第24話★恋人はサンタクロース パート3



着替えを終えた私は、自分の左手へと視線を移すと先程貰ったばかりの指輪を眺めた。


その指輪はとてもシンプルな作りで、控えめなハートの形をした飾りの中央には、一粒の小さな石がはめ込んである。


とてもシンプルだけど、安物には見えない。


そういえば、まだちゃんとお礼を言っていなかったかも……。

ちゃんとお礼言わなくちゃ。


指輪から視線を上げた私は、目の前のノブに手を掛けると廊下へと続く扉を開けた。


「ひぃくん……」


扉のすぐ目の前で待っていたひぃくんは、私の姿を捉えた途端にキラキラと瞳を輝かせる。


「花音可愛いー」


そう言ってフニャッと微笑むひぃくん。


私はフフッと照れた様な微笑みを見せると、そのままひぃくんへ向けて口を開いた。


「ひぃくん、指輪ありがとう。絶対に大切にするからね」


ーーー?!


突然抱きついてきたひぃくんに驚きつつも、その背中にそっと自分の腕を回す。


「あーもー可愛すぎるー! 今すぐ結婚したいよー! 」


うーん……それはちょっと困るかなぁ。


そんな事を思いながら、フフッと小さく笑い声を漏らす。


ふっと抱きしめている力を緩めたひぃくんは、身体を少し離すと私を優しく見つめながら小さく微笑んだ。


そして、そのままチュッと軽く私にキスをするとすぐに離れたひぃくん。


「可愛いー。トマトみたいだねー」


クスッと笑ったひぃくんは、そう言いながら私の頬をツンっと突いた。


何回しても未だに慣れない私は、真っ赤になっているのであろう顔を隠すように少し俯く。


言わないでよ……ひぃくんのバカ。

余計に恥ずかしいじゃないっ。


そんな私の様子を見てクスクスと笑ったひぃくんは、俯いたままの私の手を取るとベッドの上へ座らせた。


「ーーねぇ、サンタさん」


その声に反応してひぃくんの方をチラリと見てみると、フニャッと笑いながら小首を傾げて私を見ている。


「なぁに? 」


どうやら、今の私はサンタさんという設定らしい。

それが何だか可笑しくて、思わずクスリと笑ってしまう。


「プレゼントちょうだい? 」

「へっ……? 」


ニコニコ微笑むひぃくんを前に、焦った私は目を泳がせる。


コスプレするのがプレゼントじゃなかったの?

どうしよう……私、本当にプレゼント用意してないのに……。


申し訳ない気持ちで押し潰されそうになった私は、眉尻を下げた情けない顔でひぃくんを見つめた。


「あのね……ひぃくん……私、本当にプレゼント用意してないの。ごめんなさい……」


申し訳なさそうにそう告げる私を見て、ひぃくんはクスッと笑い声を漏らすと私の耳元で甘く囁いた。


「プレゼントならちゃんとあるよ」

「……え? 」


ーーー?!


気付くとベッドの上へ押し倒されている私。


へっ……?


「プレゼントは花音だよー」


私の上に跨ったひぃくんが、フニャッと笑ってそう言い放った。


え……? えっ?! えーー?!!

む、む、ムリムリムリムリーー!!!


ひぃくんの事は好きだけど……。

大好きだけど……ま、まだ心の準備が出来てないよぉっ……!!!


この状況が何を意味するのか察した私は、一人脳内でパニックを起こす。


恥ずかしさで真っ赤になっていた顔は次第に青へと変わり、ビシッと固まった身体はピクリとも動かなくなってしまった。


そんな私を愛おしそうに見つめ、優しく頬を撫でたひぃくん。


「大丈夫だよー、花音。凄く可愛いから」


ひぃくんはそう言うと、私を見つめてフニャッと微笑んだ。


……この状況下で、私が気にするのはどう考えたって可愛さである訳がない。

それなのに、そんな訳のわからない事を言うひぃくん。


それでも、青ざめたままただジッと固まるだけの私は……

ゆっくりと近付いてくるひぃくんの姿をただ眺めていた。


やけにスローモーションに見えるその動きを、ただジッと目で追う事しかできない私。


どうしよう……どうしよう……。

無理だよ……私……まだ無理っ……。


間近に迫ったひぃくんの顔を前に、キュッと固く瞼を閉じたその時ーー。


ーーードンッ!!!


ーーー?!!


すぐ近くで響いた物凄いその音に、驚いた私は閉じていた瞼を勢いよく開いた。


……い、今のは一体何?


「あっ……」


私の上に跨っているひぃくんが小さくそう声を漏らす。


その視線は、つい先程までは私を見つめていたというのに、今はベッド横の窓へと向けられいた。


私の部屋へと侵入する時にひぃくんが使っている窓……。

何やら嫌な予感がした私は、ひぃくんの視線を追ってゆっくりと窓の方へと首を動かしてみる。


ーーー?!!!


「ひっ……!」


あまりの恐ろしさに、小さく声を漏らしてしまった私。


そこには、真っ青な顔をして怒り狂う鬼……

お兄ちゃんがいたーー。







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