第21話★君と私とロバと…… パート2



「……いや、ロバだろ」

「ロバね……」


シラけた顔をして答えるお兄ちゃんと彩奈。


……ほらっ!ねっ?!

ひぃくん、あれはロバだよ?!


お兄ちゃん達の言葉にニッコリと微笑んだひぃくんは、私に視線を移すとフニャッと笑った。


「……馬だってー」


ーーー?!


堂々と私に嘘を付いたひぃくん。


ひぃくん……

私、今ちゃんと聞こえてたよ……?

お兄ちゃん達ロバって言ってたじゃん。


……よく堂々と嘘が付けたね。

ビックリだよ……。


ひぃくんのその態度に、一瞬にして全員が顔を引きつらせてドン引く。


「楽しみだねー」


ひぃくんはニコニコと微笑むと、私の手を掴んで歩き出す。


「……えっ?! ま、待って! 私乗りたくないっ!」

「えっ? どうして?!」


私の言葉に驚いた顔をするひぃくん。


……何故そこでひぃくんが驚くの?

私は顔を引きつらせる。


「あれは子供用だからっ! 私乗れないよっ! 無理っ!」


……お願い、よく見てよ。

小さな子供しか乗ってないんだよ?

それを私に乗れと……?


「大丈夫だよー、花音は可愛いから」


……いや、だから意味がわからない。


嫌だ嫌だと叫ぶ私を無視して、ニコニコと微笑むひぃくんはキッズコーナーへと近付いて行く。


「照れなくても大丈夫だよー」


照れてるんじゃなくて、恥ずかしいんだよっ!

本当にわからないの……?


ニコニコと微笑むひぃくんを見て、私の顔は真っ青になる。


チラリとお兄ちゃん達の方を見ると、ドン引いた顔で私達を見てはいるものの、私を助けてくれる気はなさそうだ。


あぁ……もう無理……。

お願い、誰か助けて……。


そのままズルズルとキッズコーナーまで連れて来られた私。


気が付けば、私の目の前にはロバのメロディペットが……。


嫌だ……。

こんなの乗りたくない。


泣きそうな顔をしてお兄ちゃんを見ると、プッと笑って目を逸らした。


酷い……。

助けてくれないの?


「花音おいでー」


ひぃくんの声が聞こえた瞬間、フワリと宙を浮いた私の身体。


……え?


一瞬の隙にロバに乗せられてしまった私は、後ろにまたがったひぃくんにガッチリと抱きしめられる。


私の顔からは一気に血の気が失せ、真っ青になった顔がヒクヒクと痙攣し始める。


かける、写真撮ってー」


そう言ってお兄ちゃんに携帯を渡したひぃくん。


え……待って……嘘でしょ……?


「しゅっぱーつ!」


嬉しそうな声を出したひぃくんは、ロバの首元にお金を投入すると「花音良かったね、お姫様だよー」と言って私をキュッと抱きしめた。


軽快な音楽が流れ出し、ゆっくりと動き始めたロバ。


何これ……。

……歩いた方が全然早いよ。


ノロノロと歩くロバの背にまたがり、私の背後で嬉しそうにハシャいでいるひぃくん。

軽快な音楽のせいもあってか、何だか凄くバカっぽい。


すれ違う子供達は、私達を見て不審そうな顔をする。


「ママー。見て、大人が乗ってるよ」


私達を見て指を差す女の子に、笑顔でヒラヒラと手を振るひぃくん。


「白馬に乗った王子様とお姫様だよー」

「……それロバだよ」


ひぃくん……

あんなに小さな子でもロバだってわかってるよ……。


「……馬だよ?」


ニッコリと微笑むひぃくんに、不審な顔を見せる女の子。


「里香ちゃん、ダメよ」


近くにいたお母さんが、引きつった顔をして女の子を私達から遠去ける。


それではまるで、私達が不審者みたいだ。


軽快な音楽と共にノロノロと動くロバ。

その背にまたがり、ニコニコと微笑んで白馬に乗った王子様だと言い張るひぃくん。


うん……

確かにヤバイ奴かもしれない。

一緒に乗っている私もそうなのだろうか……。


周りから向けられる白い目に耐えられなくなった私は、思考を手放すと白目を向いた。


お願い……。

何でもいいから早く終わって……。


ニコニコと微笑むひぃくんに抱きしめられながら、ノロノロと動くロバの背に乗った白目の私。


その姿は、周りがドン引くには充分な程に異様で、気付けばあっという間に私達の周りには人がいなくなっていた。


私達を乗せてノロノロと動くロバは、それから五分程すると静かに動きを止めた。


地獄のように長い五分間だった……。

何故私がこんな目に……?


一刻も早くこの場から立ち去りたかった私は、ロバから降りるとフラフラとおぼつかない足を一生懸命に動かし、少し離れた場所にいるお兄ちゃん達の元へと向う。


「……お、お兄ちゃん……」

「……お疲れ。お前、顔ヤバかったぞ……」


引きつった顔をして私を見つめるお兄ちゃん。


……私、そんなにヤバかった?

私の顔なんかより、あの状況の方がよっぽどヤバかったと思うけど。


かける! 写真ちゃんと撮ってくれたー?」

「あ……まぁ、一応撮ったけど。花音の顔がヤバイ」


え……私そんなにヤバイの?


引きつるお兄ちゃんの顔を見て、ニコニコと嬉しそうに携帯を見ているひぃくんに視線を移す。


「花音可愛いー」


携帯を見つめるひぃくんが、嬉しそうな声を上げてニコニコと微笑んだ。


写真が気になった私は、ひぃくんの手元の携帯を覗き見る。


え……どこが可愛いの……。

とんでもなくブサイクじゃない……。


携帯に映し出されている写真には、真っ青な顔をして白目を剥く、もの凄くブサイクな私の姿があった。

その後ろには、ちゃっかりとカメラ目線で笑顔を向けるひぃくんが。


「え……。凄くブサイク……」

「そんな事ないよー。いつも通り可愛いよー」

「……えっ……いつも通り……?」

「うん、いつも通りー」


フニャッと笑って小首を傾げるひぃくん。


私……いつもこんなにブサイクなの?


携帯画面に映し出された自分の顔を見つめ、思わず顔を引きつらせる。


「待ち受けにしちゃおーっと」


嬉しそうにニコニコと微笑むと、そう言って携帯を操作し始めたひぃくん。


「できたーっ! ほら見てー、花音可愛いー」


……どこが?

それのどこが可愛いの……?


ニコニコと微笑みながら携帯を見せてくるひぃくん。


そこに映し出されているのは、白目を剥いた私の顔のドアップ写真。


何故ドアップ……。

これが可愛いって……本気?


ニコニコと嬉しそうに携帯を掲げるひぃくん。


お兄ちゃん達をチラリと見ると、とてもドン引いた顔をしている。


ひぃくん……。

お願い、やめて……。

みんな引いてるよ。

どうかしてるよ、そのセンス……。


……絶対に待ち受け解除してもらおう。


私はそう思いながら、目の前に映し出されるブサイクな自分の顔をジッと見つめた。


これが……私のいつも通りの顔……。

本当に……?

私……こんなにブサイクなの……?


真っ青な顔をして引きつる私は、小さく笑い声を漏らすと薄く笑う。


死にたい……。

私、めちゃくちゃブサイクだよ……。


ひぃくん……こんな私のどこが好きなの?

なんか……ありがとう。


ニコニコと微笑むひぃくんに視線を移すと、私は笑顔を引きつらせながら感謝したーー。





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