第34話★何度でも、君に恋をする パート3
「ーーおい、響。父さんの言った事、真に受けるなよ。俺は絶対に許さないからな」
その声に反応して見てみると、恐ろしい顔をしてひぃくんを睨むお兄ちゃ……鬼がいる。
ひぃ……っ!
お、お兄ちゃん怒ってらっしゃる……。
その迫力に、思わずブルリと身体を震わせた私。
そんな私の視線に気付いたお兄ちゃんは、ひぃくんから私へと視線を移すと口を開いた。
「わかったな、花音」
「……っ! はひっ……」
あまりの恐ろしさに、そんな声を漏らした私。
な、なんで私まで……。
そんな怖い顔で見ないでっ。
恐怖に
「ラブラブだからってヤキモチ妬かないでよー翔」
ニコニコと微笑みながらそう言ったひぃくんは、横で震えている私を抱きしめると、「翔怖いねー」と言って優しく私の頭を撫でる。
「そうだぞ、翔。ヤキモチなんて妬いてないで、お前も子作りに励めっ」
お兄ちゃんの肩にポンッと手を置いたお父さんは、そう言うとニコッと爽やかに笑った。
その横で一部始終を見ていたお母さんは、「そろそろご飯作らなきゃねー。今日は皆お夕飯食べていってね」と優しく微笑んでキッチンへと消えてゆく。
なんて自由なんだ……。
この状況で私を置き去りにするなんて……なんて薄情なの、お母さん。
自分の置かれた状況に
今、私の目の前にいるのは……爽やかに笑うお父さんと、呑気にニコニコと微笑むひぃくん。
そして、そんな二人を恐ろしい顔で睨みつけている鬼なのだ。
そんな三人の姿を見て、薄情なお母さんを怨めしく思う。
ワナワナと震えて恐ろしい顔をするお兄ちゃんは……今にも爆破しそうだ。
あまりの恐ろしさに、目眩で気が遠くなる。
今にも気絶してしまいそうだ。
怒り狂う鬼の背後にいる彩奈をチラリと見ると、随分と冷静にこの光景を眺めている。
いや……むしろ呆れてさえいる?
やれやれ、といった感じで小さく溜息を吐く彩奈。
目の前にあんなに恐ろしい鬼がいるっていうのに……よくもまぁ、そんな呑気に……。
背後にいるから見えてないのね。
そんな事を考えながら見つめていると、私の視線に気付いた彩奈とバチッと目が合い、反射的に
……彩奈。
あなたのダーリン……今、とんでもなく恐ろしい顔してますよ……。
私は痙攣った笑顔のまま、口からィヒッと変な声を漏らした。
「……っ誰がヤキモチだよ!! ふざけた事ばっか言ってるなよっ!! 」
ーーー!!!?
突然の鬼の大噴火に、驚いた私の身体は小さくその場で飛び跳ねる。
「どうしたんだよー翔。糖分足りてないんじゃないか? ……ホラ、飴でも食べとけ」
ポケットから飴を取り出したお父さんは、そう言って爽やかに笑うとお兄ちゃんへ飴を差し出す。
それを見ていたひぃくんは、ニッコリと微笑んで口を開いた。
「お父さんの言う通りだよー翔。あっ……間違えちゃった、お兄ちゃんっ」
そう言ってフニャッと笑って小首を傾げるひぃくん。
「……っ! 何が間違えただよっ! お兄ちゃんて呼ぶなっ! それに何ちゃっかりお父さん呼びしてるんだよっ! お前の親父じゃないだろっ! 」
その言葉に、キョトンとした顔を見せるひぃくん。
「え? だって……花音と結婚するんだから、翔はお兄ちゃんだし、おじさんはお父さんだよ? ……そうだよね? 」
「うんうん、そうだぞー響。怒りん坊なお兄ちゃんだけど、よろしく頼むなっ」
首を傾げるひぃくんにそう答えたお父さんは、ニコニコと嬉しそうに微笑んでひぃくんを見る。
「うん。でも……お兄ちゃんは本当に怒りん坊だね。まだヤキモチ妬いてるのかなー? 」
「そうだなー。花音と響がラブラブすぎるからな。……ほら翔、飴」
ひぃくんと楽しそうに話すお父さんは、そう言ってお兄ちゃんの目の前で飴をヒラヒラとさせる。
そんな二人を見て、ハラハラする私とプルプルと震えて俯くお兄ちゃん。
流石に心配になったのか、お兄ちゃんの袖をキュッと掴んだ彩奈。
そんな彩奈の行動にピクリと肩を揺らしたお兄ちゃんは、フッと肩の力を抜いて彩奈の手に触れると、小さく息を吐いてから顔を上げた。
あっ……あれ? 鬼じゃない……。
よ、よかったぁ。
ビクビクしていた私は、お兄ちゃんの顔を見てホッと安堵の息を吐く。
でも、何だか妙に真剣な顔をしているお兄ちゃん。
どうしたのかと様子を伺っていると、ツカツカと無言のままひぃくんの元へとやってきたお兄ちゃん。
ポンッとひぃくんの肩に手を置くと、横にいる私をチラリと見下ろす。
えっ……な、何ですか……?
反射的に怯えて
そんな私を見て小さく溜息を吐いたお兄ちゃんは、ひぃくんの耳元に顔を寄せると口を開いた。
「ーー響、頼むから避妊だけはちゃんとしろよ」
お兄ちゃんの口から出た言葉に、驚きで耳を疑う私。
えっ……?お兄ちゃん……今、なんて……?
「大丈夫だよーお兄ちゃん。花音の事はずっと大切にするから。だから安心してね? 」
答えになっているのかいないのか、そんな返事をしたひぃくんはフニャッと笑って小首を傾げた。
そんなひぃくんを見て一瞬眉をひそめたお兄ちゃん。
チラリと私を見て一瞬寂しそうな顔を見せると、その視線をひぃくんへと戻して口を開く。
「……お前のこと信じてるからな、響」
「うん」
その返事に静かに目を伏せたお兄ちゃんは、そのままクルリと背を向けると彩奈のいる方に向かって歩き出した。
え……? お兄ちゃん?
私、まだ無理だよ……子作り……。
すぐ目の前でお父さんに捕まり、「翔、飴いらないのかー? 」と絡まれているお兄ちゃんを見つめ、一人取り残された気分になる私。
……ねぇ、私の気持ちは……?
それって一番大事なとこじゃ……。
「良かったねー花音。これで安心だねっ」
私の隣で嬉しそうな声を上げるひぃくん。
そんなひぃくんを見上げて、私は盛大に顔を痙攣らせた。
不安……とっても不安だよ……。
……むしろ不安しかない。
もはや、ひぃくんの暴走を止めてくれる味方がいなくなってしまった私。
お兄ちゃん……どうして私を見捨てるの……? なんで?
……お願いっ……私を見捨てないで……。
ひぃくんを見上げて情けない顔をする私は、お兄ちゃんに向けて必死に心の中でそう願ったーー。
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