第33話★何度でも、君に恋をする パート2


「ーーおばさんっ、おじさんっ。お帰りぃー」


ヒラヒラと手を振りながら、ニコニコと嬉しそうに微笑むひぃくん。


……ん?

その手に持っているのは、まさか……。


何やら右手に一枚の紙を持っているひぃくん。

その姿に、嫌な予感がした私の顔は瞬時に青ざめた。


「ただいま、ひぃくん。花音と仲良くしてた? 」

「おぉ、響! ただいま。お前は相変わらずイケメンだなー。……まぁ、翔も俺に似てイケメンだけどなー」


そんな事を言いながら、呑気にニコニコと微笑むお母さん達。


そんな二人を見てニッコリと微笑んだひぃくんは、右手に持った紙を胸元でピラッと開いた。


「ーー花音をお嫁さんにください」


ーーー!?


フニャッと笑って小首を傾げたひぃくん。


その胸元には、ひぃくんの署名入りの婚姻届が……。


突然目の前に出された婚姻届に、驚いた顔をして固まってしまったお母さん達。


今にも目玉が落ちてしまいそうな程に目を見開いたお父さんは、目の前の婚姻届を穴が空くんじゃないかってぐらいに凝視している。


えっ……。

何してるの……?ひぃくん……。


全員が驚いた顔を見せる中、私は真っ青な顔をして固まった。


「……花音には高校卒業してからって言われたんだけどね、おばさん達にまだ言ってなかったからー」


呑気にニコニコと微笑むひぃくん。


そんな事今言う事じゃないでしょ……。

大体、付き合ってるのだってまだ報告してないのに。

……ひぃくんのバカ。


固まったまま婚姻届を凝視していたお父さんは、まるで今にもギギギギッと効果音が聞こえてきそうな動きで顔を上げると、驚きに見開いた瞳でひぃくんを見つめる。


そして、もの凄い勢いでひぃくんの肩をガシッと掴むと口を開いた。


「ーーでかした響っ! やっとか……やっとだなー……良かったなー、響っ! 」


そう言って嬉しそうな顔をするお父さん。


……え?


「ひぃくん良かったわねぇ……私も嬉しい。一時期はどうなる事かと……花音たら少し鈍ちんさんだから」


ホロリと目尻を流れる涙を拭ったお母さんは、そう言うと嬉しそうに微笑んだ。


え……何?何なのこれ……。


ひぃくんの突然の結婚宣言に、どうやら喜んでいるらしいお母さん達。


目の前の光景についていけない私は、呆然とその場に立ち尽くした。

勿論、それはお兄ちゃん達も同じで、ポカンと口を開けて間抜けな顔をしている。


いや……百歩譲るよ? だってひぃくんだもん。

百歩譲って、いきなりの結婚宣言は許すよ。


でも……普通、「◯◯さんをお嫁に下さい! 」って正座で頭下げるものじゃないの?

よくドラマとかでやってるじゃない。


こんないきなりヘラヘラ笑いながら「お嫁さんにください」「良かったねー」なんて、可笑しいでしょ。


大体、何で私にじゃなくひぃくんに「良かったねー」なんて言うのよ。


「……花音っ! 」


ーーー!?


突然のお父さんのドアップに、驚いた私は一歩後ずさる。


「良かったなー。響と花音の子供ならきっともの凄く可愛いぞっ? お父さん楽しみだなー」


私の頭を優しく撫でながらそう言ったお父さん。


「……っこ、こどっ……!? 」


いきなりの子供発言に、驚いた私は目の前のお父さんを凝視する。


何言ってるの? ……お父さん。


「子供はまだ早いんじゃないかしら。だって花音まだ高校生よ? 」

「何言ってるんだよ。若い内に産んだ方が子供と一緒に遊べるだろ? 俺だって元気な内に孫と遊びたいし」


……何言ってるんだよ、はお父さんの方だよ。


高校生の娘に早く子供産めなんて言う親、私は聞いた事ない。


「……それもそうね」


え……。

納得しちゃったの? お母さん。


「よしっ! どんどん子作りに励めっ! 」


そう言って私の背中をバシバシ叩くお父さん。


その力に、思わずよろめいた私。


そんな私を優しく抱きとめたひぃくんは、私を見つめてニッコリと微笑んだ。


「子作り楽しみだねー、花音」


ーーー?!


こっ……子作り?!

そそそそ、それってつまり……エ、エ、エッチの事でしょ?!


そこまで考えると、ボンッと噴火したように真っ赤になった私の顔。


「ンなっ……?! な、なななな、何言ってるの……?! こっ、子作りなんてっ……わ、私しないよっ! 」


はっ……恥ずかしい……。

何でこんな話し、よりにもよって親の目の前で話さなきゃならないのっ……。


「まぁまぁ……そんなに照れるな。可愛いなー花音は」


ポンッと私の頭に手を乗せてデレデレと微笑むお父さん。


「照れちゃって可愛いーねー、花音っ」


フニャッと笑ったひぃくんは、そう言うと私の頬をツンッと突いた。


強烈すぎる……。

ひぃくんが二倍だ。


真っ赤になった顔で、あまりの恥ずかしさに泣きそうになる私。


「ーーいい加減からかうのやめろよ、父さん」


突然聞こえてきたお兄ちゃんの声に反応して、クルリと後ろを振り返ったお父さん。


「いやぁー、つい。……花音が可愛くてー」


アハハッと笑ってお兄ちゃんを見たお父さんは、その横にいる彩奈にチラリと視線を向ける。


「翔も子作りに励めよー。彩奈ちゃんならいつでも大歓迎だよ、俺は。……相変わらず美人さんだねー彩奈ちゃんは」


真っ赤になる彩奈を見て、デレデレとするお父さん。


ほんと、辞めて頂きたい。

彩奈……何かごめん。

セクハラで訴えてくれてもいいからね……。


私のとばっちりを受けるハメになってしまった彩奈に、私は申し訳ない気持ちで彩奈を見つめる。


「だから、からかうなよ……」


呆れた顔をしながらも、自分の背後に彩奈を匿うお兄ちゃん。


何だか彩奈、真っ赤な顔をしながらも嬉しそう。

素敵すぎかよ……お兄ちゃん。


チラリとひぃくんを見上げると、私の視線に気付いたひぃくんがフニャッと笑う。


……ひぃくんだって素敵だもん。

デリカシーはないし、頭のネジは緩んでるし……ちょっと変だけど。


そんな悪口ばかり思い浮かべながら、私はひぃくんを見てヘラッと笑った。










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