その14 ひまつぶしの殺人

 「ひまつぶしの殺人」は赤川次郎六冊目の単行本、1978年刊行なので極めて初期の作品となる。ミステリファンにとって読んだことが無くてもが設定だけは知ってると言う人も多いと思う。

 設定の特異さでいうと赤川作品でも上位なこの作品。 父親を早くに亡くし、母親が女手一つで育ててきた一見平凡な早川家。しかし実は彼らは

 母親→泥棒

 長男→殺し屋

 長女→詐欺師

 次男→弁護士

 三男→警官

 というとんでもない一家であった。

 母長男長女のとんでもない裏の顔をすべて知っているのは二男の圭介だけ。 そんなある日、「橘源一郎」という謎の大富豪が自慢のダイヤのコレクションとともに来日することになった。 早川家の面々はそれぞれの立場で橘源一郎とかかわりを持つことになってしまう。

 かなりややこしい人物配置だが

 母→橘のダイヤを盗もうとする

 長男→橘の暗殺を依頼される

 長女→橘に近づき情報を得ようとする

 三男→橘の護衛とダイヤの警備を担当する

 というのが各自の立場であり、次男圭介はなんとかして家族が衝突しないようにする。

 当時デビュー二年目の赤川次郎がアイディアと稚気を詰め込んだような長編。家族のだれがその場面を担当するかでがらりと雰囲気が変わり、母が出るとコンゲーム、長男が出るとハードボイルド、長女だとラブサスペンス、次男か三男だとコメディになっている。

 早川家以外も個性的な面子が続々登場する作品で、舞台となる「ホテルVIP」の自称探偵である浅里岐子や謎めいた富豪橘源一郎、母親の手下である泥棒コンビや「鬼本」の異名を持つ浜本警部など濃いメンツばかり。

 あらゆる登場人物がある事件に向けて集約していくという構成は「ゼロ時間へ」を意識して書かれたと思われる。ただしあまりにもいろんなことが起こリ過ぎて集中しづらいのが欠点か。

 タイトル「ひまつぶしの殺人」の意味が分かる終盤は思わずニヤリとするが、その裏に潜んでいたもう一つの真相にはあ然とせずにはいられない。人によってはドン引きする可能性もある。

 ラストにはろくな伏線はないものの、実はこの展開しかない、と言うようなベタなもの。にもかかわらず作中のキャラたちが結ぶある関係のせいで読書中はそれに全く気付かない。ミスディレクションと呼ぶには狡猾と言うか邪悪ですらある。

 文庫版の解説で中島河太郎氏が「笑いの陰の剣ほど怖いものはない」と赤川作品を表現しているが、それが見事に当てはまるラストだと思う。

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