第25話★煩悩はつまり子煩悩? パート1




私はソワソワと落ち着かない様子でチラリと掛け時計に目を向けた。


ひぃくんまだかなぁ。

彩奈はもうとっくに来てるのに。

斗真くん達との約束の時間まであと三十分しかないよ……。


大晦日の今日、皆でカウントダウンをする約束をしている私は、未だに来ないひぃくんに焦りを感じ始めていた。


待ち合わせの最寄駅では、クラスの子達と斗真くん達と合流予定なのだが、ここから出発すると二十分はかかる。


もうギリギリだよ……。


痺れを切らした私は、椅子から立ち上がろうとテーブルに付いた手にグッと力を入れた。


「私、ちょっと迎えに行ってくるね? 」

「ダメ」


そう言って、ギロリと私を鋭く睨むお兄ちゃん。

私は顔を痙攣ひきつらせると、立ち上がりかけていた腰を下ろして椅子へと座り直した。


そんなに怖い顔しなくたっていいじゃない……。

ちょっと迎えに行くだけなのに。


一週間前のクリスマス以来、ひぃくんの家への立ち入りを禁止されてしまった私。

正直、あの日は私も助かった。


だけど、あの日のお兄ちゃんを思い出すと今でも恐ろしい。

それを思い出した私は、あまりの恐怖にブルリと身体を震わせる。


「寒いの? 」


震える私に気付いた彩奈が、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「だ、大丈夫だよ。ヒートテック二枚も着てるし」


ニッコリ微笑んで彩奈に返事をすると、その隣にいるお兄ちゃんが口を開いた。


「アイスココアなんて飲んでるからだろ。ほら、風邪ひくなよ」


呆れたようにそう言って、自分の飲みかけの紅茶を私の目の前へ置いてくれるお兄ちゃん。


湯気が出ていてとても熱そう。


「あ、ありがとう……」


震えたのは貴方のせいです、とは言えない私。


ヘラッと痙攣ひきつった笑顔を見せた私は、熱々の紅茶にフーフーと息を吹きかけてからコクリと一口飲み込んだーー。




※※※




その後なんとか時間ギリギリに間に合った私達は、斗真くん達と無事に合流すると目的地だった神社へとやって来た。


「うわぁーっ! やっぱり凄い混んでるねー!」


カウントダウンの為に集まった人集ひとだりを見て、私は大きく感嘆の声を上げる。


先の見えない行列を眺めた後、とりあえず最後尾らしき列に並び始めた私達。


ここ、まだ神社の入り口付近だよね?

キョロキョロと辺りを見回してみても、先頭の様子などちっとも分からない。


諦めた私は、今度は参道脇に並んだ何件もの出店を物色し始める。


……どれもとっても美味しそう。

その美味しそうな食べ物の匂いにつられて、クゥーっと音を鳴らす私のお腹。


お腹空いたなぁ……。


ペコペコになったお腹を摩りながら出店をジッと眺めていると、そんな私に気付いたひぃくんが話しかけてきた。


「お腹空いちゃったねー、花音。何か買いに行こうかー? 」

「うんっ! 」


ひぃくんの言葉に勢いよく返事をする私。


「並んでおくから、買いたい人は行って来ていいよ」


私達のやり取りを横で見ていたお兄ちゃんは、斗真くん達に向けてそう告げると優しく微笑んだ。


「「ありがとうございます」」


ペコリと軽く会釈をする斗真くん達。


結局、お兄ちゃんと彩奈だけを残して出店へと向かう事にした私達は、それぞれが目当ての出店へ向かって散り散りに歩き始めた。


勿論、私はひぃくんと一緒に。


適当に二人分買ってきてと言われてお兄ちゃんから渡された五千円をポケットへしまうと、目の前に立ち並ぶ出店を眺めてキョロキョロとする私。


何食べようかなー。

こんなにあると迷っちゃうよ。


そんな事を考えながらも、つい顔がニヤケてしまう。


「ーーねぇねぇ、花音ちゃん。花音ちゃんのお兄さんて凄いイケメンだよねー」


私に近付いて来た志帆ちゃんが、私の耳元で小さく囁く。


「お兄さんて彼女いるのかな? 」

「んーどうなんだろう……」


曖昧な返事を返しながら隣を見てみると、ほんのりと頬を赤く染めた志帆ちゃんが「カッコイイなぁー」なんて言いながらニヤニヤとしている。


クリスマスイブの夜に何処へ出掛けたお兄ちゃん。

……彼女でもいるのかなぁ?


私はチラリと後ろを振り返ると、少し離れた先で彩奈と二人で列に並んでいるお兄ちゃんを眺めた。


私にはダメって言ってたくせに……。

自分だけ堂々とクリスマスデートなんてしてたんなら許さないんだからっ。


自分だってコッソリとひぃくんとのデートを楽しんだくせに、そんな事も忘れてプンプンと怒った私は、彩奈と楽しそうに話しているお兄ちゃんを眺めて頬を膨らませた。


「花音どうしたのー? 」


私の顔を覗き込みながら、小首を傾げてクスクスと微笑むひぃくん。


「…… ううん、何でもない」

「ちゃんと前見てないと危ないよ? 」

「うん」


私はひぃくんへ向けてニッコリと微笑むと、目の前へ差し出された手をキュッと掴んだーー。









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