第22話★恋人はサンタクロース パート1



明日はいよいよクリスマス。


と言っても、自宅でのホームパーティーしか予定の入っていない私。


ひぃくんと付き合っている事はもう知っているのに、二人きりでのデートは許してくれなかったお兄ちゃん。


せっかくのクリスマスなのに……。

恋人同士になってから初めて迎えるクリスマスなんだよ?


イブの日くらい……ひぃくんと二人きりで過ごしたかった。

お兄ちゃん酷いよ……。


不貞腐れた顔でひよこをギュッと抱きしめると、そのままベッドへ倒れ込む。


「一緒にツリー見に行きたかったなぁ……」


ポツリと小さな声で呟いた私は、そのままひよこへ顔をうずめた。


ーーーカラッ


思わず身震いしてしまいそうな程に冷たい風が吹き込んだかと思うと、数秒後にフワリと頭に触れた暖かい感触。


「ーー花音」


頭上から聞こえる心地よい声に顔を上げてみると、優しく微笑んでいるひぃくんと目が合う。


「えっ……ひぃくん。……どうしたの?」


確か、さっき携帯を見た時はまだ19時だったはず。

こんな時間にひぃくんが窓をつたって来るなんて珍しい。


不思議に思って見つめていると、ひぃくんは小首を傾げてフニャッと笑った。


「もうご飯食べた? 」

「え? ……あ、うん。食べた……けど? 」


そんな事を一々聞きに来たの……?

ひぃくんの質問の意図が解らずに少し戸惑う。


そんな私を見たひぃくんは、クスリと小さく微笑むと私の身体を優しく抱き起こした。


「じゃあ今から出掛けようか」

「えっ? ……手掛けるって……どこに? 」


驚いた顔をみせると、私の頭を優しく撫でたひぃくんはフニャッと笑って小首を傾げた。


「ツリー見に行くんだよー」

「……えっ?! 」

「外は寒いから、ちゃんと暖かい格好してね」

「えっ?! ツリー?! ツリー見に行くの?! 」

「うん、そうだよー」


そう言ってニッコリと微笑むひぃくん。


「ホント?! やったぁー!! 急いで支度するねっ! 」


勢いよく立ち上がった私は、ひよこをベッドへ放り投げるとクローゼットへ走り寄る。


そんな私を見て、クスクスと笑い声を漏らしたひぃくん。


「そんなに大きな声出したらかけるにバレちゃうよ? 」


そう言いながら、私の放り投げたひよこを掴み上げてフニャフニャと手のひらで揉み始める。


「大丈夫! お兄ちゃんね、さっき用があるからって出掛けたの」

かけるいないの? 」

「うん。……酷いよね、 私には出掛けちゃダメって言ったくせに」


ブツブツと文句を言いながらクローゼットを漁る。


ーーー?!


不意に後ろから抱きしめられ、驚いた私はピタリと動きを止めた。


「……じゃあ、ゆっくりデートができるね」


耳元で甘く囁くその声に、ドキッとした私の心臓は急激に心拍数を上げてゆく。


「ゆっくり支度していいよ。また後で迎えに来るから」


そう言って私の髪に優しくキスをしたひぃくんは、私の顔を覗き込むと優しく微笑んだ。


「……うん」

「ちゃんと暖かい格好してね」


フニャッと笑ったひぃくんは、私の頭を優しく撫でるとヒラヒラと手を振って自室へと戻って行った。


そのまま部屋に一人残された私は、未だ早鐘を打つ胸にそっと手を当ててみる。


最近のひぃくんは何だか変だ。

いや……元々変なんだけど……。


なんていうか、時々もの凄く甘い声を出す……気がする。

単なる私の勘違いなのだろうか?


静まってきた胸から手を離した私は、小さく息を吐くと再びクローゼットの中を物色し始める。


その中から一枚のワンピースを取り出すと、私は目の前で広げてみた。


「……うん、これにしよう」


以前、ひぃくんが可愛いと褒めてくれたピンクのワンピース。


そのワンピースに合わせて真っ白なコートも取り出すと、私は今からのデートにウキウキとしながら支度を始めたーー。




※※※




「ひぃくん、ツリー 綺麗だったね! 」

「うん、綺麗だったねー」


先程撮ったばかりのツリーの写真を眺め、ニコニコと微笑んで歩く私。


「私ね、ひぃくんと一緒にツリー見たかったの。だからね、今日は一緒に見れて本当に嬉しかった! ありがとう、ひぃくん 」

「どういたしましてー。俺も花音と一緒に見れて凄く嬉しかったよー」


手を繋いだまま並んで歩く私達は、お互いの顔を見てクスクスと笑い合う。


今年は一緒にツリーを見に行けないと諦めていた私。

だから、今日こうして一緒に見れた事がとても嬉しかった。


私は左手に持った携帯に視線を戻すと、何枚か撮った写真をスライドさせてゆく。


「これ待ち受けにしようかなー。ねぇねぇ、ひぃくん。 これどうかな? 」


ツリーをバックに2人で並んで撮った写真を見せると、ひぃくんはフニャッと微笑んで口を開いた。


「うん、花音可愛いー」

「本当? じゃあ、ひぃくんもこれ待ち受けにしたら? 」

「うーん。でもこれお気に入りだからなー」


そう言ってコートのポケットから携帯を取り出したひぃくん。

その携帯画面を眺め、何やら嬉しそうに微笑んでいる。


「そっちよりこの写真の方が良くない? 」

「こっちの方が良いー」


手元の写真を見せて懸命にアピールするも、あえなく却下されてしまった私のお勧め写真。


「そんなにそれが良いの……?」

「うんっ。花音可愛いー」


私は自分の携帯へと視線を戻すと、今回もダメだったかとガックリと肩を落とした。


絶対にこっちの方が良いのに…。

何でアレが良いの?


待ち受けを変更して欲しくて、新しく写真が増える度に色々勧めている私。

だけど、どうやらひぃくんは待ち受けを変える気はないらしい。


手元の携帯を眺めて、嬉しそうな笑顔で「可愛いー可愛いー」と連呼しているひぃくん。


それのどこが……?


白目の私が待ち受けになっているひぃくんの携帯を横目に、私はひぃくんの嬉しそうな姿を見て顔をヒクつかせた。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る