第26話★煩悩はつまり子煩悩? パート2
結局無難にたこ焼きを買ってきた私は、手袋を外すと割り箸を二つに割いた。
「いただきまーすっ」
ホカホカと湯気を出すたこ焼きを一つ掴んだ私は、ニコニコと上機嫌な顔をして自分の口へと近づける。
「あチュッ……! 」
唇に触れた瞬間、余りの熱さに変な声を出してたこ焼きを離した私は、そのままたこ焼きを器に戻すと自分の唇を抑えた。
一口で食べようとしなくて良かった……。
まだ少しヒリヒリとする唇を摩りながら、手元のたこ焼きをジッと見つめる。
んー恐るべし……たこ焼き。
一人そんな事を考えていると、隣にいるひぃくんが焦った様な声を出した。
「花音、大丈夫?! ちゃんとフーフーしなきゃダメだよー」
「うん……」
「今やってあげるからね」
そう言って自分の箸でたこ焼きを半分に割ったひぃくん。
その内の一つを掴むと、フーフーと息を吹きかけて冷ました後に私の目の前へと差し出した。
「えっ……」
「はい、あーん」
フニャッと微笑んで小首を傾げるひぃくん。
いやいやいや。
それは恥ずかしいよ、ひぃくん……。
だってほら、皆がこっち見てるよ?
笑顔を引きつらせながら周りを見ると、クラスの子達や斗真くん達と視線がぶつかる。
「ひぃくん、それはいいよ。自分で食べれるから」
「遠慮しなくていいんだよー? はい、あーん」
「遠慮じゃないから。恥ずかしいから辞めて、ひぃくん。皆が見てるよっ」
「え?……大丈夫だよー、誰も見てないから」
斗真くん達に視線を移すと、ニッコリと微笑んでそう言ったひぃくん。
その言葉に、私達を見ていた全員が焦った様に視線を外した。
なんなの、その力技……。
ひぃくんのその強引さに若干引きつつ、私の方へと視線を戻したひぃくんを見上げて口を開いた。
「一人で食べれるから大丈夫だよ、ひぃくん」
「ダメだよ、花音がやると火傷しちゃうから」
「本当に大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよー」
そんな言い合いをひたすら繰り返す私達。
どうにかひぃくんを説得した私は、残念がるひぃくんを横目にしながらもホッとする。
……これでやっと食べれるよ。
手元のたこ焼きを見つめて小さく息を吐いた私は、先程ひぃくんが割ってくれたたこ焼きを一つ掴むと、今度こそ一口で自分の口の中へと入れた。
寒空の中食べるホカホカのたこ焼きは、お預けをくらった分とても美味しく感じる。
美味しい……幸せぇ。
たこ焼きの入った口をモグモグとさせながら、途端に笑顔になった私。
「ーー花音ちゃん、その指輪って響先輩に貰ったの? 」
その声に視線を上げると、すぐ目の前にいる志帆ちゃんが私の左手を見ていた。
「あ……うん、そうだよ」
「ひょっとして、クリスマスプレゼント? 」
「うん」
「いいなぁー! 羨ましいー! 」
そう言ってキャッキャと騒ぎ出す志帆ちゃん。
その姿が何だかとても可愛くて、私は思わずクスリと声を漏らした。
「花音ちゃんは何をあげたの?! 」
「えっ?! ……えっとー……」
キラキラと瞳を輝かせて私を見つめる志帆ちゃんに、目を泳がせた私は一人オロオロとする。
何もあげてません……。
プレゼントを用意するのを忘れた私は、未だに何もあげていないだなんて……どうにも言いづらい。
キラキラとした瞳を向けて私の言葉を待つ志帆ちゃんに、私は引きつった笑顔でアハハッと小さく声を漏らすと覚悟を決めた。
「実は私、何もーー
「プレゼントは花音だよー」
ーーー?!!
私の言葉を遮って、突然会話に入ってきたひぃくん。
「えっ?それって……キャーッ!やだもぉー! 変な事聞いちゃってごめんねー、花音ちゃんっ! 」
私の肩をパシパシと叩きながら、ほんのりと赤くなった頬を片手で抑える志帆ちゃん。
……えっ?!
ち、違う違う違うっ!
違うよ、志帆ちゃんっ!
志帆ちゃんの反応に焦った私は急いで口を開いた。
「ち、違うよ?! 違うよ、志帆ちゃんっ! 」
「もぉー、照れなくてもいいってばぁ! 」
そう言って、私の言葉など全く信じてくれない志帆ちゃん。
気付けば斗真くん達まで私達に注目している。
「違うのっ! ……っ本当に違うから! 」
真っ赤になってそう訴える私を見て、余計に怪しかったのか志帆ちゃんはニヤニヤとした顔で「はいはい、照れちゃって可愛いいんだからー」なんて言い出す始末だ。
「照れちゃって可愛いねー、花音」
フニャッと笑ったひぃくんが、そう言いながら私の頬をツンっと突く。
……ひぃくん。
お願いだから……これ以上皆の前で変な事を言うのはやめて。
私の横で呑気にニコニコと微笑んでいるひぃくん。
私はそんなひぃくんを横目に、どんどん悪化してゆく状況にどうすればいいのかわからずにただ呆然とした。
「ーーおい、響。嘘はつくな」
この状況を見かねたのか、突然会話に入ってきたお兄ちゃん。
きっとお兄ちゃんがなんとかしてくれるはず。
そう思った私は、お兄ちゃんへ向けて期待の眼差しを向ける。
「嘘なんかついてないよー。プレゼントは花音だったよ? ……サンタさんの格好した花音、可愛かったなぁー 」
そう言ってフニャッと笑ったひぃくんは、あの日を思い出しているのか「あー可愛かったなー。また見たいなー」なんて呑気にニコニコと笑っている。
こうして改めて言われてみると、コスプレをした事が急激に恥ずかしくなってきた私。
既に赤く染まっていた顔は、みるみる内にその赤みを増していった。
そんな事まで皆の前でペラペラと話さないで頂きたい。
ひぃくんのその呑気さを怨めしく思いながらも、私は恥ずかしさからキュッと口を固く結んだ。
「この間は
「お前は鐘でも突いてその煩悩を今すぐ消し去ってこい! 」
そう言ってひぃくんをギロリと睨むお兄ちゃん。
何でもいいから……もうこの話しを終わらせて下さい。
一向に話題の変わらない状況に、私はただただ祈った。
「バカだなー、
「は?」
意味のわからない事を言い出したひぃくんに、一瞬怯んだお兄ちゃん。
それでも、もう一度ギロリとひぃくんを睨み直すと口を開いた。
「花音だって嫌がってただろ」
「嫌がってなんかないよー」
「嘘つけっ! 真っ青な顔してビビリまくってただろ! 」
あぁ……お願い。
もうこれ以上……皆の前で色々言うのはやめて下さい。
益々悪くなってしまったこの状況に、恥ずかしさを通り越して絶望感すら覚える私。
「そんな事ないよねー? 花音」
ーーー?!
突然私に向かって話しかけてきたひぃくんに、思わずビクっと震えてしまった私の身体。
チラリと斗真くん達を見渡してみると、皆が私に注目して視線を向けている。
「花音……? 」
何も答えない私に不安になったのか、途端に悲しそうな顔を見せるひぃくん。
ーーー?!
突然私の肩をガシッと掴んだひぃくんは、今にも泣き出しそうな顔をして大声を上げた。
「そんなに俺とエッチするのが嫌なの?! ねぇ……花音っ! お願いだから何とか言ってよー!! 」
ンなっ……?!
なっ、なっ、何て事を……。
ヒクヒクと引きつる顔面蒼白の私は、ひぃくん越しにチラリと周りを見渡した。
こんな場所で……その質問に答えろ……と……?
……勿論嫌じゃない……。
嫌じゃないよ、ひぃくん……。
でもね……周りをよく見て……。
ひぃくんの出した大声で、近くにいた知らない人達までもが何事かと私達を見ている。
こんな状況で……ひぃくんのその質問に答えろと言うの……?
そんなの無理だよ、ひぃくん……。
大衆の面前で何とも破廉恥な質問をされ、まるで拷問を受けているかの様な私。
今にも意識が遠のいてしまいそうな中、ボンヤリと見えるのは遂にポロポロと涙を流し始めてしまったひぃくんの顔。
ごめんなさい……。
来年からはちゃんとプレゼント用意するから……。
だからもう……許して下さい……。
ガクガクと揺れる頭の中で、私は何度も何度もただ繰り返し謝り続けたーー。
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