その18 自殺行き往復切符
「自殺行き往復切符」赤川次郎五十二作目の本。
一流企業部長の娘である今日子は恋人の木村と心中を装った駆け落ちを画策する。しかしその偽装心中の最中に今日子は木村に崖から突き落とされてしまう。実は木村は数々の女性を騙してきた詐欺師であった…という出だし。
巻を措く能わず、という言葉があるがこの本はそれにふさわしいだろう。文庫380ページと決して短くはない分量を一気に読ませてしまう。
ミステリではなくサスペンスなのだが、赤川作品の特徴である「誰が殺されるかわからない」「誰が殺すかもわからない」を最大限活かしている。
物語の主人公は詐欺師(というには殺人もいとわないのだが)の木村/仮名なのだが、それ以外のキャラもとにかく立っている。全員が自分の私利私欲のために動き、木村を追う側までもが欲のために動いているため、物語全体にいつ崩壊するかわからない緊張感がみなぎっている。
また今作の特徴としては、キャラクターの「不快な魅力」が目立つ。特に主要キャラの美沙の友人・布子のキャラは出色。彼女が物語中盤で行う決断は、この手のサスペンスのわき役としては最低なもので呆れかえるしかない。よくこんな不愉快キャラをサラッと出せるものだ。
余談だが角川文庫版(1985年初版)の解説で谷口俊彦氏が名探偵の例として「シャーロック・ホームズやピーター・ウィムジー卿」と書いている。はたして当時の赤川次郎主要読者層の何割がピーター卿を理解できたのだろうか。
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