昨日も明日も、もう遠い。


─◆


 「セン、私の目を見なさい!」


「・・・どうしたのです。さっきのことでまだ何かあるのですか?」


 私キリン達は駆け上った道をしばらく下り、最初の場所まで戻る。少しして球下げセルリアンのいるところまで到着した。


 聞くに、セン達が目を離してからヤツの様子は変わっていないよう。

 そこで状況を確認し、目を見させた。


 して、センは私の目を真っ直ぐ見返す。


 知っているかしら?何処かの種族のオスは、ウソをついたら目線を背ける動作を取りやすく、逆にメスは真っ直ぐ向ける動作を取りやすいんですって。


 「キリンの目は、群青よりも深い青色をしていますね。」


 対して彼女は、奥で揺らいでいるわね?ごまかしている証拠。

 オオカミ先生について何でしらばっくれるのか聞きたいところだけど、それはまぁ後ね。


「よし、ありがとうね。で、セルリアンがどういう性質を持って、近づけないのはよく分かったわ。


まず聞くけど、貴方たちは何か作戦あるの?たった一人私が戻った程度で」


 少しイジワルっぽい聞き方をしてしまう。


「2人と3人はすごく違うよ!きみは見てないから分からないだろうけど、私たちは攻撃に優れたフレンズじゃない。でも、キリンはすごいよ。

 強い蹴りが出来るし、そのマフラーも遠くへ伸ばせるみたいだしね!

 一言で言うとキリンが羨ましいんだ!」


 まずはオルマーが長々と私を褒め上げてくれる。さっき、私とセンとの対応を見て、本当は怒りを感じていたはずなのに。


 後ろめたい感情を忘れこんで他者を磨くことを思っている。すごいなんて言葉じゃ足りない。センの最愛のパートナーなだけある、いいわね。


 むず痒い感覚だわね・・・悪くない。



「2人だけだとヤツの性質で近づけなくなりますが、3人いれば攻撃は2人にしか向きません。

 理由として脚は4本、3本で攻撃しようとすると身体の支えがなくなるからです。


つまり、2人が牽制している間にあと1人で少しずつ石を狙って攻撃していけばいいんです。」


 頭での攻撃方法が失せているから確かに、安全面でもいい判断だと思うわね。


 でも貴方、聞いた話だと昔はそんなんだった?


「チビチビ行く判断もいいわね、変なケガは出さないに越したことは無いわ。


 けど、そうじゃないでしょ?」



 「・・・何が言いたいんです?」


 センは、少し私に対して食ってかかる。貴方にだって、譲れないものがあるんでしょう?

 ほら、素っ裸にしてやるわ。


「いや、貴方たちは防御すれば余程のことがない限り無敵。さっきの崖崩れでさえ耐え抜いたんだし。


ならばその無敵のまま攻撃すればいいのよ!」


 センもオルマーも訝し気な顔をする。


「いやキリンさっきも言ったけどね、あいつには近づけないんだ!

あと私たちは丸まる行動をしながら動作が出来ない。そんな万能じゃないんだよ、何でも屋って言うけどさ・・・あー悲しいなぁ。


 何か威圧みたいなの感じて─」


「それはもう分かったわよオルマー。

それをさせるために私がいるの!」


オルマーは止まらなさそうなので静止をかける。


「要領を、得ませんね・・・はぁ、そろそろどういう事か教えてくれませんか?」


 あ、センの様子から見て少し察したようね。

 ふっふっふ・・・ 流石に同じ探偵なだけあるわ。 あ、セン自体は探偵じゃないんだっけ。


─っと、浮かれているのバレないように。恥ずかしくなるからね。



「何てことないわよ。ヤツの弱点へ向けて思い切り飛ばす。丸まったあなた方をね、それだけよ!」


 オルマーはこの意見を予想していなかったらしい。少し硬直したのち─


「─はぇ!?」

「・・・全く、貴方は仲間を投げる気でいるのですか。」


 驚きからかオルマーに至っては、はぁ と え が同時に出ている。 

 だが私は全く動揺しない。


「おかしいかしら?どっちみち誰かが近づかないといけないのよ?ならば、鉄壁を弱点へ向けて投げた方が確実だと思うわ。


 何なら私も攻撃するけど、ヤツがバランス崩して倒れてきたらどうなっちゃうのかしら?

 私、砂星みたくなってるし衝撃で砕けちゃう。怖い、怖い!


 あなた方なら野生解放しながら丸まれば、それこそカウンターが取れそうなのに」


 セルリアンには、野生解放していない状態だと内部に取り込まれるが、野生解放していると反発し合い内部に取り込まれずぶつかるという状況になる。


 「キリン、さっきはびっくりしたけどよく考えてるね。私なんて丸まればそれで大丈夫だと思っていたからなぁ。でも投げるって言っても、センちゃんはともかくとして私は意外と重たいよー?自慢じゃないけども・・・」


「もし、貴方が投げ方を間違えて私らが足元とかから脱出できなくなったらどう拾いに行くので?」


センはさほど不安そうにしていないけど、もしも を聞いてくる。ふむ、いいわね。


「ふっふっふ、そこも想定済み!私のマフラーよくごらんなさい!」



そう言って私は両手を腰に組む。ポイントは腕を三角形に、よ!

 そして今だからこそできる芸当、存分に生かしてやる。



 マフラーを動かす、それはもう慣れたように。


でも使、さながら手足のように!




 「な!?キリンのマフラーが・・・!!」

 「貴方の前足はマフラーだったんですか!?驚いた。」


「いや、私の前足は腰に据えてるこっちで間違いないわ・・・」


 ・・・センは、天然かしら? 

普段はマフラーを鞭のように振るわないと攻撃できなかったけど・・・。


 種明かしをすると、今の私はサンドスターの性質に似た状態!つまりプラズムのマフラーとも性質が近づいて自分の手足のように動かせる!!


「回収なら私のマフラーを思い切り伸ばして拾うわ」


そして分かったことがもう一つあるの。


「それと私の友達でね、アフリカゾウってフレンズがいるの。その娘は元からマフラーを手足みたく操作できる。私は普段それが出来なかったの。


 でも考えてみて?ゾウは骨のない鼻、かたや私のようなキリンは骨が通っている太い首がマフラーとしてプラズム化した。


 まぁ今限定だけど、どちらが力と精密性が強いか・・・分かるわよね?貴方たちも私も、絶対安全に勝つわ。センの言葉を借りるなら─



「"行動で以て証明"」か」



 此処まで言って、スフィアの二人はグゥの根も出ないようだった。


「確かに・・・キリンは距離を保ちつつ無敵の私たちを投げつけるわけですから・・・そうですよね。」



「分かる、分かるよー!キリンすごいね、私は丸まったら防御の事しか考えてなかったから本当に驚いてる!



─私もその時が来たら試してみるよ!!」


 オルマーは、なにか光明を見出したようね。


「それって貴方もそのうち私を投げつけるってことですね!?

まぁ、無敵と言う証明をするのにちょうどいい。それこそ私の身を以て・・・。」


  ・・・。



「それにセン、貴方も投げられたままでいるのも悔しいでしょ?こっちも習って工夫すべきよ」


 貴方も覚えてるはずでしょ?



 ─私を避けて!


 ─スバァン!!

 ─「イ゛ッだぁ!!」



「もういいです・・・キリン、やっぱ貴方にはアレをどうにかした後で話があります。もうここまで来てしまったのなら仕方ない。」

 

 私も話したいことがいっぱいある。


 この時オルマーは当然だけど、よく分からなさそうな顔をしていた。


 ふっふふ・・・でも、油断しちゃだめよ!?



 「ちょっと試すわよ!ほぅら高い高ーい!!」


 「うーわわ何だ!?キリンその言い方やめて!後で覚えておきなよー!」


 ちょっと重いが、オルマーを両から伸びたマフラーだけ使って持ち上げて見せる。

 よし、いい力の入り方だわ。


  後に備えるべきは[お話]と[覚えておく]ことだわね。



 「よし、オルマーからまずは投げるわよ!出られなかったらまずはそのままでいて。向こう側へ届いたならガードを解いて待機していてね。もちろん野生解放は忘れずに!」


 「キリンに委ねるよ!上手く頼むね!」


「まぁ、手並みを拝見します。今の貴方は、任せてしまえばどうにかなるように見えて頼もしい。認めますよ。」


 実は、この地点で少しイジワルを2人に言っていた。

石の場所はすでに判明していた。ヤツの4つ足の中心。つまり、お腹側。

だが地面にすれすれに面しているんだから普通に真っ直ぐ投げても当たるわけがない。


 だから、1人を投げて脚元へ潜り込ませ、そこから攻撃させる。

 ・・・ところだけど、セルリアンのもつ威圧の性質上無理ね。


だから、そのまま野生解放しつつただ丸まっててもらう。

私がもう一人投げつけて、その反射で石を破壊して見せるわよ!


例えるならビリヤードの球かカーリング、或いは2発目が反射して跳弾になる可能性もある。反射なら、高めに投げる必要もある。

だが、キリンは今までの操作性から相当な自信をつけていた。


ここまでは、あくまでこれは想定している状況。果たして上手く行くかしら。

いや行ってもらうわ。こっちだって命掛けているんだし。


もう少しだけ叶ってもらうわよ。叶え。



 ┈

 ┈┈

 ┈┈┈▼


 「ハァ・・・ハァ、何だこいつ...!」

 「手足が・・・ハァ、実質6本だね、厄介だ・・・!」


 タイリクオオカミだ。今この場面、セグロと2人戦慄している。

 でも少し幸運に思っているのは、パートナー1人に背負わせずに済んだってところか。



 ─終わるんだとしても、1人では終わらせないから。


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