その17 サラリーマンよ 悪意を抱け

「サラリーマンよ 悪意を抱け」は赤川次郎二十六冊目の単行本となる短編集。

 収録作は1978年~1980年の間に小説新潮に断続的に掲載された物。専門誌への掲載作を集めたのと言う事もあってか、非常にレベルの高い短編集になっている。

 冒頭の「サラリーマン四銃士」は赤川次郎の本領発揮と言うべきユーモア短編。傍若無人な部長に恨みを抱く4人の社員が結束して部長殺害を計画しいざ実行しようとするが…。やっている本人たちは真剣なのに傍から見ると滑稽の極みという、シチュエーションコメディのお手本のよう。

 二作目の「沿線同盟」は後の世なら「世にも奇妙な物語」の原作かと言うような話。何とも言えない気持ち悪さが漂っている。

 ミステリファンに激推ししたいのが三作目「給与明細異常なし」。”計算機”と仇名されるほど緻密で人間味に欠ける経理担当の男性社員が、ある些細なことをきっかけに殺人を計画する。倒叙ミステリな所といい、動機の不気味さといい、まさにロイ・ヴィカーズの迷宮課を思わせるミステリ短編。これも赤川次郎ベストを組む時には入れたい。

 四作目「雨の朝、窓際の死す」も筋の後味の悪さといい、最後の救いの無さといい、収録作では一番の作品。登場人物が誰一人(自業自得とは言え)幸福にならずに終わるラストの苦さは登場人物に厳しい赤川次郎ならでは。

 五作目「栄光からの脱出」だけは構成がルーズで残念だが、それも六作目「われら、同胞たち」が救ってくれる。「会社へ…」と言い残して深夜の電車内で亡くなったサラリーマンをなんとか会社に連れて行こうと、その場にたまたま居合わせた乗客たちが力を合わせて彼の遺体を会社へ連れていこうとする、悲しくも美しい一編。


 現在「サラリーマンよ悪意を抱け」は集英社文庫から出ているが、新潮文庫版に収録されていた青木雨彦氏の解説をそのまま再録しているのがありがたい。初期の赤川次郎論としても名解説なのでぜひ一読を。

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