その26 ト短調の子守歌

 「ト短調の子守歌」は、1984年発売で赤川次郎九十一冊目の作品となる長編。

 物語は、人気絶頂のアイドル小松原麻子の通う高校にライフルを持った男が侵入するところから始まる。仕事で学校に不在だった麻子に対し、男は生徒たちを人質にし麻子に会わせなければ1時間に1人ずつ生徒を殺していくと要求するのだが…。

 今作は完全なサスペンスで、いわゆるミステリ的などんでん返しなどと言うものは全くない。しかしながら全編通して抜群のリーダビリティであり、サスペンスにしろコメディにしろ、この手の特殊なシチュエーションを書かせるとさすがとしか言いようがない。

 ただでさえ非常事態なのにもかかわらず、主人公の麻子をはじめ彼女のマネジャー・事務所社長・担当警部・マスコミ・事件の被害者家族・麻子のファンなどが自分の都合を押し通そうとするあまり、さらに事件が複雑になっていく様は赤川次郎の本領発揮である。

 赤川次郎はアイドル・女優などを描くことが多いが、麻子の造形も含めて「ト短調の子守歌」は一つの完成形かもしれない。


 一つだけ欠点というか気になるのは作中撃たれるキャラがみんな同じ部位ばっかり撃たれていることか。

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