第15話★そんな君が大好きです パート4





「花音、大丈夫?」


私の顔を覗き込み、心配そうに訊ねる彩奈。


酸欠で具合が悪くなったのと、恥ずかしくてあの場にいられなくなった私は、斗真くん達と別れると少し離れた場所へと移動した。


花火会場からは少し離れてしまうけど、ここでも充分に花火は見えるはず。

何より、人が少なくていい。


実は穴場スポットだったのかもしれない。


「うん、もう大丈夫。ありがとう」

「動ける?」

「うん」


ベンチに座っていた私は、立ち上がるとお兄ちゃん達の元へ向かう。


目の前に見えるのは、場所取りをしてくれているお兄ちゃん達。

何やら数人の男女と話している様だ。


「誰かなぁ?」

「……さぁ」


私の隣を歩いている彩奈は、お兄ちゃん達を見ながら首を傾げる。


そのままお兄ちゃん達に近付いた私は、お兄ちゃんの背後でピタリと立ち止まると口を開いた。


「……お兄ちゃん」


私の声に振り返ったお兄ちゃんは、私を視界に捉えると優しく微笑む。


「具合良くなった?」

「うん、もう大丈夫」


お兄ちゃんの背後にチラリと視線を移すと、それに気付いたお兄ちゃんが口を開いた。


「学校の奴ら。今偶然会ったんだよ」


チラリと背後を見たお兄ちゃんは、そう言うと私と彩奈を皆に紹介してくれた。


「あー知ってる知ってる。噂の妹ちゃん」

「誰と付き合っても妹優先するからフラれるって噂の?! ……あーこりゃ優先したくもなるわなぁ」


そう言って、ジロジロと私を見てくる先輩達。


というか……

お兄ちゃんに彼女がいたのなんて知らなかったよ。


「可愛いねー。俺と付き合わない?」


私の顔を覗き込む先輩は、そう言うとニッコリと笑った。


私……今告白されたの?

……人生で初めて告白されたよ。


初めての告白に感動していると、横からグイッと肩を抱き寄せられる。


「……手、出したら殺すよ?」


その声に頭上を見上げると、ニッコリと微笑むお兄ちゃんが。


笑ってるけど……その顔は鬼だ。


「お友達も可愛いねー。俺と付き合わない?」


今度は彩奈に告白する先輩。


なんて変わり身の早い人なんだろう……。

私の感動を返してもらいたい。


「この子もダメだから」


お兄ちゃんは左手で彩奈の肩を抱くと、そう言って先輩から遠ざける。


少し俯いている彩奈は、何だか顔が赤い気がする。


どうしたんだろう……。

あ……鬼が怖いのかな?


チラリとお兄ちゃんを見上げると、そこにはやっぱり鬼がいた。


怖いよね、私も怖いもん。

ごめんね……彩奈。


「ーー花音」


突然呼ばれた声に視線を移すと、そこにはニコニコと微笑むひぃくんの姿が。

その腕には女の人がひっついている。


何してるの……?


ニコニコと微笑みながら、こっちへ向かって来ようとするひぃくん。

それを必死に引っ張って止めている女の人。

よく見ると、とても可愛い人だった。


……何だか胸が痛い。

チクチクとしだした胸に顔を歪める。


何これ……。

私、死ぬの……?


「お……お兄ちゃん……苦しい……」

「……えっ?!」


お兄ちゃんの胸に顔をうずめてそう訴えると、頭上でお兄ちゃんの焦った声が聞こえた。



そして再びベンチへ逆戻りした私。


私の隣では、彩奈が心配そうな顔をして私を見ている。


「花音……大丈夫?」

「うん、何かもう治ったみたい」


顔を上げてお兄ちゃん達の方を見ると、心配そうにチラチラとこっちを見ているお兄ちゃんがいる。


一緒に付いてこようとしたお兄ちゃんを止めて、私は彩奈と二人でベンチへ来た。

せっかく友達と楽しそうにしているのに、何だか連れ出すのは申し訳なかったから。


チラリとひぃくんに視線を移すと、相変わらず女の先輩がひっついていた。


それを見た私は、何だかまた胸が苦しくなってくる。


「あ……また胸が苦しくなってきた……どうしよう、私死ぬの……?」


ひぃくんを見つめたままそう言うと、私の視線を辿った彩奈が溜息を吐いた。


「ねぇ……それって、響さんを見ると苦しくなるんじゃない?」


す、凄いっ。

何でわかるの?……その通りだよ。


「うん……苦しい、助けて」


苦痛に顔を歪めると、彩奈は私を見て溜息交じりに口を開いた。


「……響さんが好きって事だよ、バカ」


彩奈の言葉に思わず顔が引きつる。


そんな訳ないじゃん……

何言ってるの?

酷いなぁ……バカだなんて……。


引きつった顔でぎこちない笑顔を作ると、小さく笑い声を漏らす私。


「あの女の先輩が気になるんでしょ? 」

「……うん」

「可愛いもんね、あの先輩」

「……うん」

「響さんの事好きだよ、あの人」

「えっ……」


彩奈の言葉に、ショックで固まってしまった私。


あんなに可愛い人が……

ひぃくんを好きなの?


「あのまま二人が付き合ってもいいの?」


胸がズキズキする。

お願い……やめて、彩奈。


「付き合っちゃうかもね、あの二人」

「やっ……やだっ!」


泣きそうな顔をして大声を出すと、そんな私を見た彩奈はクスリと笑った。


「好きなんだね、響さんの事」


私の顔を見た彩奈は、そう言ってとても優しく微笑む。


そっか……私……

ひぃくんの事が好きなんだ。


そう認めると、何だか胸がスッと軽くなった気がした。


「……うん、好き……」


小さく呟くと、私を見つめる彩奈はニッコリと微笑んだ。


「やっと自覚したね」


でも……

自覚したからってどうすればいいの?


私は彩奈から視線を外すと、女の先輩と一緒にいるひぃくんを見つめる。


やっぱりチクリと痛む胸に、私はキュッとひよこを抱きしめた。

とその時、ひぃくんが女の先輩と一緒に歩き出した。


そのまま皆のいる場所から遠ざかってゆく二人。


え……何処に行くの?


「告白かもね……」

「……えっ……」


あの人と付き合っちゃうの……?

もう……ひぃくんと一緒にいられなくなっちゃうの?

……そんなの嫌。

絶対に嫌……っ!


そう思った私は、気付けば勢いよく走り出していた。


後ろで彩奈が私を呼んでいる声が聞こえるけど、それでも私は止まる事なく走った。


どこ……?

どこにいったの……ひぃくん。


人気のない場所でキョロキョロと辺りを見回す。


「ひぃくん……どこにいるの……」


心細さと悲しさで涙が出そうになる。


「ーー花音!」


俯いていた顔を上げると、私の方へ駆け寄ってくるひぃくんの姿があった。


とても焦った顔をしているひぃくんは、すぐに私の元へたどり着くと、心配そうに私の顔を覗き込みながら口を開いた。


「こんなところで何してるの?一人でいたら危ないよ」

「ひぃくん探してたの……嫌……っ」


そう言って突然しがみついた私。


ひぃくんはそっと私を抱きしめると、私の頭を優しく撫でてくれる。


「花音、どうしたの? 嫌って何が嫌なの?」


グズグズと泣き始めた私に、優しく話し掛けてくれるひぃくん。


「ひぃくんいなくなっちゃ嫌ぁ……」

「大丈夫だよ、いなくならないよ」

「私……ひぃくんが好きなの……。ずっと一緒にいたい……っ」


私がそう伝えると、私の頭を撫でていたひぃくんの手がピタリと止まった。


抱きしめられていた身体をゆっくりと離されると、ニッコリと微笑むひぃくんが私を見て口を開いた。


「もう一回言って?」


……どこを?


「一緒にいたい……」

「んー違うよー。花音、そこじゃないよ?」


小首を傾げてニコニコと微笑むひぃくん。


もしかして……好きって……ところ?

ムリムリムリムリっ!

恥ずかしすぎるよ。


チラリとひぃくんを見ると、ニコニコと微笑みながら私の言葉を待っている。


どうしてまた言わなきゃいけないの……。

何でちゃんと聞いててくれないのよ……ひぃくんのバカっ。


「……好き……」


真っ赤になりながらそう伝えると、ひぃくんはフニャッと嬉しそうに笑った。


「俺も花音大好きー」


幸せそうに微笑むひぃくんに、私もつられてクスリと笑みが漏れる。


ーーードンッ


突然大きな音が聞こえ、花火が開始したのだと私達に知らせる。


「花火……」

「始まっちゃったねー」


すぐ横を見ると、ヒュルヒュルと空高く打ち上がった光がパッと綺麗な花火を見せた。


「……花音は俺の大切なお嫁さんだからね」


花火から視線を移すと、とても優しい笑顔のひぃくんと視線が絡まる。


「……うん」


私の返事にニッコリと優しく笑ったひぃくんは、私の頬に手を添えると優しくキスをした。


私の腕からポトリと落ちるひよこ。


え……。


私から離れたひぃくんは、私の顔を見つめてニッコリと優しく微笑む。


私……今、ひぃくんとキス……。

キス……しちゃった……。


そう認識した途端に、一気に熱の上がる私の顔。

きっと今、物凄く真っ赤だと思う。


恥ずかしさに顔を俯かせると、下に落ちたひよこをひぃくんが拾い上げた。


パンパンと軽く汚れを落としたひぃくんは、私にひよこを差し出してニッコリと微笑んだ。


「はい、おっぱい落ちたよ?」


……クッションだよ。


こんな時でさえ、いつもと変わらないひぃくん。


すっかりおっぱいが名前みたいになってしまったひよこを受け取ると、私はニコニコと微笑むひぃくんを見つめた。


ちょっぴり変なひぃくん。

きっとこれからもそれは変わらない。


だけど、私はそんな君が大好きですーー。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る