第14話★そんな君が大好きです パート3
※※※
「ねぇ、ひぃくん……私……エッチなの?」
私の隣でニコニコしながら歩くひぃくんに、勇気を振り絞って訊ねてみる。
さっき言われた言葉が気になって仕方がなかった。
私はエッチなのだろうか?
だとしたら……
恥ずかしくて生きていけない。
そんな事さえ思っていたのだ。
ニコッと笑ったひぃくんは、私を見つめながら口を開いた。
「えー? 誰に言われたの? そんな事」
ーーー?!
……お前だよっ!
思い悩んだ数分間を返してくれ!
ニコニコと微笑むひぃくんを見て、ガックリと肩を落とす。
何なのよ……。
ひぃくんのバカ。
「何でもない……」
アホらしくなった私は、そう言うと前を向いた。
ひぃくんと一緒にいると本当に疲れる……。
何でこんなに振り回されなきゃいけないのよ。
小さく溜息を吐く私の横で、呑気にニコニコとしているひぃくん。
……本当呑気な人。
「ーー花音ちゃん?」
ーーー?!
突然呼ばれた声に視線を向けると、そこには斗真くんがいた。
「……斗真くん」
私の声にニコリと笑った斗真くんは、そのまま私達の方へと近付いてくる。
どうやら何人かで一緒に来ているらしく、その中にはスパへ一緒に行った男の子もいた。
名前……忘れちゃった。
「花音ちゃんも来てたんだね」
私の目の前へ来た斗真くんは、そう言うとニコリと微笑む。
「……誰? 学校の人?」
そう言ってジロリと斗真くんを見るお兄ちゃん。
一度会った事あるのに……
覚えていないらしい。
「あ、こんにちは。同じ学校の山崎斗真です」
お兄ちゃんの失礼な態度も気にせず、笑顔で挨拶をする斗真くん。
出来た人だ……。
お兄ちゃんと話している斗真くんを見て、私は一人感心する。
その後、一緒に行動する事になった私達。
どうやらお兄ちゃんも一緒なので、男の子がいてもいいみたい。
何だか突然大人数になり、一気にお祭り気分が増した私。
ひぃくんに取ってもらったピンクの水風船を眺めながら、今日は本当に来て良かったと心から思った。
パシパシと掌でヨーヨー遊びを始めた私は、ふと思い立って水風船を頬に当ててみる。
中に入った水が冷んやりとして、とても気持ちがいい。
「ひぃくん、これ気持ちいいよ」
そう言ってひぃくんに水風船を差し出す。
ひぃくんは水風船を受け取ると、掌でコロコロと転がした。
「んー違うなー」
……何が?
私をチラリと見たひぃくんは、腕の中にあるひよこをヒョイっと取り上げた。
「あっ!これだー。気持ちいいねー」
そう言って、ひよこをモミモミと手で揉み出すひぃくん。
ビーズクッションで出来たひよこは、確かに触り心地がいい。
でも、水風船は冷たくて気持ちいいのに……。
私は返された水風船を見つめると、輪ゴムに指を通して再びヨーヨー遊びを始める。
取られてしまったひよこを見ると、ひぃくんに揉まれてグニャグニャと形を変えていた。
嬉しそうにひよこを揉むひぃくんに、私は溜息混じりに声を掛ける。
「そんなに気持ちいい?」
……私のひよこ。
お気に入りなんだけどな……。
この分だと暫く返ってこなそう。
「うんっ! 花音のおっぱいみたい!」
ーーー!?
嬉しそうな顔でそう言ったひぃくんに、私はピタリと動きを止めた。
今……何て……?
私の手にぶら下がった水風船が、力なくユラユラと揺れる。
ハッと意識の戻った私は、勢いよくひぃくんからひよこを取り上げた。
「やめてよ、 ひぃくん!」
「あー花音のおっぱい……」
「だからやめてよ、その言い方!」
二人で揉めていると、お兄ちゃんが振り返って口を開いた。
「何やってるんだよ。置いてくぞ」
どうやら会話は聞こえていなかった様で、私はホッとすると小さく息を吐く。
「おっぱいが……」
私の腕に抱きしめられているひよこを見つめ、おっぱいおっぱいと
お兄ちゃんに聞こえたらどうするのよっ。
「後でクッション触らせてあげるから……お願いだから今は黙って」
「本当?!」
「……うん」
別にクッションだからいい。
そんな風に思っていた私は、後で後悔する事になるとは思ってもいなかったーー。
※※※
さっきからやたらとご機嫌なひぃくん。
花火会場に着いた私達は、人混みの中で花火が始まるのを待っていた。
そんな中、ニコニコと幸せそうに笑っているひぃくん。
私なんて息をするのでやっとだ。
「なんか……響さんさっきから凄いご機嫌だね? 何かいい事でもあったの?」
幸せそうにニコニコとしているひぃくんを見て、彩奈は不思議そうな顔をする。
確かに……。
何でそんなに笑ってられるの?
ニッコリと笑ったひぃくんは、彩奈を見ると口を開いた。
「花音が後でおっぱい触らせてくれるって言ってたー!」
ーーー?!
ひぃくんの放った言葉に、その場にいた全員が固まった。
思わずふらりとよろけると、そのままひぃくんに抱きとめられる。
予想以上に大きかったその声に、近くの知らない人達まで私達を見ている。
クッションだよ……ひぃくん。
お願いだからクッションと言って……。
「……は?」
呆然とするお兄ちゃんが、小さな声を漏らすとひぃくんを見た。
「静かにしてたらご褒美に触らせてくれるって言ってたー!」
幸せそうにニコニコと微笑むひぃくんは「そうだよね?」と言って私を抱きしめる。
違う……。
何か違うよ……ひぃくん。
それじゃ私……
とんでもない変態みたいだよ……。
一気に身体から血の気が引き、一瞬で真っ青になる私。
私と同じくらい真っ青な顔をしたお兄ちゃんは、ゆっくりと瞳を動かすと私を捉えた。
その目は驚きに見開かれている。
お兄ちゃん……
そんな目で見ないで。
私そんな変態じゃないよ……。
……変態なんかじゃない。
密集する人混みの中で、最早酸欠状態だった私。
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