その27 復讐はワイングラスに浮かぶ

 「復讐はワイングラスに浮かぶ」は、1983年発売の赤川次郎六十五冊目の作品となる短編集。新潮文庫に収録後、2008年に集英社文庫で人気少女漫画家谷川史子の表紙で再版された。


 短編集には時折、一作だけ突出した内容の作品が収録されているという物がある。

 例えば浅木原忍氏が「ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド」で語っていた「たそがれ色の微笑」は収録作「白蘭」のために読まれなければならぬ、というような物である。


 その言い方を踏襲するのであれば、「復讐はワイングラスに浮かぶ」は収録作「ある晴れた日に」のために読まれるべき短編集だと言える。

 民間向けの天気予報会社を経営していたが、ライバル会社の台頭により倒産してしまった元社長の内田のところに、明日必ず晴れにして欲しいという少女が現れる。明日の天気は雨だと知っていた内田はからかい半分、明日を晴れにするのにはすごくお金がかかるよと言ってその場は別れるのだが…。アイディア、キャラクター、切れ味全て最高クラスであり、読後の爽やかさも含めてオールタイムベスト級の短編と個人的には感じた。文庫でわずか40ページほどしかないことが信じられないほどの密度。

 「ある晴れた日に」と比べるとほかの収録三作がどうしても見劣りしてしまうのはいなめない。これは他の三作が悪い訳ではなく、「ある晴れた日に」が突出しすぎているせいだと言えよう。

 しかし、平凡なサラリーマンの思いがけない冒険を描いた「静かなる会議」、女性社員の早期退職を防ぐためとんでもない対策を実行した会社の顛末「復讐はワイングラスに浮かぶ」は十分水準の面白さを達成している。

 唯一「別れ話にはコーヒーが似合う」は主人公の造形に気になる点があり物語に集中できないのが残念。

 ともあれ「ある晴れた日に」目当てで読んでも絶対に後悔はしないと断言できる一冊。

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