その23 駆け落ちは死体とともに

 「駆け落ちは死体とともに」は1980年発表の赤川次郎十四冊目の本。短編集であり収録本数は八編。中にはショートショートのような長さの物もある。

 「駆け落ちは死体とともに」はやはり表題作が印象的。予備校生カップルが駆け落ちを試みるが持っていたトランクから死体が出てくるというお話。設定のインパクトがまず強烈だが、読み終えるととこのカップル二人の鮮烈さが一番残る。どんな喜びや悲しみも所詮は人生の暇つぶしか。

 「交換日記」も印象的な作品。息子と年上の女性の交際を赤裸々に書いた日記を見つけた父親がその相手を探すのだが。構造は単純だが全体を通しての暗いトーンが心にしみる。

 「善の研究」はある老人が社会のためにならない男を始末しようとするのだが…。星新一作品のような切れ味のショートショート。

 「霊魂との約束」はミステリではなくホラー。心中に失敗し生き残ってしまった女性のお話。クリスティのノンシリーズのような雰囲気。

 「二つの顔」はスター歌手と瓜二つの男が、スターと定期的に入れ替わるアルバイトをする話。双子トリックの変奏曲のような筋だが、この事件って他に真犯人いるような…。

 「命のダイヤル」はオススメ。部下のOLに自殺の予告電話をする男の真意とは。ヒロインよりもヒロインの妹が非常に印象的。赤川次郎の作品には性格の良し悪しにかかわらず「人のために死ぬのはまっぴらごめん」というような強い女性がよく出てくる。

 「遠い日の草原」と「壁際の花」はともに少女の姿が悲しい。特に「壁際の花」はミステリとの融合が見事。

 全体として初期作品らしい透明な暗さのある良い短編集。


 またこういう話で申し訳ないが、集英社文庫版の神津カンナの解説は最悪。6ページもあるのにそのうち2ページが自分語り、その後浅い探偵小説論からペラペラの各話解説と、最低の解説文。

 どうも赤川次郎は文庫の解説に妙な文章が多い気がする。

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