その3 マリオネットの罠
「マリオネットの罠」は1977年発表。文庫新装版解説の権田氏によるとこちらの方が死者の学園祭より早く書き上げていたという、本当の長編デビュー作。
ストーリーは山奥の洋館に幽閉されていた女性が、事件をきっかけに外界へ放たれる。街に出た彼女は次々と冷酷な殺人を続ける。果たしてその目的は…?という筋。
最後にはいわゆるドンデン返しが待っているのだが…これは驚いた。というのも近年話題になり大ヒットした某海外ミステリと同じ展開なのだ!しかもタイトルは「シンデレラの罠」ならぬ「マリオネットの罠」。
もしやアレの作者がこれを参考にしたってことは…さすがに無いだろう。しかし、アレに先んじること実に三十数年である、これはちょっとすごいのではないだろうか。アレが話題になった時、この作品との相似を言った人っているのだろうか?
ただしマリオネットの罠はサスペンスではあってもミステリではない。ラストのドンデン返しに至る伏線もほぼ無い。これは読み直すと丁寧に伏線が張られているアレとはだいぶ違うし、この作品の個人的に残念なところでもある。
これは作品の発表時期も若干関係しているのではないだろうか。1977年当時に新人がサスペンス風味に見せかけて実は本格ミステリというのは書きづらかったのかもしれない。赤川次郎のデビューが十年遅れていたらというのはなかなか魅力的なifである。
作者自身も400か所以上修正を入れられたと回想しているように、マリオネットの罠は相当に読みやすくい作品だ。展開は波瀾万丈で飽きさせることがない。また大量に死者の出る作品でもあり、ざっと数えると事件にかかわって死んだ人実に十四人。
特に第二章は読みごたえがある。街に出た女性殺人鬼が次々に犯行を重ねていくさまは、後の作品でも登場人物に容赦なく非業の運命を辿らせる作者の片鱗が大いに見受けられる。しかし後半の秘密組織やら謎の病院やらのくだりはちょっと…「奇子」の後半じゃないんだから。
これは二十一世紀の後だしジャンケンになってしまうけど、ラストのオチに至るまでの過程をキッチリ伏線を張って丁寧に描写していれば、「赤川次郎の初期代表作」から「日本を代表するミステリ」になっていたのでは。とにかくアレに先んじていただけに惜しい。
この作品の内容がもう少しミステリ寄りだったら、新本格の時代は10年早まったかもしれない。
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