第27話★煩悩はつまり子煩悩? パート3
「響先輩ってキャラ強烈だよね……」
前方を眺めながらボソッとそう呟いた志帆ちゃんに、私はハハハッと渇いた笑い声を漏らした。
志帆ちゃんの視線を辿るようにして前方を見てみると、楽しそうにお兄ちゃんと会話をしているひぃくんがいる。
どうやら、そのご機嫌はもうすっかり元に戻ったみたい。
「昔からあんなだよね、響さんて」
「へぇーそうなんだ……イケメンなのにねぇ」
「そう、残念なのよあの人」
「勿体ないね、あんなにイケメンなのに……」
私がすぐ横にいるというのに、彩奈と志帆ちゃんはひぃくんを眺めてそんな事を言っている。
あの……
その残念な人の彼女ですよ? 私。
見えてます?
私そっちのけで話す二人にそんな事を思いながらも、満更間違いではない意見に何も言えない私。
「ーーでも、凄く花音ちゃんの事が大好きで大切にしてるよね。俺は優しくてカッコイイと思うな、榎本先輩」
「斗真くん……ありがとう」
何て優しいの……。
私の味方は斗真くんだけだよ。
ニッコリと微笑む斗真くんを見て、私はひっそりとそんな事を思う。
「私は
エヘッと笑う志帆ちゃんに、何故か謝られた私……。
「彩奈ちゃんは? 響先輩派? 翔先輩派? 」
「えっ? ……っ」
志帆ちゃんにそう問われて、チラリと私を見た彩奈。
……?
「私は別に……」
そう言って私から視線を逸らす彩奈。
その顔は、何だかいつもより少し赤い気がする。
……どうしたのかな?
「彩奈……? 」
「……もうすぐカウントダウン始まるね」
「えっ? ……あ、うん」
彩奈にそう言われて、敷地内に設置されているモニターに視線を移した私。
いつの間にか、年明けまで後残り五分になっている。
もうすぐ今年も終わりかぁ。
あっという間だったなぁ……。
そんな事を思うと、今年あった出来事が色々と蘇ってくる。
相変わらずひぃくんに振り回された一年だったけど、凄く充実した良い一年だった。
なんといっても、念願だった彼氏ができたし。
その相手がまさかひぃくんだとは……
一年前の私には全く予想もできなかった事だけど。
そんな事を一人考えながら、クスッと小さく声を漏らす。
「ーー花音。もうすぐカウントダウンだよー」
その呼び声に反応して視線を向けると、ニッコリと微笑みながらヒラヒラと手招きをするひぃくんが見える。
「うんっ! 」
元気よく返事をした私は、ひぃくんの側まで行くとひぃくんを見上げてニッコリと微笑んだ。
「ひぃくん、今年も一年ありがとうございました」
「こちらこそー。来年もよろしくね、花音」
フニャッと小首を傾げて微笑むひぃくん。
「うん」
私は笑顔でそう答えると、隣にいるひぃくんの手をキュッと握ったーー。
※※※
「長かったねー」
「私なんて寒さで足の感覚がないんですけど」
「どこかお店に入って暖まろうか」
無事に初詣でを済ませた私達は、寒い寒いと言いながら出口へ向かって歩き始めた。
モニターを見てみると、もう年明けから二時間も過ぎている。
本当に長かった……。
未だに混雑する境内の前にできた行列を横目に、私はすぐ横にいるひぃくんをチラリと見た。
何やら必死に参拝していたひぃくん。
「……ねぇ、ひぃくん。どんなお願い事したの? 」
先程、中々終わらないひぃくんに痺れを切らしたお兄ちゃんが「まだ足りないよー」と大声を上げるひぃくんを無理矢理引きづりおろしていた。
その光景を思い出した私は、何だか可笑しくてクスッと笑い声を漏らす。
「花音と早くエッチできますようにって! 」
ーーー?!!
聞くんじゃなかった……。
大声でそう言ったひぃくんに、一瞬で後悔した私。
フニャッと小首を傾げて微笑むひぃくんを見上げ、私は笑顔を引きつらせて固まった。
貴方には……恥ずかしいという感情はないんですか?
「ーー残念だったな、響。願い事は
前方を歩くお兄ちゃんが、後ろを振り返って勝ち誇った様な顔を見せると、ひぃくんを見てフッと鼻で笑った。
「そんな事ないよー」
ブーブーと文句を言いながら、私の隣からお兄ちゃんの方へと移動するひぃくん。
「いいや、お前は一生DTだよ。大体、俺が許すと思ってるのか? 許すわけないだろ」
「
お兄ちゃんの肩を掴みながら、目を見開いて真っ青な顔をするひぃくん。
「はっ……?! 何でそうなるんだよっ! 」
「ダメダメダメーッ! 花音は俺のお嫁さんだよーッ! 」
前方でワーワーと騒ぎ出したひぃくんを眺め、顔面を引きつらせる私。
何なのその気持ち悪い発想。
そんな事あるわけないじゃない……。
変な冗談はやめてよ、ひぃくん。
真っ青な顔をしてお兄ちゃんの肩を揺らすひぃくん。
その顔はとても真剣な顔をしていて……
本気で言っているところが、ひぃくんの恐ろしいところだ。
「随分と気持ちの悪い発想するのね、あんたの旦那」
いつの間に来たのか、私のすぐ横にいる彩奈はそう言ってドン引いた顔で私を見る。
やめてよ……彩奈。
私をそんな目で見ないで。
変な事を言ったのはひぃくんなんだから……。
「離せっ。とにかく……お前は一生DTだ。煩悩と共に滅びろっ! 」
「大丈夫だよー、
そういえば、さっきも子煩悩だとか言っていたひぃくん。
その意味は……サッパリわからない。
「お前みたいな意味のわかんない奴、安心できるかよっ 」
「我儘だなー、翔は。大丈夫だよ、直ぐにDT卒業しちゃうから 」
ひぃくんの言葉に、一瞬顔を引きつらせたお兄ちゃん。
それでも、ムキになるだけ無駄だと思ったのか、一度小さく息を吐くと口を開いた。
「は? DT卒業なんて俺がさせると思ってるのか? 一生させるかよ 」
フンッと鼻で笑ってみせるお兄ちゃん。
DT、DTとさっきから
一体なんなのよ、DTって……。
「それは翔には決められないよ? 」
ーーー?!
突然私の方へ視線を移したひぃくんに、驚いた私はビシッと固まる。
な……何ですか……?
「花音、もうすぐDT卒業だよねー? 」
「えっ……あ、あの……DTって何? 」
質問の意味がわからずに思わず狼狽える。
そんな私を見て、ニッコリと微笑んだひぃくん。
「……花音、子供って可愛いよねー? 」
「へっ……? 」
突然その質問内容を変えたひぃくんに、素っ頓狂な声を出してしまった私。
「子供好きでしょ? 」
「えっ?……あ、うん」
私の返事に満足したのか、フニャッと笑ったひぃくんはお兄ちゃんを見た。
「ほら、うんって言った。もうすぐDT卒業だね、楽しみだなー」
「無理矢理言わすなよ……」
そう言って呆れた様な顔をするお兄ちゃん。
「ねぇ……彩奈。DTって何? 」
「……ドーテー」
チラリと私を横目にした彩奈は、そう告げると小さく溜息を吐く。
へー……ドーテーかぁ。
ドーテー……ドー……ってあの童貞?!!
……えっ?!
って事は、今の会話の意味は……。
恐る恐るひぃくんを見ると、私の視線に気付いたひぃくんとバチッと目が合った。
「楽しみだねー、花音」
そう言ってフニャッと小首を傾げるひぃくん。
何て事だ……。
まだそんな覚悟なんてないのに……。
私は「うん」なんて返事をしてしまった……?らしい。
だってわかりにくいんだもん、ひぃくんの言葉。
……どうしよう。
私は本当にひぃくんと約束しちゃったの……?
目の前でニコニコと嬉しそうな顔をみせるひぃくん。
それを見て愕然とする私。
お願いだから……もっと正しい日本語で話して下さい……。
私は今にも泣き出しそうな情けない顔をしながら、顔面蒼白でアハハッと小さく笑い声を漏らしてひぃくんを見つめたーー。
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