その12 孤独な週末

 「孤独な週末」は『土曜日は殺意の日』で当初刊行された赤川次郎十七冊目の本。中編程度長さの表題作と、三編の短編の計四編が収録されている。

 表題作「孤独な週末」は元上司の男と結婚した若き妻、紀子が彼の十一歳になる息子の正実と、週末二人きりで山荘で過ごすことになるという話。義理の息子と仲良くなろうとする紀子であったが、正実の行動は紀子の予想をはるかに超えるものであった。100ページ以上ある中編だが未読者は間違いなく一気読みだろう。ストレートなサスペンスだが、主人公紀子の感じる恐怖や不安が読者にも蟻走感のように伝わる。小学生の子供の正実をここまで気持ち悪いキャラに書き上げたのは見事。

 表題作でも十分おつりがくるが、続く「少女」も良い。中年サラリーマンの笠原は自分を買ってほしいという少女に出会う。笠原はお金だけ渡して彼女には手を出さずに帰ったのだが…という話。笠原は赤川作品によくいる底抜けのお人よしで、たいていこの手のキャラはひどい目に合うのだが彼はどうなるのか。読後が爽やかな佳品。

 三作目の「尾行ゲーム」はこれまた主人公は平凡なサラリーマン。だが趣味は平凡ではなく、『尾行』。ランダムなターゲットを決め、その人物を尾行するのを趣味とするという男が巻き込まれた事件を書く。しかし尾行ゲーム自体は面白いが事件に巻き込まれた後の展開に新味が薄いのがやや残念。

 四作目「凶悪犯」は表題作に並ぶ名作。地方都市の警察に所属する特別狙撃班はあまりにも出番がないため消滅の危機に陥っていた。そこにスーパーに銃を持った凶悪犯が立てこもり、ついに狙撃班の出番となるが…。初期筒井康隆作品のようなテイストで、序盤から終盤に至るまで深刻な事態のはずなのにどこかコメディじみた空気が漂っている、と思ったらまさかの展開。ぜひネタバレなしで読んでほしい。

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