その29 湖畔のテラス
「湖畔のテラス」は、1985年発売の赤川次郎百十一冊目の作品となる短編集。集英社で単行本としてまとめられたのち、集英社文庫に収録された。
収録作はいずれもミステリ色はかなり薄く、サスペンスであったりホラー風であったり様々な作品が入っているが、いずれも赤川次郎の特色である「容赦なさ」がよく出ている。
表題作「湖畔のテラス」は、暴君のような妻に虐げられている夫が不倫相手と旅行するため向かった湖畔のホテルに、妻が自分の姪を監視目的で向かわせる。全編通しての救いのなさがラストの透明感を増している。
続く「真夜中の停電」は収録作では唯一のミステリ。訳有りの男女ばかりが集まったホームパーティーの最中に起った停電で起こる惨劇。20ページ強ほどだが切れ味が良い。
「砂に書いた名前」は彼女の別荘に招待された青年を待つ奇妙な体験の顛末。赤川次郎特有のとぼけたユーモアがホラーとコメディの中間を行き来させている。
「静かな闘い」は営業マンの家族を突如襲った悲劇と、引き金となった暴走族とのトラブルを並行して描く。赤川次郎短編でも屈指の陰鬱な空気を纏った短編である。
「離婚案内申し上げます」は収録作ベストだろう。平凡な中年サラリーマンの主人公が、ある日突然妻から離婚したいと告げられ、しかも分厚いノートにびっしり書き込まれた数十年の夫婦生活で嫌だったことを、離婚するまで毎日延々と聞かされる羽目に…。
最後の「窓際連盟」は、サラリーマン生活の長かった赤川次郎お得意の会社を舞台にした復讐劇だが、他の作品に比べると切れ味がやや悪いのが残念。
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