第35話 ダンジョンにエロ本を捨てるのは間違っているのだろうか?(2021-04-08)
ファンタジー世界では、大抵は魔物などの人間以外の種族も繁栄している。
そうした世界では、人間は生き辛い事もあるだろう。
だから生き抜く為に、女性が美しさではなくて強さを選んだ世界があるかもしれない。
***
ダンとジョンは、村に住む冴えない冒険者たちである。
三年ほど前に初めて村の近くのダンジョン(初心者のダンジョンと呼ばれている)に潜ったのだが、未だに第一層くらいしかまともに行った事が無い。
初心者のダンジョンの第一層は、並の冒険者にとっては深層に到る為のただの通り道で、殆ど魔物が出ない為に子供達の遊び場となっている区画まであるくらいだ。
そんな彼らには、一向に伸びない実力、稼ぎの他に、悩み事があった。
エロ本が母親に見つかってしまったのである。
エロ本とは、綺麗な女性の艶姿を描いた本の事で、三年前に初めてダンジョンに潜る時の景気付けとして色街に行った際、仲良くなったおっさんから、嬢の紹介紙としてもらったのが始めだ。
それから時々(高いので、滅多に行けない)、色街に行く度に嬢との思い出や出会っていない嬢を見てみたい思いで何度か買い足したものが溜まっていたのだ。
「今回は母親に見つかっただけだから、まだ大丈夫だろう。だが早晩、幼馴染みに知れる」
ダンの幼馴染みのレナは
彼女にエロ本を隠しているのを知られたら鬼気迫る表情で探しにくるだろう。
そして、間違いなく破り捨てられる。
世話になった(?)彼女たちが酷い目に遭う、それを想像するだけでダンは悲しい気持ちになった。
捨てるにしても、納得の行く形で捨ててあげたい。
生き物では無い、ただのモノでしか無いとしても。
そして話し合った結果、ダンジョンの奥の、古びた宝箱にでも入れておこう、という話になる。
「あの辺りの箱は、もうとっくの昔に暴かれてからっぽだというのは知られてるけど、予想外のお宝が入っていたりしたら、見つけた奴の表情を想像するだけで楽しく無いか?」
こうして、少年たちはエロ本を片手にダンジョンに潜った。
***
ゴブリンのゴブオは悩んでいた。
ゴブリンとは魔物の一種で、繁殖の為に人間やエルフの女性を拐うという言い伝えがある。
なぜわざわざ他種族を、というと、大抵は自分たちの種族の女性より他種族の女性の方が美人だからだ。
ゴブリンは醜い。ゴブリンの女性も醜い。そして、なぜか女性に対する美的感覚だけは人と同じだった。
そして、ゴブオの悩みはそこにあった。
彼の母親は、早い所、ゴブオと幼馴染みのゴブミとの子供を見たいのだが、ゴブオは事におよぶ事が出来なかった。
ぶっちゃけ、母親もそうだが幼馴染みのゴブミも萎えるほど醜い。
ナニをしようにも、ナニがナニする気も起きないのだった。
そんな時、幼馴染みからも母親からも逃げている時に、彼は見つけてしまう。
「この子こそ女神だ!」
そう。ゴブオは宝箱に隠されたエロ本に神を見たのだ。
こうして、ゴブオと、同じ悩み(ゴブリンの女性は醜い)を持った仲間たちは、エロ本を中心に、結束を固めるのだった。
いつか、このエロ本に描かれた女神に会いたい、と。
そして、その影響は同じ悩みに悩むオークやオーガなど他の魔物たちにまで広がる。
なぜ、自分の種族の女性は醜いのか?
このエロ本に描かれた女神に出逢いたい!
結果として、魔物たちの数が減少した。
***
魔王は悩んでいた。
魔王とは、魔物たちを束ねる王で、代々、一番強い魔物の個体が就任する。
強い魔物というと大体、決まっていて、龍や吸血鬼などまぁ、ファンタジーでは定番の強者だ。
その中でも、今代は先祖返りにより真祖並、いやそれ以上と言われる力を持つ吸血鬼の令嬢が就任している。
彼女の悩みは、魔物たちの減少だ。
元々、男どもは子供を作る事に消極的である。
それが最近、以前に輪をかけて消極的になったのだ。
「いったい、何が・・・」
生物にとって、子孫を残す、という事は重要な課題である。
そして、その種の繁栄、国の繁栄にも子供の多寡は重要な課題である。
だからこそ、蟻や蜂などでは子供を多く残せる女王が偉い、という事になる。
魔物たちの中でも、子供を多く産む女性が偉い、という価値観があるものもいる。
人も魔物も生物である以上、子供を産むのが女性の仕事である事は変わりが無いのだろう。
いったい、いかなる訳で・・・と調べた結果、女神教団なるものどもの暗躍を知る。
そのものどもの経典なるものを手に入れた、というので見てみると
「なんと、ハレンチな!」
中には、派手な衣装や、薄手の衣装を身に纏う女性、さらには、ほとんど裸ではないか、と思えるような格好の女たちが描かれていた。
「このものどもが、男たちを堕落させて子作りをさせない原因なのか!」
そして、描かれている女どもは、揃ってこちらに媚びを売るような表情をしている。
その作られたような笑顔に吐き気を感じた。
だが、原因を突き止めた途端に
「魔王様!クーデターです!」
おそらく、女神教団の暗躍によるものだろう、クーデターが勃発し、魔王は追いすがる敵を討ち取りつつも傷を負い、辛くも国外へと落ち延びる。
***
公爵令嬢は悩んでいた。
というのも、近年、領内の出生率が低下しているからだ。
「いったい何が?」
領民は、領の、更には国の力となる。
子供の数は、国力に直結するのだ。
つまり、原因を突き止め、対策を打って出生率を回復させるのは急務といえる。
そして、この問題はこの領だけの問題では無さそうなのだ。
時折、開かれるお茶会での会話でも、出生率の低下は話題になっている。
しかし、何が・・・と、考えても何も浮かんでこない。
悩む頭を休める為、少し庭園に散歩に出かける事にした。
「あら?何かしら?」
庭師が丹精を込めた庭の花を眺めつつ歩いていると、綺麗に揃った花々が乱れた箇所があった。
その下に横たわる、なにか白くてもふもふとしたもの。
動物かな?と思い、こわごわと触れてみると、ところどころに見える傷と、服の切れ端。
まとっていた服が切り裂かれたような様なので、元々は着せられていたのだろう。
そんな風に服を着せられるのは野生のものではなくて、たぶん、逃げ出したペットかな?
拾ったのは、1メートルほどの白銀の毛のゴリラだった。
人間は猿から進化したと言われる。
そして、吸血鬼は人間から変化したという話だ。
何を言っているか分からないと思うが要するに、ちょっと激しく先祖返りしちゃった吸血鬼が今代の魔王という話だ。
「女神教団、ね・・・」
ゴリラと思い込んでいたのが実は元魔王だ、という事には驚いたが、それよりも魔物たちの間でも同じ悩みがあった事に驚く公爵令嬢。
果たして、こちらでも同じくエロ本が原因なのか?と思っていると、領内を見回っている騎士団よりの報告が。
「領内で不審な集会を行なっているものたちを捕らえたところ、このようなものが」
「なんとハレンチな!」
それは、元魔王が見た経典と同じものであった。
***
魔物たちが群れている、そんなところにダンとジョンが行き当たったのが始まりだった。
自分たちでは到底、相手に出来ない魔物の群れ。
こっそりと引き返して逃げるつもりだった。
だが、ふとした拍子で、彼らが熱心に見ているものを見てしまったのだ。
「あ。俺のエロ本!」
たちまち殺到する魔物たち。
だが、その中の一人が、ダンのこぼした言葉を聞いていたのだ。
「おまえたち、この本が何か知っているのか?」
「俺たちが買い貯めたエロ本です」
人間の世界には、エロ本が売られている、という事に刮目する魔物たち。
是非、我々にも売って欲しい。
こうして、ダンとジョンは、魔物たちとエロ本貿易を始める事になったのだ。
――――――
ハーメルンで二次創作として書かれていた、とある作品を読んでなんとなく思いついたネタ・・・を元にあらすじを途中まで書いたもの。
なんか、思いついた時に一話は一気に書けたんですよね。その後書けないけど。
ちなみに、原作を見たり読んだりした事は無いので、タイトルが似ていても内容は全く別物(のはず)。
面白い、と思える作品でも、よくよく設定とか見てみるとあほらしい(?)設定のものがあるんですよね。
それでも書き通してしまうのがさすがと思える所。
これも自分で書いていてあほらしいと思うような筋だけど、一度、書き通してみると何か分かるだろうか?
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