その6 死者は空中を歩く

 「死者は空中を歩く」は1979年刊行。万華荘と呼ばれる邸宅に住む大富豪、千住は邸宅の中央に巨大な塔を建ててそこでくらす変人である。そんな彼のもとに窮地に陥ったところをなぜか千住によって救われた男四人が集められ、こう言われる。曰く「わたしを殺してほしい」と。

 やがて邸宅には家出していた千住の娘に彼女の夫、さらには刑事まで集まって大騒動になって行く…。 「本格ミステリ・フラッシュバック」でも取り上げられた今作、設定だけ聞くとすわ島田荘司か新本格かといきり立つ舞台にエキセントリックな登場人物たち。ミステリの予感がぷんぷんする。

 しかし話はミステリと言うより、スクリューボールコメディのようなハイテンションな展開になって行く。連続しておこる殺人、絶海の孤島でもないのに外に連絡が取れない状況、そこに関わってくるすさまじく無能な刑事たち…三谷幸喜は赤川次郎に影響されたんじゃないかしら。

 本格ミステリを期待すると肩透かしを食らう話。犯人は意外だけどトリックは間違いなく実行不可能。しかし読んでる最中は面白い事この上ない。ただでさえひどい話が後半もっと収拾がつかなくなっていく様はあっけにとられるしかない。

 赤川作品には珍しくかなりのハッピーエンドなので安心して読める(余談だが赤川作品は誰が死ぬかわからないのでうかつに感情移入できない)。

 角川文庫版の千街氏の解説はミステリとしての赤川作品にかなり踏み込んで書いた内容なので未読の方はぜひこちらで読んで欲しい。

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