その10 裁きの終わった日
「裁きの終わった日」1980年発表、赤川次郎二十八冊目の本である。
これは…すごい。
読み終ったあと思わず息を飲んでしまう、それくらい衝撃的な内容だった。「アガサ・クリスティー完全攻略」的に言えば『今までこれを未読だった俺は死んだ方がいい』と言う奴だ。これを読まずにミステリを云々語ってきた自分が恥ずかしくなる。
デビュー三年目にしてここまでの話を書いているとは驚きしかない。
以前書いたクリスティフォロワーとしての実力がいかんなく発揮されている。
今作は非常に魅力的な出だしだ。大富豪が殺され、その謎解きのため名探偵然とした犯罪研究家が関係者を一堂に集め犯人を指摘しようとするが、謎解きをしようとしたその刹那、犯人を名乗る男が研究家を刺殺。というまさに「本格ミステリ」が終わった後から物語は始まる。
物語は大きな二つの流れの元で進む。一つは大富豪を殺したのは本当に犯人を名乗る男なのかという謎を巡る話と、殺された大富豪が経営していた会社を巡る陰謀劇。前者はさておき、後者は殺人事件に何の関係があるのかわからないまま進んでいく。
今作にはクリスティが得意としていたテクニックの中でも最も模倣しにくい
「人間関係の錯誤」と
「真相の隠ぺい」
の二つが見事に炸裂している。ラストに明かされる真相は恐ろしくあからさまでこの真相以外にありえないのに、読者はこの真相にたどり着くことができない。
この真相、実はかなり唐突なのだが、この唐突さは「死者の学園祭」の唐突さとは違う。
繰り返すが真相はこれ以外無いのは分かっているはずなのに、そこに考えが及ばないように話が進むので唐突に見えるのだ。クリスティの作品に無理やり例えると「ナイルに死す」だろうか。
今作にはもう一つ、ある海外の有名な古典作品のエコーが響く。作品名を言うと完全にネタバレになるので言えないが、ラストの苦みは胸を本当にえぐる。たった数ページのエピローグでここまでの衝撃を与えるのだから本当にすごい。
一つ付け加えておくと今作はガチガチのミステリと言うわけではなく、トリックではないプロットで読者を驚かすタイプの話だとは申し添えておきたい。
最後に一つだけ。現在新刊で手に入る新装版の金井勇太氏の解説ははっきり言って最低である。エピローグの重大なセリフと、それを言った人物の名前をあっさりばらしている(一応伏字にしてあるがバレバレ)。内容も全く見るべき所は無いので本編前に読む事のないよう。
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