第32話 ☆EXCALIBUR(2021-01-31)
特に目立ったところの無いこの村には、人が少ないのにもかかわらず一軒だけ酒場がある。
というのも、この街道の先を行った所にある街が景気がよくなり商人が集まるようになった結果、途中にあるこの村にも商人が集まるようになってきた為、そういった商人や、その護衛相手の商売が成り立つようになってきたからである。
まぁ、この村は中継地点にするには中途半端な距離、規模の為、重い荷物を積んで歩みが遅い隊商や、途中でトラブルが起こって立ち寄らざるを得ないようなものしか立ち寄る者はいないのだが。
分厚い扉の中央に熊の掌が打ち付けてあるので、熊の掌亭などと呼ばれているこの酒場は、商人など村の外からの客以外にも農閑期などで、暇になった男どもの溜まり場となっていた。
そんな中、隅の狭い場所で安酒をかっ喰らっている男。
かつて、数々の名剣を鍛えた、腕のいい鍛冶師なのだという。
全く、そうは見えないが。
「もう、ずっと鍛冶の仕事をしていないようなんですがね。まぁ、酒でも奢ってやれば話くらいは聞いてくれますよ」
名剣の鍛冶師の噂を聞いて尋ねて来たのだが、ここまで案内してくれた村人はそんな事を言って、酒場の騒めきに消えていった。
「あんだ、おめーは?」
安酒の飲み過ぎで顔が焼けてしまっているような男に、せめて、と高めの酒を持っていくと、礼を言ってちびりちびりと酒を飲む男。
剣を鍛えて欲しい、と言っても、俺はもう剣は作らねぇ、との返事。
どうしたものか、と思いながら酔っ払いの話に付き合っていると、ぽつぽつと語り出した。
「良い剣ってのは、ただ良い剣が打てた、ってだけじゃねぇ。
ぼーっと晩飯の事を考えながら打った剣と、斬る相手憎き相手を想いながら打った剣では自ずと違うものになるんだ。
それは、ドラゴンスレイヤーとかを考えてみれば分かるんじゃねーか?」
こくり、と、注がれた酒を飲みながら言う。
「良い剣を打てた時、鍛冶師はそれに銘を刻む事がある。
それは、鍛冶師の想像力を広げ、剣の力を増大させ、そして、剣の力を方向付ける。
例えば、ファイアブランドなんて銘を付けられた剣は、火の力が刻み込まれ、使い手のマナを消費して刀身を燃え上がらせ、それで切った物を燃やし尽くしたってー話だ。
銘は剣を表すんだよ。
だから俺が打った最後の剣、最高傑作の剣にも・・・ふさわしい銘をつけるべきだ、と、俺は思ったんだ。
そう。
これこそ、伝説の聖剣にも比する俺の最高傑作。
いや、それ以上!
いうなれば、スペシャルなエクスカリバーだな!
そんな想いで、俺が最後に打った剣に銘を刻み込んだんだ」
なぜか、悔しそうに残りの酒を飲み干す男。
「だが、剣の銘を刻める場所は狭いから、省略形で刻むしかなかったんだ。
つまり、刻み込んだ銘は
SEXCALIBUR!」
こうして、銘を刻み込まれた剣は、先の例に出したファイアブランドのように・・・
銘は剣を表し
性剣セックスカリバーとなったんだと。
こうして男は、今では女性用の大人のオモチャを作る鍛冶師として名を馳せているのだそうな。
――――――
かなり前に思いついたネタを、ふと、こんな形で語ると面白いかもしれないと思って書いたもの。
ネタ以外の部分、舞台や状況を表す文を書くのが、書いてて面白く無い、不自然、とか思ってしまってなかなか書けない為、時間がかかってしまった。
同じネタ、同じプロットでも、語り手を変えたり、視点を変えたりする事で印象がかなり変わりますね。
その中から、どれが物語の雰囲気に合っているか?とか考える訳ですが・・・この辺、語り口、スタイルが決まればそんな悩む必要無くなるのかな。
背景を書くにも、スタイルが決まらないと一話一話の雰囲気がちぐはぐな作品になってしまいそうで長編書けないし。
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