第23話★恋人はサンタクロース パート2
帰宅途中でケーキを買った私達は、家の前まで着くと足を止めた。
「
「本当だね、良かった」
真っ暗な家を眺めてホッと息を吐く。
お兄ちゃんが居たとしても、コッソリ家の中へ入ればバレないかもしれない。
だけど、居ないに越したことはない。
そのまま門に手を掛けて家へ入ろうとすると、繋いだままだった手をグイッと後ろへ引かれる。
「ひぃくん……? 」
振り返った私は、ひぃくんの謎の行動に首を傾げる。
「今日はこっちだよー」
ニッコリと微笑んだひぃくんは、私を連れてそのまま自分の家へ行くと玄関を開けた。
いつもひぃくんが我が家に入り浸っているせいか、私がひぃくんの家を訪ねるのは随分久しぶりな気がする。
最後に来たのはいつだろう?
何だか少し緊張するなぁ……。
「おじゃまします……」
「いらっしゃーい」
私の気持ちを知ってか知らずか、呑気な声を出してニコニコと微笑むひぃくん。
そのまま部屋へと案内された私は、ベッドの上に腰を掛けてキョロキョロと室内を見渡す。
「全然変わってないなぁ……」
そう小さく呟くと、昔と変わらないひぃくんの部屋に安堵して緊張が
「お待たせー」
そう言いながら、開きっぱなしだった部屋の扉から戻って来たひぃくん。
ニコニコと微笑むひぃくんの手元を見ると、ジュースの入ったグラスと食器を持っている。
そのままテーブルの方へと向かうひぃくんを見て、その行動につられた私はテーブルの前へと座り直した。
「おばさんとおじさんは? 」
「デートしてるよ」
「相変わらず仲良しだね」
ひぃくんがケーキをお皿に乗せるのを眺めながら、私はおばさん達を想像してクスクスと笑う。
「俺達も今日デートしたから仲良しだねー」
「うん」
フニャッと微笑むひぃくんを見て、思わず私までフニャッと微笑んでしてしまう。
思えば、付き合ってから2人きりで外出したのは……
今日が初めてかもしれない。
いつも何故かお兄ちゃんが着いて来るから……。
今日はお兄ちゃんが居なくて本当にラッキーだ。
そう思うと、何だか笑顔が止まらない。
「じゃあ食べよっかー」
隣に座ったひぃくんが私を見てフワリと微笑むと、グラスを持ち上げて私の方へと近づけた。
それに
ーーーカンッ
「「メリークリスマス」」
重なった声に、思わずクスクスと笑ってしまった私達。
何て幸せなクリスマスなんだろう。
さっきからニヤケ顔が止まらない。
好きな人と2人きりで過ごす初めてのクリスマス……。
そんな特別な夜に幸せを感じる。
その幸福感に一瞬酔いしれてしまった私は、目の前のケーキへと視線を移すと、美味しそうなケーキにフォークを突き刺したーー。
※※※
「花音、左手出して? 」
ケーキを食べ終わった後、唐突にそう告げたひぃくん。
左手……?何で?
不思議に思いながらも自分の左の掌を差し出すと、クスリと笑い声を漏らしたひぃくん。
「違うよー、こっち」
私の左手を手に取ったひぃくんは、そう言って優しく左手をひっくり返す。
「いつか本物買ってあげるからね」
そう告げたひぃくんは、フワリと微笑むと私の左手薬指に指輪をはめた。
「えっ……」
「クリスマスプレゼント。毎日必ずつけてねー」
フニャっと笑って小首を傾げるひぃくん。
「嘘……私、何もプレゼント用意してないよ……」
毎年お兄ちゃん達としているクリスマスパーティーでは、皆で豪華な食事をして美味しいケーキを頬張る、ただそれだけだった。
プレゼントなんて用意した事などない。
それでも、ひぃくんは毎年何かしらのプレゼントをくれていた。
今思い返せばそうだった気がする……。
毎年くれていたのに、今まで一度も用意した事がない私。
なんて最低なんだろう……。
習慣とは怖いもので、今年も皆でクリスマスパーティーだとばかり思っていた私は、プレゼントのプの字も思い浮かばなかったのだ。
「大丈夫だよー、花音。ちゃんと用意してあるから」
自分の失態に打ちひしがれていると、私の頭を優しく撫でたひぃくんがニッコリと微笑んだ。
そのまま立ち上がってクローゼットの方へと歩き出したひぃくん。
……?
ひぃくんへのプレゼントをひぃくんが用意した……? そんな事できるの?
もはや……
それは私からのプレゼントとは言えないのでは……?
ゴソゴソとクローゼットを漁るひぃくんの背中を眺めながら、ボンヤリとそんな事を思う。
プレゼント……?らしき袋を抱えてニコニコと戻って来たひぃくん。
「はい、これだよー」
私の隣に座ると、ひぃくんは抱えていた袋を私に差し出した。
……何だろう?
差し出された袋を受け取ると、綺麗に結ばれた紐を解いてゆく。
「これって……サンタクロース? 」
袋から出てきたのは、この時期定番の真っ赤なサンタクロースの衣装だった。
「うん、花音はサンタさんだよー」
「え……? 」
嬉しそうにニコニコと微笑むひぃくんを見て、私は手元の衣装を改めて見てみる。
これを着ろって事……かな?
それがプレゼントになるの?
「これを着ればいいの?」
「うん」
私の問いに、嬉しそうにフニャッと笑って答えたひぃくん。
そんな事でいいの?
一体何が入っているのかと実は不安に思っていた私。
見たところ、よくある普通のサンタクロースの衣装のようだ。
ひぃくんからの提案には驚きはしたものの、意外にもまともな衣装でホッとする。
これがひぃくんへのプレゼントになるなら……。
特に断る理由はないかも。
期待に瞳を輝かせているひぃくんを見て、思わずクスリと笑いが漏れる。
「うん、わかった」
「本当?! やったー」
一瞬目を見開いて驚いた顔をみせた後、とても嬉しそうにニコニコと微笑むひぃくん。
「じゃあ廊下にいるから、着替え終わったら教えてねー? 」
今にもスキップでも始めるんじゃないかってくらいにウキウキとして歩き出したひぃくん。
私はその背中を黙って見送ると、ひぃくんが出て行った扉を眺めてクスクスと笑い声を漏らした。
まるで小さな子供みたい。
そんなに着て欲しかったんだ……。
そんな事を思いながら、私は自分の着ている服を脱ぐと着替えを始めた。
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