ盛りの長編なのだが、不思議とテンションがあまり上がらないまま話は進んでいく。盛り上がる要素は十分なはずなのに、なぜだか淡々と話が進んでしまい、終わっていったというのが初読の正直な印象である。

 原因としては登場人物たちのインパクトが弱かったせいだろうか。赤川次郎作品の魅力はぶっ飛んだキャラクターの個性なので、今作では舞台設定を超えるキャラクターが出てこなかったのが物語の盛り上がりを妨げたのかもしれない。


 ちなみに作中に登場する謎めいた女生徒の名前は中沢爽香。赤川次郎の大河シリーズとなる「杉原爽香シリーズ」が開始するのはこの五年後の事である。

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