第4話 「ハッピーニューイヤー。」サンタクロースはこう語った。 2018-12-30

祖父の後を継いでサンタクロースになった彼は、空を飛べなかった。


いやいやいや。訳わからんし。


正確には、空は飛べた。

だが、空を飛んでいると白バイが追いかけてきたのだ。


「キミキミ、免許証持っているかい?」


免許証?

トナカイにそんなもんいるの?


不思議に思って、そりのダッシュボードを探ってみると、なんか出てきた。


「あー、キミ。これは1種免許だね。空は飛べないよ。」


トナカイに免許が必要だというのも初耳だったが、種類があるというのも初耳だった。

返された免許証を見てみると、証明写真には、うちのトナカイが写っている。

なかなかのイケメン、いや、イケトナカイに写っていた。


「じゃぁ、切符切っておくから。」


生まれて初めて切符なんて切られた。

先日18歳になったところだから、青春18キップというところかな、などと馬鹿な事を考えていると、手続きを終えた警官は去っていった。


しょうがない。空を飛べないのなら、道なりに進んでいくしかないか。


だが、飛べないサンタクロースは、ただの配達員である。

えっと。このプレゼントはこっちの方かな?

空から見れば一発で分かる場所も、地上で探し回っていると、皆目見当もつかない。


そっか。元から、1日で世界中を周るというのが無茶振りだったんだ。


世界中で、子供達が待っている。

だが、地面を走るサンタクロースは、いまだに秋田の地方をさまよっていたのだ。


「そういえば、友達がなまはげに間違えられたとか言っていたなぁ。」

もう、大晦日おおみそかである。

子供たちに、恐怖のプレゼント。

これはこれで、サンタクロースのひとつの形なのかもしれない。


そんなこんなで、プレゼントを配達して彷徨いさまよい走っていると、トラックに撥ねられてしまった。

18歳になりたての、大晦日の晩だった。




気がついたら、異世界に来ていたようだ。

トナカイに聞いてみると、こちらの世界に悪い魔王がいるようで、退治して欲しいとか女神様に言われたんだそうな。

ちなみに、俺は出会わなかった。


「っていうか、なんでトナカイがしゃべってるんだ?」

「そりゃ、あんさん。気にしちゃいけませんぜ。」

納得はいかないが、ここはトナカイがしゃべれる異世界なんだろう。


この世界の子供たちは、どんなプレゼントを欲しがるのかな?

森の中の木々の間を走りながら考えていたら、トナカイに突っ込まれた。


「あんさん、この世界には白バイおらんから、空飛んでも大丈夫でっせ?」


そうか。この世界には交通ルールとか無いのかな。

手綱をぐいっ!と引き上げると、トナカイの頭も上に向く。

そのまま、夜空に飛び出した。

空には1枚の月。

眼下には暗く広がる森。

異世界の夜景は、ただただ暗いだけだった。




「ミーナはね、お肉をおなかいっぱい食べてみたいな。」


しばらく飛んだのち、近くにあった村の子供のお願いがこれだった。

元の世界の子供たちと違って、お願いも素朴でかわいいな。


真夜中にお邪魔したというのにまったく物怖じしていなかった。

というか、サンタクロースが見つかっちゃっていいのか?という問題はさておいて。


お願いされたからには、黙っちゃいられない。

サンタクロースの袋が、火を吹く時である。

いや、本当に火を吹いたりはしないから。


サンタクロースの持つ袋からは、純粋なピュアな子供の願いに合ったプレゼントが出てくる。

ミーナちゃんの願いに応じて、ただのお肉の他に、ソーセージやハムなどの加工肉までぞろぞろと出てきた。


「わぁ。おいしそう!」

お肉を見て、ミーナちゃんは、とても嬉しそうな笑顔をした。

こういう時、サンタクロースやっててよかったなぁ、と思うんだ。


ちょっとちょっと!いくらおいしそうだからと言って、生のまま食べちゃだめだよ?

可愛らしい笑顔でお肉にかぶりつこうとしたミーナちゃんを止めて言う。

焼いて食べた方がおいしいんだから。

というか、生のお肉は寄生虫や病気が怖いんだからね?


村の広場で焚き火をしてお肉を焼いていると、良い匂いがしてきた。

焼けたお肉をミーナちゃんが喜んで食べていると、匂いに釣られて村の人たちがぞろぞろ出てきた。


やはり、怪しいだろうなぁ。

いつの間にか、知らない人が村に入っているんだから。

でも、お近づきの印に、と焼けた肉とか振舞ってたら次第に打ち解けてきた。

というか、みんな痩せこけてるな。

あまり食べるものが無いのだろうか?


落ち着いた所で、自己紹介をしてここの状況とかを聞いてみた。

想像した通り、ここのあたりは食糧事情はあまりよろしくないらしい。

・・・魔王のせいで。

なんでも、ここらへんは魔王領との境目あたりのようだ。

そういえば、トナカイのやつが魔王がどうのとか言ってたなぁ。


話を聞いてみると、近隣の村も似たような状況らしい。

よし!他の村にもお肉とか配って周るかな。


「あんさん、お人好しでんなぁ。」

と、トナカイが言う。

うるさい。サンタクロースだからいいんだよ!


結局、冬の間は、近隣の村々にお肉とか配り周る事になった。


トナカイが魔王を倒す、一年前の出来事だった。


――――――


年末の、とある自主企画に出そうと思っていた短編です。

いまいち言葉の流れがなー、とか、もう少し掘り下げたいなとか考えているうちに期限が切れてしまいましたので、こちらにて。

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