その13 さびしがり屋の死体
「さびしがり屋の死体」は赤川次郎二十五作目の本。ミステリ読者は「幽霊列車」と並んで読み逃してはいけないのがこの短編集ではないだろうか。
「さびしがり屋の死体」は五編の短編が収録されているが発表年代が1978~1980、初出雑誌が小説現代・小説宝石・小説推理ということもあってか各編非常に才気とアイディアがあふれている。現在出ている徳間文庫版の千街氏の解説が見事なのであまり語るのもあれなのだが。
表題作「さびしがり屋の死体」はいかにも名探偵然とした精神科医や刑事などが登場し『赤川次郎にもこういういかにもな設定を使うことがあるんだなあ』などと思っていたら最後にすこーん、と足元をすくわれる。アイディアが生硬な部分はあるがメイントリックは連城三紀彦作品を思わせる。
「長き眠りの果てに」は設定が魅力的な作品で、山荘で起こった殺人事件の唯一の生き残りの女性が長い昏睡状態からついに目覚めた。それを知り当時山荘に居合わせた一族の人々は騒然とする…という話。文庫で50ページという短さなのが非常にもったいない、100ページ以上はほしかった。ただこの短さだからこそのエクストリームな迫力があるのも事実で、終盤の展開は置いてけぼりになりそうなほど性急。最後の落ちがより一層物語を悲壮にしているのも印象的。
「死が二人を分つまで」は一切前情報なしで読んでほしいが、男女関係の相克といい見事なプロットの反転といい、赤川次郎ベストを組めと言われたら間違いなく入る作品、これこそ連城っぽい!いや発表は1978年だからむしろ連城が意識したのかも。
「できごと」赤川次郎は学校にトラウマでもあるのかと勘ぐるほど学校がらみの嫌な話が多いのだが、今作もその系譜。修学旅行中に女生徒がレイプされ、アリバイのない男子生徒がいたが保護者達は何とか嫌疑をそらそうとする。結末よりも保護者の二転三転する身勝手な論理が非常に嫌で読みどころでもある。
「三人家族のための殺人学」は夫婦がそろって殺し屋というのちに多くのシリーズでみられる赤川次郎お得意の破天荒な設定の話。スリリングなストーリーもそうだが、泡坂妻夫ばりの超絶ラストも見もの。
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