ごめんね、もう歩けない。


 ─セグロ、こっち向いて。私の眼を見な?」



 ┈時は少しさかのぼる。


 タイリクオオカミだよ。

セグロと夜通し話をしているうちに私は眠ってしまったようだね。元種は夜行性だっていうのに・・・。

 どうもフレンズになってから、勝手が違うようだ。


 外を見ると、日が少し上り始めた頃か。ヒトの言う時間で大体10時をちょっと過ぎたくらいだろう。


 おや、セグロも私もきちんとベッドにて横になっていた。机で向かい合っていたところで記憶がないのだが。


 どうやらアリツさんだね、手間かけさせてしまった・・・。


 因みに、セグロは私より小柄でベッドに連れ込むのは不可能だ。小柄の娘には取らせないよ、なんてね。



 ・・・何だか物足りない感覚だ。


 そう感じた瞬間に、そわそわした音を立てて部屋へ近づいてくる音が。


 この時分かった、物足りなさの正体が何なのか。そわそわした音じゃない、あの娘の元気な音が聞きたかった。


 キィィ・・・


 「目を覚ましたのですね!

キリ...キリンさんが朝になっても帰ってこないんです!!」


 アリツさんは、おはようの挨拶もなしにまずはそう言った。



──

───


 「セグロ、キリンは確かにへいげんへ行くと言ったんだね?」


 「うん、本当は内緒だけど・・・状況が良くなさそうだから!」


 大方、アルマジロに話を聞きに行ったってところか。

 アルマジロにも前にセンの話をしたことがあるから、少しややこしくなっている可能性もある。

 が、今それは問題ではない。


 「これから私はそこへ向かう。キリンは眠る時間がとても短いから、夜中のうちでも帰ってこれるはずなんだよ」


 「それならボクも行くよ!2人の方が見つけやすいし、・・・後悔したくないからね。

アリツカゲラさんもありがとう、また来るからね!」


 

 セグロもお礼をして外へ行こうとする。


「お二人とも気を付けてください!

セグロさん、ちょっとこちらへ。」


 アリツさんはセグロを少し奥へ連れて行く。


「オオカミさんとお話してくれてありがとうございました。

 これ、お守りになるかも。持って行ってください」



 「─え・・・?アリツカゲラさんがどうしてこれ を!?」


 もう扉の外へ出ていた私は、ここら辺の話は上手く聞き取れなかった。


──

───



 今日は晴れたが、雨が降っていたから匂いで足取りを追うのは難しい。だが、今回はセグロが居たから道のりはある程度掴める。


 少しイヤな予感がする。どうにか外れてほしいものだが・・・。



「一旦センの元住処へ行こう!行先はへいげんだけど、としょかんからの道のりとは少し違うからね!」


 セグロが私をしている。やられた、本当頼りになる娘だよ。


 程なくしてまず住処に到着する。話を聞くに、道中セルリアンといざこざがあってキリンと出会ったとのこと。

 運命ってホント奇妙に出来ているよ、こんなに惹かれ合うものかね?



 「ここも・・・懐かしいね」


 背丈の高い草木に囲まれた元住処。紙の束、今はもう古びれたクルミ木の机。

 あの時渡した絵、彼女はまだ持っているだろうか。・・・いや─


 「また後で来よっか。今はまずキリンを探さないと!」



 懐かしむ私を、先へ急がせるセグロ。

 少し歩いた先、森を抜けると開けた場所へ出た。


「道順に行けばあっちにへいげんがあるよ!だけどほら、あの橋を渡らないといけないんだ」


 セグロが言う先にへいげんがあるという。

 ・・・だがその前に。なぜ不自然に崩れた崖が目の前にあるんだろうか。



「・・・そこ、なんだろうね。逆方向だけど、先に崖下へ通じる道があるんだ。ボクが行って見てくるから、オオカミはへいげんへ─」


 この時、感覚が少し冷えていた。寒気というのか?効率より、何かを優先すべき感が働いてた。


 分かれ道を選んでいる感覚だ。

 でも、とても危険で危険な。



 考えた結果、この答えが出た。


 「私も行こう。仮に、*大きな荷物*があったらキミだけだと手が・・・足りないからね」


 「・・・大丈夫だよ、きっとそんなものない。でも分かった、一緒に行こう」


 皮肉だけど、2人でもまだ足りないとはこの時は思いもしなかった。


 下へ続く道を降り歩き、橋が上方に見える位置へたどり着いた。




 結果から言う。いた。



 キリンがうつ伏せに横たわっていた。


─┈─

┈─┈─

──┈─


 この時の私 視界が青と黒の縞々。つまり眩暈がする、吐き気もだ。頭も働かない。


 元はと言えば、彼女が私の役に立とうと思い立ったことによる事態だ。これでキリンがどうにかなったら、私は誰を不幸にしてしまうのだろう?



 まず目の前のこの娘を、か?

 おぼっ...


 「オオカミ、気を確かに!ねぇ!!」


 肩を揺らされている


 「ウ、ウワアアァァァ!!・・・はっ!ハァッ・・・!」


 耳鳴りの中セグロの声が聞こえた。

よく見ると前日の雨のお陰か、木の葉や粘土状の泥がクッションになっていたよう。

 キリンの外傷は殆どなかった。息もある。


 「─うぶっ..よかった・・・」


 思わずぼそり、早まるところだった。だが何だろう。

 


    様子がおかしい。




 眠っているように見えるが、揺すっても一向に起きない。

 泥の乾き方から見て、だいぶ長くこの状態でいるようだ。先ほども言ったが、怪我はしていない。


「ここからロッジに帰るには遠いか・・・。これは博士たちのところへ行って様子を見た方がいい。


 ちょうどそこにキリンを乗せられそうな板がある、これに乗せて2人で運んでいこう。後ろを持ってくれないか?」


 私の予想では、彼女の言う答えはこの2つのどちらか。 「分かった」 か 「ボクが前を持つ」 だ。


 だがセグロは、予想していない返答をした。



 「─ごめん、センの住処に忘れ物しちゃった・・・。先に行ってて、すぐ追いかけるから!」


 私の方を見ず、向こうを見ながらセグロは言う。キリンを連れて行くよりも忘れ物とか言い出した。

 

 キリンが気がかりだった。取り返しがつかなくなるかもしれないって。


 でも変な感覚だ。取り返しのつかなくなる感覚がに思えた。何に対してだろう。いや・・・考える必要もないか。



 「分かった、急ぐからすぐ追い付いてね。でも、私からも1つお願いがあるんだ─




 ┈


 ─セグロ、こっち向いて。私の眼を見な?」


 「え、急ぐなら─ 「いいから、向きな。」


 「─っ・・・」



 彼女は驚きつつも仕方なく向き直り、私に緑色の眼を向けてくる。しっかり、真っ直ぐに向けて。

 忘れ物とか言ってたが、どこか覚悟を感じる見え方だ。


「ごめんね。でも、キミはどこか別の意味で急いでるように見えた。どうしたんだい、教えてごらん?」


 考えてもみなよ?忘れ物、つまりキリンを助けるうえで何が必要になるか。


 水?薬草?ジャパリまん??

いずれも図書館いけばありそうだよ?



「ほんとに大丈夫!気にしないで、すぐ戻る─」


今度は私が、青と黄色の眼をセグロに向ける。


 女性はね、をつくときは、「どうしたの」に対して「いや、大丈夫」って言ってしまうんだよ。 



  ─理由を言わず、「大丈夫」。


「今、私は先を急ぐことだけ考えている。けども目の前のキミが何か感じ取ったのくらいは分かるよ?キミは敏感だから。

 何かいるんだろ?しかも私らを狙っている、フレンズじゃないのが」


 私と顔を合わせなかったのがいい証拠。

 周りは崖と瓦礫だらけで見通しが悪い。どこに何が隠れていてもおかしくないな。


 「キミは1人で背負おうとしたね?それは自己犠牲だ。

 私もキリンも、のように元凶探しに明け暮れることになるよ。




 ─キミのためにね」


 「で、でもキリンを早く連れて・・・もし何かあったら・・・」


 セグロは言葉を詰まらせている。



 「いや、キリンは今のところ姿も保っているから大丈夫だ。

 それに彼女、一人で背負わせるなんて絶対に望まないよ」


 セグロも、私とキリンに降りかかる「もしも」がとても怖かったんだ。

 だからと言って自分だけで・・・それは違うだろう?


 「私たちでやろう。このまま変な物まで博士たちの所へ連れ込むわけには行かない。

 それか、私にここを任せてキリンを連れて行ってくれるかい?」



  「やだよ!!それはだめ!!!」


 ほぉらそんなしかめて、いい顔頂いたよ。そういうことだ。


 


 私がキリンを担ぎ後方をセグロについてもらう。


 博士たちのとこへ正体不明を連れ込むわけにも行かないが、敵を探して奥へ行き過ぎるのは危険だ。来た道を戻りつつ警戒。所々、泥濘ぬかるみが危なっかしい。



 「汚れた気配を後ろからずっと感じる。場所が分からないけどついて来ているよ・・・!」


 パトロールをしているだけあってか、嗅覚や視覚だけでなく別の感も優れているね。


 「崖上へ戻ろう。私たちも危険だけど、いざとなったら突き落とすように仕向ければ大丈夫だよ」


 *大丈夫*・・・か。私まで心配掛けないような言葉を使うとはね。


 「オオカミ、随分物騒なこと言うな~・・・」


「予想では、少し狡猾なセルリアンだと思っている。心配無い、私たちは経験済みだろう?・・・」



   ─・・・?


 セグロが私の方を向いて話を聞いている瞬間。視界左隅、向こうの瓦礫で揺らぐものが見えた。


 ・・・!? 音。向こうから何か走ってくる!


 大きさは私たちとさほど変わらないが、フレンズとも姿がよく似ている・・・?

 少し遠めでよく分からないが姿は暗くて・・・。


 周りは崖壁、陽は高く昇っている。

手には身体から伸びた何かを構えている・・・?

 逆光からか─



 ・・・違う、アレは黒い!真っ黒い何かだっ!!



 「セグロ私の後ろへ!多分アレだ!!」

 「え・・・?うわっ!」


 敵に背を向けているセグロの左手を、強引に後ろへ引き私がおとり出る。向こうは、脚を出して蹴りをする格好だ!



  フィィ───ン...!

 「スゥゥ─...ウアァァッ!!!」


 野生解放させつつ狼の咆哮を浴びせる。

 牙と爪だけ、だと思ったか?


 怯んだのか、あるいは私にも 発勁はっけいが出来たのか分からないが、ヤツの格好と蹴りが右へ逸れた。

 

 さらに、カウンターの要領で私も左脚を繰り出してヤる。 首元を狙い上手く当たり、後ろへ吹き飛ぶ存在。


 ※ 力を発すること。

触れずに勢いだけで吹き飛ばす様。


 この時、姿が見えた。 コイツ・・・!


「大丈夫!?ごめんね余所見し て・・・─え?」


 セグロが駆け寄ってくる。そして彼女も気づいたようだ。


 顔部分いっぱいに1つの目、セルリアンだ。ここまでは予想出来た。



 だが姿。



尖ってない角と長ブーツ、何より一番目立つ長いマフラー・・・これじゃあ─


「キリンの姿だ・・・あのアミアミ模様ないけど・・・!!」


 確実にキリンの影響を受けているなこれは。奪われたか、再現されたか・・・


「ただ少し安心した。キリンは元種に戻ってない。つまり完全に奪われてはいないから取り戻すことは出来る」


「どうすれば取り戻せるの・・・?キリンいなくなるのイヤだ、何でもやるよ!」


 生半可じゃないね。何でも・・・か、いいね。


「方法自体は簡単、倒せばいい。けど、もう1つ安心したが、もう2つ不安が生まれた」



 彼女は疑問そうな顔をしたが、私は続ける。


「前に、他の娘も少し奪われたことがあってね。その時は砕いて倒したら取り戻すことが出来たんだ。


  ただ・・・セルリアンは水をかけるなどしても固めて倒せる。それで取り戻せるかが分からないんだ・・・」


 今回は、かばんの時よろしく直接取り込まれているわけではないからまだどうにかなると思うが・・・


「それが不安なんだね・・・じゃあ、もう1つ安心したことは?」



「大したことじゃ無いけど、2人で来てよかったってところだよ。どうにか出来る、今のところは」


 私1人だと怪しかったと思う。何せ・・・


 「そしてもう1つの不安だけど─」


 話そうとした瞬間にセルリアンが動き、マフラーにあたる部分をムチのように振りかざすっ!

 それを私らは何とか左右に分かれて回避。



 「オオカミ短めに!不安なことって何!?」


 向こうからセグロが声を掛ける・・・。


 「─コイツは知らないが、キリンは強い!蹴りとマフラーに気をつけるんだ!!」


 セルリアンが、左右の私らを交互に見定めている・・・。



 ─こっちに来たっ!いいよ上等だ!!


 セルリアンが右足に角度をつけ下から上に薙ぐ。

これを左腕で受ける、がっ・・・こっちの腕が砕けそうだ!ヤツの石は何処だ!?


 首か、そのでかい胸の丘か?先ほど首に蹴りを入れても手ごたえがなかったので胸部を右の爪で狙う。


   ─ズリャッ!!


 ───ッ!!


 ヤツ、声にならない音を出している。一部ソコをそぎ落とすが、弱点ではないらしい!セルリアンを裸にしても何も嬉しくない!!



 「こっちならどう!!」


 ヤツの後ろからもセグロの爪。角ごと後頭部を削るがここも違うらしい。


 「うわっ・・・!」


 何かを感じたのかセグロは一度後ろへ。

いい、蹴られるとマズいので下がる判断は正しい。



   ─ビュウンッ!


 ヤツは執拗に私を狙ってくる。・・・え?


 今、おかしいものが見えた。

横なぎにマフラーの先端が飛んできた、使!?


後ろへ避けられず、エビ反りで逸らし躱すが─

良くなかった。



 ─しまった!!


一瞬上へ目を離した隙に、ヤツの両手に当たる部分が私の首根っこを掴んで押し倒していた。


  ─ギリ..ギリ.. ─ギリ...


 「うぐッ・・・くはっ・・・ァ...」


 ものすごい力で私に跨り首を締めあげる。眼の光が弱まっていくのが分かる。


 ぐぅ・・・ァ...これはヤバ..いかもね..。


「ウゥ、お前!オオカミを離せえェェッ!!!」


セグロも解放させつつ後ろから飛び掛かるが・・・


 

  ──ジィッ! ギュウゥゥ!!



マフラーから伸びる両方の先端が、セグロの腕首を締め上げている。

ヤツは私を両手で締め上げ、伸びるマフラーだけでセグロを締め上げている。


コイツ、やっぱりマフラー自体を腕みたく動かしている。触手とか、そんな風なのか。


だが、ヤツが後ろへ意識が行ったおかげで締めが弱まった。

跨るヤツのお股に地面から膝蹴りをぶち込み何とか脱する。だが、ここも弱点ではないようだ・・・。


 「...ゲェッ!ゲホッ・・・!!」


 必死に脱したのはいいが、息が出来ない。また吐き気もする。


 「ぐぅは...オオカミ、無事!?ごめんね助かったよ・・・!」

 

 「..いや、ハァ..助かったのは、私だ。ありが..とう。それにしてもコイツ・・・」


 ・・・セグロが私の横に来て肩を貸す、彼女も何とか解放されたようだ。


 「うん、ボクも..分かった。手足が・・・実質6本だね、厄介だ・・・!」


 挟み撃ちにしても苦戦する。おまけに後頭部や首元、胸部、お股と急所になりそうな部分を攻撃したのに石が見当たらない・・・。


 「首はマフラーに当たる部分があって攻撃が届かない、脚かマフラーを削ぐ必要がある」


 静かにセグロは口を開く。


「・・・ボクにやらせて欲しい。オオカミはヤツの後ろ─」


  ────ッ!!!


 「邪魔すんじゃないよッ!!」


 こちらが話してる間にも、奇妙な音を出しながら向かってくる。対し、私は唸りつつ砂を脚で巻き上げ眼に牽制。



 「続き。ボクが行く、オオカミはヤツの後ろから。上手ければ2本シてやれる。いや、する」


 ・・・怖がりつつも覚悟をしている様子だ。考えがあるのか?これは止められ─


    ──ッ! ──!!!



 瞬間、マフラーの触手が飛んでくる。

 こいつホントさっきからっ!!

私は横に跳んで避けたが、セグロは打ち付けられて背中から崖壁にぶつかっている・・・!


 ヤツ、今度は遠ざかった私に目もくれずセグロの方へ向か─ 速いっ!

 

 ダメだ、駆け寄れない!!


 「ウゥ...くぁ・・・」


 尻もちをついているセグロに、

 刃のようなマフラー2本。




 ..ヤバい、セグロが千切れ..る。

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