第28話★君とハッピーバレンタイン パート1
「見て見てっ! このデコレーションどうかな?! 」
我ながら上手く出来た仕上がりに、自信たっぷりに彩奈へとチョコを見せる私。
「うんっ、可愛いね」
そう言ってニッコリと微笑む彩奈の手元を見ると、相変わらずの上手さで……。
私の作ったチョコなんかよりもよっぽど美味しそうに見える。
あー……今すぐ食べてしまいたい。
どうせ毎年くれるんだから、一つくらい今貰ってもいいよね?
そんな事を考えていると、私の視線に気付いた彩奈が口を開いた。
「これはダメ」
「えっ……」
ま、まさか……今年からはもう私にバレンタインのチョコ、くれないの……?
そんな事を考えながら、泣きそうな顔をして彩奈を見つめる私。
すると、突然プッと吹き出した彩奈が笑顔で私にチョコを差し出した。
「はい、これならいいよ」
「わーいっ! ありがとう、彩奈! 」
途端に笑顔になった私は、彩奈からチョコを受け取るとそのまま口の中へと入れた。
美味しぃーっ!
やっぱり彩奈のチョコは毎年美味しいなぁ。
口いっぱいに広がるチョコを堪能しながら、思わず顔がニヤけてしまう。
毎年バレンタインの時期になると、彩奈と一緒にチョコ作りをしている私。
こうして作りながらのつまみ食いも、私にとっては毎年の恒例なのだ。
それにしても……。
あれだけ何だかやたらと凝っている。
ラッピングだって、他とは違って随分と豪華だ。
彩奈がラッピングをしているチョコを眺め、そんな事を思う。
「ねぇ、彩奈。……そのチョコ、誰にあげるの? 」
気になった事をそのままストレートに質問してみた私。
毎年彩奈があげるのは、お兄ちゃんとひぃくんとお父さんと……私。
それだけなはず。
数はあってるけど……。
何だか一つだけ特別感が凄い。
まるで、私がひぃくんのだけ特別に豪華にしたのと同じような……。
未だ無言の彩奈をチラリと見ると、何だか顔が……赤い?
……え?……えっ?!
もしかして彩奈……っ!
「彩奈っ! 好きな人にあげるの?! 」
「……うん」
真っ赤な顔をしてそう答えた彩奈。
えっ?! 嘘っ! 彩奈……好きな人いたの?!! じゃあ……。
チラリとラッピングされたチョコ達を見渡した私。
やっぱり……数が合わないわ。
うっ……今年からは私のチョコはないのねっ。
食べたいっ! ……食べたいけどっ……っ私、我慢するっ!
彩奈の好きな人の為に我慢するんだからぁっっ……!
一人、心の中で大芝居を打った私は、気を取り直すと涙を堪えて彩奈を見た。
「誰?! 彩奈の好きな人って」
「……翔さん」
「へっ……? 」
ポツリと小さな声で答えた彩奈に、間抜けな声を出した私。
えっとー……えっ?
「……どちらの翔さん? 」
そう言った私は、引きつった顔でヘラッと笑って見せる。
そんな私を見た彩奈は、少しむくれて、けれど真っ赤な顔のまま口を開いた。
「あんたのとこの翔さんよっ。もう……花音のバカっ」
ーーー!!?
なっ!? ……何ですとっ!?
お兄ちゃん!? 私のお兄ちゃんなの!?
意外すぎる人物に、驚きすぎて声の出ない私。
見開いた目で彩奈を見つめると、呆然とその場に立ち尽くした。
えっ?!だって……だって、あのお兄ちゃん?!
な、何でっ?!
何でお兄ちゃん?!
彩奈だって怖がってた……はず……。
あっ……あれ……?
怖がって……た……?本当に……?
今までの彩奈の不思議な態度を振り返ってみる。
今にして思えば、あれは怖がっていたんじゃなくて照れていたのだと気付く私。
「……彩奈。ごめんね、気付いてあげられなくて」
「いいよ。……だって花音だもん」
頬を赤く染めたままの彩奈は、プッと小さく声を漏らすと照れ臭そうに笑った。
「いつから……? いつからお兄ちゃんの事が好きなの? 」
「んー気付いた時には……。たぶん、中一の頃かな……でも、翔さんいつも彼女がいたから……」
「……そうなんだ」
私は知らなかったけど……。
彩奈は知ってたんだね、お兄ちゃんに彼女がいた事。
それでも好きって、きっと辛かっただろうな。
そんな彩奈を思うと、何だか目頭が熱くなってくる。
「もう……やめてよ花音。私は大丈夫だからっ。それにね、今はフリーだって翔さん言ってたから。だから……告白ね、してみようと思うの」
そう言って明るく振る舞う彩奈。
私はそんな彩奈の両手を握ると、今にも泣き出しそうな顔のまま笑顔を作った。
「っ……そっか。そうなんだねっ! 私、彩奈の事応援するからねっ! 」
「うんっ……ありがとう、花音」
そう言って可愛らしく微笑んだ彩奈。
そっか……彩奈の好きな人はお兄ちゃんなんだ。
……うん、それなら私にも協力ができそう。
目の前の親友を見つめてそう思った私は、彩奈の為に協力しようと固く心に決めたーー。
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