第13話★そんな君が大好きです パート2






「ひぃくん、ひぃくん! あれ取ってー!」


私はひぃくんの腕をグイグイと引っ張ると、射的の出店を指差した。


コロンと丸い小さなひよこのクッション。

凄く可愛くて一目惚れしてしまった。


さっきまでひぃくんに怒ったりドキドキしたりしていたくせに、会場についた途端にはしゃぎまくる私。

……自分でもどうかと思う。


「どれが欲しいの?」

「あの丸いひよこっ!」

「うん、わかったー」


そう言ってニッコリと微笑むひぃくん。


銃を構えるひぃくんの横顔は、なんだか凄く真剣でドキッとする。


ーーーパンッ


銃声が聞こえた次の瞬間、ひぃくんは私を見てフニャッと笑った。


「取れたよー」

「……えっ?!」


ひぃくんに見惚れていた私は、その声に慌てて景品棚を見る。


コロンと下に転がるひよこ。

ひぃくんは一発で取ってしまったのだ。


「ーーはい、お嬢ちゃん」


ニッコリ微笑むおじさんからひよこを受け取ると、ひぃくんを見上げて口を開いた。


「ありがとう、ひぃくん!」


満面の笑みでお礼を告げる私を見たひぃくんは、ニッコリ微笑むと「可愛いー」と言って優しく頭を撫でてくれる。


「ーー花音」


突然呼ばれた声に振り返ると、そこには彩奈とお兄ちゃんの姿が。

手には焼きそばとりんご飴が握られている。


実は私のパシリでりんご飴を買いに行っていたお兄ちゃん。


「りんご飴っ!」


目を輝かせた私は、そのままお兄ちゃんに向かって走り出した。


わーい!

りんご飴っ!

最早りんご飴しか目に入っていない私。


目の前の石に気付かず、そのまま石につまづいてしまった。


ーーー!!


倒れるっ!

そう思った瞬間、ガシッと肩を掴まれる。


「急に走るなよ……」


呆れた顔をするお兄ちゃん。

どうやらお兄ちゃんに助けられたらしい。


「……まるで子供ね」


お兄ちゃんの横で、彩奈が呆れた様な顔をする。


「……おい、聞いてるのか花音」

「えっ……?!」


実は肩に置かれたお兄ちゃんの手をジッと見ていた私。


だってその手にはりんご飴が握られていたから……。


「お前今りんご飴見てただろ……」


ギロリと私を睨むお兄ちゃん。


「み、見てない! 見てないよー。お兄ちゃんてば、嫌だなぁ!」


引きつる顔でアハハッと笑って誤魔化すと、そんな私を見たお兄ちゃんは大きく溜息を吐いた。


「……子供かよ」

「……子供ね」


彩奈と二人で呆れた顔をするお兄ちゃん。


何も返す言葉がありません……。


「ーー花音! 急に走っちゃダメだよー。どこも怪我してない?」


そう言いながら、焦った顔をして駆け寄るひぃくん。


あ……。

ひぃくん置いてきちゃってた。


ひよこを取ってもらっておいて、そのままひぃくんを置いてきた私。

なんて最低なんだろう……。


「ひぃくん……ごめんね」


申し訳なく思い謝る。

シュンとして俯いていると、ひぃくんは私の頭を優しく撫でてくれた。


「花音が無事ならいいよ。りんご飴食べたかったんだもんねー」


そうなの……。

食べたかったの、りんご飴。


でも、だからって最低だよ……私。

優しく微笑むひぃくんに胸が痛む。


「私のりんご飴……半分コする?」


ひぃくんへの謝罪に、そんな事しか思い浮かばない私。


そんな私の言葉に、ひぃくんは目を見開いて固まってしまった。

やっぱり……りんご飴なんていらないよね。


「ひぃーー

「ホントに?! いいの?!」


やっぱり辞めようと口を開いた瞬間、私の肩を掴んだひぃくんが、目をキラキラと輝かせてそう言った。


「えっ……あ、うん」


ひぃくんそんなにりんご飴好きだったっけ?

異常に喜ぶひぃくんを見て、少し呆気に取られる。


「じゃあ、全部半分コしようね!」

「ぜ、全部って……?」


私の目の前でニコニコと微笑むひぃくん。


全部って……

もしかして食べ物全部?


「全部だよー? 食べる物全部。その方が色々食べられるよ?」


小首を傾げたひぃくんは「ね?」と言って私を見てくる。


んー確かにそうかも……。

色々食べたい物があるし、ちょうどいいかもっ!

そう思った私は、途端に目を輝かせる。


「うんっ! そうだね、ひぃくん天才!」


ひぃくんを見上げて笑顔でそう答えると、ひぃくんはフニャッと笑って私を抱きしめた。


ーーー?!


「おい、何でそこで抱きつくんだよ」


黙って傍観していたお兄ちゃんは、そう言うと私からひぃくんを引き離した。


ビックリした……。


不覚にもドキッとしてしまった。

相手はひぃくんなのに……。

ドキドキと高鳴る胸を抑えると、目の前のお兄ちゃん達をチラリと見る。


すると、お兄ちゃんに腕を掴まれたままのひぃくんが、ニコニコと嬉しそうな顔で口を開いた。


「だって花音が俺の事好きって言うから、可愛くてー」

「……いや、言ってないだろ。お前の耳はどーなってんだよ」


ニコニコと微笑むひぃくんに、お兄ちゃんは呆れた顔をして溜息を吐く。


お兄ちゃん……

ひぃくんがおかしいのは耳じゃなくて頭だよ……。

私はひっそりとそんな事を思った。


勉強はできるくせに、どこか頭のネジが緩んでるひぃくん。

これは一生治らないんだと思う。


落ち着きを取り戻した胸から手を離すと、私はお兄ちゃんに向けて口を開いた。


「お兄ちゃん、りんご飴食べたい」


私の言葉に何故か溜息を吐いたお兄ちゃんは「わかったよ」と言って私にりんご飴を渡してくれる。


座れる場所を探して歩く間、ずっとりんご飴を見つめる私。


食べるととっても美味しいりんご飴。

その見た目は、キラキラと輝いてとても綺麗だった。


クルクルと回しながら眺めていると、隣を歩くひぃくんが口を開いた。


「花音、良かったねー」

「うんっ」


クルクルと回るりんご飴を見つめながら、私は笑顔でそう答える。


そんな私を見てクスリと笑ったひぃくんは、私の左手を握ると「転ばないでね」と言って握った手にキュッと力を込めた。


暫くそのまま歩いていると、すぐ目の前を歩いている彩奈が口を開いた。


「……あ、あそこ空いてるよ」


彩奈の指差す方へと視線を移すと、ちょうど四人分の椅子とテーブルが空いている。


私達はその席へ移動すると、買ってきた食べ物をテーブルに広げた。

どうやらイカの丸焼きも買っていたらしい。


目の前にあるりんご飴を見つめ、私ははたと気付く。


あれ……。

りんご飴ってどうやって半分にするの?


そう思って固まっていると、隣に座ったひぃくんが私の手からりんご飴を取り上げる。


「はい、あーん」


そう言って私にりんご飴を差し出すひぃくん。


わざわざ取り上げる必要はあったのだろうか……?

そう思いながらも、食べたくて仕方がなかった私は、差し出されたりんご飴にカプッと食いついた。


「美味ひぃー」


思わず顔がとろける。


「良かったねー」


ニッコリ微笑むひぃくんはそう言うと、私の食べかけのりんご飴にカプッと食いついた。

そしてまた私の目の前に差し出されるりんご飴。


あ、あれ……?

これってどうなの。


「食べないの?」


不思議そうに私を見つめるひぃくん。


何だか意識しているのは私だけのようだ。


「た、食べるっ!」


そう言って勢いよくカブリつくと、クスクスと笑うひぃくん。


何だか悔しい……。

もう気にしないもん。


何故かひぃくんと交互に食べる羽目になったりんご飴。


私から言い出した事なので何も言えず、そのまま完食するまで私は黙って食べ続けたーー。




※※※




「花音、お前お菓子ばっかりだな……。ご飯も食べろよ」


私の目の前で呆れた顔をするお兄ちゃん。


綿菓子にあんず飴にかき氷と、さっきからご飯を食べていない私。

勿論、全てひぃくんと半分コ。


私の隣ではひぃくんがニコニコと微笑んでいる。


だって……食べたいんだもん。

しょうがないじゃん。


口を尖らせてお兄ちゃんを見る。


「花音、あーん」


お兄ちゃんの言葉を無視したひぃくんが、私に向けて笑顔でそう言う。


パッと笑顔になった私は、口を開けて食いついた。

ーーと思ったら、ヒョイッと突然目の前から消えるバナナ。


行方を追って辿ると、お兄ちゃんがひぃくんの腕を掴んでいる。


「それはやめろ……」


何だか少し顔を引きつらせているお兄ちゃん。


チョコバナナ食べたかったのに……。

食べちゃダメなの?


「ご飯も食べるから……お願い、ちょうだい」

「やめろ……そんな言い方するな」


引きつった顔で私を見るお兄ちゃん。


ご飯もちゃんと食べるのに……

お兄ちゃんの意地悪。


「欲しいよね?」

「うん、欲しい……」


ニコニコと微笑みながら私を見るひぃくん。


「お前……わざとか?」

「えー何の事?……あぁ!」


お兄ちゃんの言葉に、何か閃いた顔をするひぃくん。


一体何だって言うのよ。


「いいから、これは自分で食べろ」


そう言ってバナナを渡してくれるお兄ちゃん。


え?

食べていいの?

だったら初めからちょうだいよ……。


そう思いながら、目の前にあるバナナに食いつく。


美味しぃーっ!

不貞腐れていた顔が一気に笑顔になる。


「美味しー?」


横で私を見ていたひぃくんが、ニコニコと微笑みながらそう聞いてくる。


「うんっ!美味しい!」

「花音はエッチだねー」


そう言って私の頬をツンッとつついたひぃくん。


……えっ?! 何で?!


「おい……響」


お兄ちゃんを見ると、鬼の形相でひぃくんを睨んでいる。


そして私の手からバナナを取り上げてしまった。


「もう食べるな。ご飯を食べろ」


そう言って広島焼きを差し出すお兄ちゃん。


私……エッチなの?

……そうなの?

何で……?


呆然とする私は、目の前に置かれた広島焼きをただジッと見つめていたーー。




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