その22 殺人よ、こんにちは

 「殺人よ、こんにちは」。 1983年発表の六十一番目の作品。現在は角川文庫の「赤川次郎ベストセレクション」に収録されている。

 あらすじは、主人公のパパはある日突然死んだ。だが主人公はママが殺したのだという事を知っていたのだ。ママは若い男とさっそく婚約し、主人公の周囲には事件が起こり始める…、というような話だが。

 正直あらすじはどうでもいい。


「殺人よ、こんにちは」の魅力はひとえに主人公・丹野有紀子の魅力が全てであると言い切ってもいいだろう。ミステリとして良くできた話(クリスティのある有名作を思い出す人も多いだろう)だが、それらが吹き飛んでしまうくらい彼女の存在感は強烈である。

 丹野有紀子は「ミス・マープルが内面だけそのままで13歳に若返ってより辛辣になった」ような少女である。

 徹底して乾いた観察眼と大人への厳しい態度、なによりこの世は全て退屈しのぎのために出来ているという人生観を持って生きている。強烈な個性ばかりが出てくる赤川次郎作品の中でも屈指のキャラだろう。

 そんな有紀子の視点を通して、愚かしくも残酷な悲喜劇が彼女の母親・婚約者・叔父・親友などの間に繰り広げられる。わずか230ページほどだがインパクトはすさまじい。特にラストの残酷な美しさは必見。


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