その31 世界は破滅を待っている

 「世界は破滅を待っている」は赤川次郎四十二作目の本、1982年に青樹社から発行され、現在は徳間文庫から新装版が刊行されている。徳間文庫版の解説で村上貴史氏が書いているように、収録七編中六編がサラリーマン主人公の作品なのが特徴の短編集といっていいだろう。

 巻頭の「コピールーム立入禁止」は時代を超え2019年の今を生きるサラリーマンに突き刺さる名作。主婦の香子は夫の部屋からゴルフバッグと散弾銃が紛失している事に気づく。もしかして義弟の茂が盗んだのではと疑念を抱くが…。「駐車場より愛を込めて」(「真夜中のための組曲」収録)と並び、向いていない人間にとって会社勤めとは地獄に等しいという内容を1980年代初頭に描いていた赤川次郎の先見性はいくらでも賞賛されていいだろう。

 その他にも主人公の善良さが物語の苦みを引き立たせる「善意の報酬」や、星新一のショートショートを思わせるブラックな「手土産に旨いものなし」。起こっている事態は深刻なのに、主人公や周囲の反応がそれを感じさせない「燃え尽きた罪」「冷たい雨に打たれて」など、赤川短編のアベレージの高さを堪能できる。

 違う短編とネタが被っている「満たされた駆落ち」と、サスペンスのわりに緊迫感があまり伝わってこない表題作など瑕疵が無いではないが、作者の切れ味を存分に感じられる一冊。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る