その9 三毛猫ホームズの追跡

 「三毛猫ホームズの追跡」の発表は1979年、赤川次郎九冊目の本にして三毛猫ホームズ第二作にあたる。

 今作は片山刑事の妹・晴美が働く新都心教養センターに、三十もあるクラス全ての講座を受講したいという女性が現れる所から始まる。 しかし、その女性はすでに殺されているはずで、しかもその直後から教養センターの講師が次々に殺されていくというのが筋。

 前作「三毛猫ホームズの推理」がミステリとして純度が高く登場人物の造形が穏やかだったのに対し、「追跡」は物語や登場人物たちのバラエティ度が非常に上がっている。教養センターの個性的な講師たちに新レギュラーの晴美に片想いをする石津刑事に、片山の上司栗原警視などいずれも過剰なぐらいのキャラ立ちっぷり。

 事件自体も錯綜していて、教養センターの講師連続殺人事件に加え、二年前に殺された女性の親族にも事件が降りかかる。さらに片山や晴美も事件に巻き込まれるとサービス満点振りだが、その錯綜ぶりが逆に読みづらくしている部分も。

 ミステリとして重点を置くのであればあくまで講師殺しに焦点を当てて描いていくべきだったと思うが、若き日の赤川次郎にはそれだと物足りないと映ったのかもしれない。ミステリとしていい要素が盛り込まれているだけに惜しい。

 今作は登場人物は決して多くないにも関わらず意外な犯人を演出することに成功しており、トリックも鮮やか。またダイイングメッセージも登場していてミステリとして読みどころは多い作品である。

 それだけに不必要に錯綜したプロットが惜しいというか贅肉に思える。好きな作品ではあるが、「推理」には及ばないというのが率直な印象。

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